実用新案・盗電防止開閉器
古谷式電気スイッチ



はじめに
古谷三郎の話
 明治期、京都市営繕課の建築技師古谷三代吉は妻トミとの間に、男5人女4人の子供を設け、その中で明治40年生まれの三男、三郎のみが平成9年に没するまで平穏且つ平凡にに過ごしました。
古谷家と家族は三代吉の健在なときには、当時としては比較的に裕福に暮らしていたようです。
しかし大正5年9月に突然に三代吉が49歳の若さで没してからは、三代吉の事業(大正元年に京都市市役所を退職し独立す。)古谷工務所は、後継者も無く閉鎖され、赤貧の時を迎えることになる。三郎 8歳のときであった。
 尋常高等小学校を卒業し一時表具師に弟子入りするが、暫し後当時最先端の電気設備の会社に就職する事になる。強電(電気設備)と弱電(通信機、ラジオの組み立て等)を勉強し、技術屋としての才能は早くから開花する事になる。そして特許や実用新案を申告し数々取得する。
詳しくは、(古谷三代吉の設計図面と資料解析) を参照ください。
その中の一つに、古谷式電熱器(電気コンロ)の実用新案がある。40uほどの町工場で、6人ほどの人数で製造販売をはじめ、電気コンロは当時飛ぶように売れた。事業としての体制が整ったかに見えたが、営業を任した社員に裏切られ集金したお金を持ち逃げされる。さらに製造のノウハウを他の会社に売り渡された。その結果仕様を少し変えた商品が出回るようになる。裁判は長引きじり貧になったと聞いている。
更に近隣に住み、家内工業を経営する男に税務所に脱税していると通報され、国税局の査察を受けることになる。三郎は見に覚えの無い嫌疑をかけられ、途方に暮れるが多大な借金をして税金を支払う。
せっかく軌道に乗りかかった事業もここで頓挫する。
 日本経済は戦後の混乱から徐々に復興し新しい物を生んでゆくのである。昭和20年代半ばに入った戦後間もない頃の話である。
 この実用新案の話は、もっと古い話で昭和10年2月に申告
された話である。
三郎は既に独立して古谷電気商会という会社を興していた。
世間は不景気の嵐の中にあった。そのような時代背景の中
で、電燈会社(今の関西電力)の引込み線からの盗電が頻
繁に行われていた。電気代を支払うのも大変な時代だったの
であった。暗くなったら灯かりをつけ、風呂にヒータを入れて湯
を沸かし入浴する。しかし其の為、感電による死亡事故、また
漏電、過熱による火災が多く発生したようである。
そこで三郎は、盗電防止と人身の安全のため、盗電防止開
閉器の実用新案を特許庁に申告し認められた。

 平成16年初夏、管理人は書籍の整理中、実用新案の内容
と図面を偶然に発見し、特別編として公開するものです。
 
実用新案登録願
 実用新案ノ名称   盗電防止開閉器(古谷式電気スイッチ)
私儀別紙図面ニ記載スル物品ニ付実用新案登録相受度子此段相願候也

     京都市左京区・・・・・・・・・・・
         出願者(考案者)
     昭和10年2月28日          古谷友彦 印・・・(友彦は通称)

  特許局長官 中松眞郷殿


添付書類目録
         一. 説明書  正副各一通
         一. 図 面  正副各一通



説 明 書
実用新案の名称
盗電防止開閉器
図面の略解
 第一図は本考案の盗電防止開閉器を示す側面斜視図。第二図は其蓋盤の斜視図にして金属板を除去し其内部を表す、第三図は金属板を嵌挿せる蓋盤の平面図を示す。第四図は金属板の平面図。第五図は第一図中の鎖線(B)−(B’)に沿ふ裁断面を表し、第六図は同じく(A)−(A’)線に沿ふ裁断面を表す。第七図は第二図の平面にして之に第四図を連結せる場合を図示せるものなり。


実用新案の性質作用及効果の要領
 本考案は絶縁体なる匣(ハコ)に下部より挿嵌し得へき絶縁体の蓋盤を設け溜りに蓋盤の抽出及び蓋盤に取り付けられた金属板の自由開閉を行わんとする電気安全開閉器の改良に係わるものなり。
 図面に付き之を説明す。匣(a)の内側左右にそれぞれ一條の凹溝を開穿して蓋盤(b)の挿嵌を可能ならしむる一方該蓋盤の裏部及び匣の内底には普通安全器に於いて見る如くそれぞれ相対立する上下二対のL状接触片(2)(2’)及び(3)(3’)を設け蓋盤を凹溝(1)に沿って匣に挿嵌する際に是等上下の接触片がそれぞれ必然的に電気的接触をなし得るものとする。而して蓋盤の表面には盤内に装置する「ヒューズ」(4)の短絡部分を保護すべく裏面絶縁体を以って、金属扉板(6)に依りて之を掩蔽し該扉板と蓋盤(b)とは蝶ホ(5)を以って図の如く連結するゆえに(第七図参照)其の開閉は自由に又匣(a)の両側面にはそれぞれ一個の孔(7)を設け「ボード」(8)に依りて之を貫通挿嵌し該「ボード」の尾端(9)は螺着して封減を施す。
蓋盤の裏部には一定限度(匣内の電機機構、外部よりの蝕弄を不能ならしめ得る程度)に於ける蓋の抽出を可能な位置に於いて図の如く凸状突出部(10)を設け、又金属扉板(6)の中央には蓋盤の表部中央の突起(11)に対して挿嵌しえた缺孔(12)を有するものにて匣の正面上部は蓋盤を覆る金属板版(6)の一部を更に掩蔽するために直角に曲折する平面(13)を有するものなり。
 本案の構造上の如くで蓋柄(14)を以って蓋盤(b)を下方に抽出する時は電流の上下の接触片(2)(2’)及び(3)(3’)の離脱移動に於いて絶縁せられ、且つ蓋盤(b)は其の裏部突起(10)のの障碍を受けて遮断されるがゆえに其れ以上の抽出を不可能ならしむべく又他方蓋盤の先端面の部分は匣の上部屈曲面(13)に依りて依然掩蔽せられいるを以って此儘にては匣内の装置に対しなんら手を触れる間隙を得興へさらしむべく強いて之をなさんと欲すれば封緘せる「ボード」(8)を除去する外方法なきものなり。次に「ヒューズ」(4)取替えの際は蓋盤を下に抽出移動せしめ引手(15)に依りて金属扉板(6)を開いて取り付けをなしえんものにして此の場合「ヒューズ」取り付けよう金属(16)は接解片(2)(2’)及び(3)(3’)の離脱に因り完全に電気的絶縁が行われているのもなり。而して此の蓋盤を下方にしない限り金属扉板(6)の先端は匣の上部屈曲面(13)の防壁に妨げられて絶體に離脱する事なきが故に其の開閉を不可能ならしめ従って電力盗用を防止得るものにして、尚金属扉板の中央に挿嵌せる突起の小孔(17)の部分に封緘を施せば定額電気需要家に使用して更に効果あるものとす。
登録請求の範囲。
 図面及び説明に於いて示す如く匣(a)の内側左右に一條の凹溝(1)を回穿し蓋盤(b)の挿嵌を可能ならしめ蓋盤の正面上部は直角形曲折面(13)を呈せしめ蝶ホ(5)を以って連結された絶縁装置の金属扉板(6)の先端部平面か該曲折面(13)によりて完全に掩蔽される如くなし。
蓋盤の表裏両面の一部なは、それぞれ凸状突起部(11)及び(10)を設け其の表部突起(11)は該金属扉板中央の缺孔(12)に挿嵌し得へく為し。他の裏部突起(10)に対しては蓋盤の抽出程度を制限する為に匣の両側の孔(7)を通して挿入する「ボード」(8)を設け該「ボード」の尾端(9)及び蓋盤表部突起に設けた小孔(17)をそれぞれ螺着封緘することによりて盗電を防止する電気安全開閉器の構造。

                                       古谷三郎 印

あとがき
大筋で原文のまま記載しておりますが、解り難い漢字や解り難い表現の箇所が多数ありますが、
電気の専門知識のある方がご覧になれば理解されると思います。
2004・7・2    管理人
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