[G] androgynos (ανδρογυνος,
androgynos, ho, | as Adj. common to men and women),
[D] Androgyn, der (アンドロギューン),
Androgynie, die (アンドロギュニー), [L] androgynus, m,
[E] androgyne,
[F] androgyne, le
/名詞兼形容詞/。古代ギリシアからの神話的表象。「アンドロギュノス」
は、男・夫を意味する「アネール aneer, ho(ανηρ)」と、女・妻を
意味する「ギュネー gynee, hee(γυνη)」の合成語で、文字通りに
は、「男女(おめ)」と云う意味である。プラトーンの『饗宴』において、原
初の人間のイメージとして神話的に語られる。古典ギリシアにおける、観念上
での「理想的人間」のイメージであり、ローマ時代でも、理想イメージであっ
たが、現実上の両性具有は奇形と見做された。グノーシス主義においては、プ
レーローマの至高アイオーンは、両性具有であるとされ、神と人間の「本来的
様態」は両性具有存在であると考えられた。
アネールに夫の意味があり、ギュネーに妻の意味があることから、「アン
ドロギュノス」で、男女の完全な結合・一体化、「聖なる婚姻」を象徴し、ヴァ
レンティノス派の秘蹟として、「新婦の部屋」の秘儀があった。これは、心魂
(プシュケー)を花嫁とし、霊(プネウマ)を花婿とする、心魂と霊の神秘的
結合の秘儀で、プレーローマにおいて、救済された霊魂が到達すべき至上状態
=両性具有を象徴的に実現する儀式であった。(通常、人間の「魂」は霊に対
して女性として表象され、男性である「霊」との「聖婚」において、人間の完
全性が実現・再現されると考えられた。このような「聖婚」の概念はキリスト
教においても底流する)。
プレーローマ界の至高アイオーンは、男性アイオーンと女性アイオーンの
対(シュジュギア,Syzygia)となっており、それぞれのアイオーンが、その伴
侶と共に両性具有を実現すると同時に、アイオーン自体が両性具有であった。
アイオーン・ソピアーは、伴侶の男性アイオーンを無視し、別個に活動した至
高女性アイオーンであり、これは、「心魂(女性名詞)」の「霊(中性名詞)」
より分離された不完全な状態を神話的に象徴しているとも云える。アイオーン
・ソピアーは、「完全性=両性具有性」を保証する伴侶(シュジュゴス,Syzygos)
を拒否したが故に、プレーローマよりの落下が引き起こされるのである。また、
その結果として、霊より分離して、「肉」に結合された心魂の非本来的ありよ
うが、地上の人間の霊魂においてもたらされた。グノーシス主義においては、
救済は、霊と心魂の両性具有の回復にあり、また、地上的・肉的「性」の超克
と、人間の霊的両性具有化にあると云える。
(追記)
オグドアスを構成する八個の至高アイオーンは、実は、実体的には四柱の
アイオーンであり、彼らが「両性具有」存在であり、その男性的位相が、例え
ば、「知られざる先在の父=プロパテール(プロパトール)=ビュトス(深
淵)」の場合、「プロパテール」であり、プロパテールの女性的位相が伴侶
「エンノイア=シーゲー(静寂)」である。また、オグドアス以下の高位アイ
オーンは、両性具有性は、男性アイオーンと女性アイオーンの「対」によって
実現されており、それぞれのアイオーンは、「性別」を有すると云うのが一般
論である。
しかし、これでは、人間の魂の救済としての「両性具有」の再現・回復と
云う理論と齟齬があるように思える。グノーシス主義の理論は、文献の写本作
成時に、その「グノーシス的現存在による神話創作」と云う想像特性から、原
文が機械的に複製されなかった為か、または、元々、人間の「思考力」を越え
た「至高真理」を教説する故か、合理的に考えると、矛盾していると思われる
記述・主張が、同一文献のなかにも存在している。
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