2月6日(日)銘酒蔵めぐりレポート ある日、新聞を見ていると、山形県酒造協会が主催する「やまがた 銘酒蔵めぐり」という文字が見えた。毎年見ているような気がした が、いつもはさほど関心を持たなかった。しかし今年は、利き酒の 際に蔵元見学をしたせいで、他の酒蔵にも興味が沸いてきていた。 その切抜きを芳賀さんに見せると、芳賀さんも気になっていたよう で早速参加を申し込んでいた。幸い抽選に当たり、パスポートと今 回参加している蔵の地図が送られてきたそうだ。見ると、蔵によっ て公開している日がまちまちで、作戦を練る必要があるようだ。 私は家庭の事情もあって、一日くらいしか参加できそうにない。ち ょっと残念だが、的を絞って行ってみたいと思う。今回の参加蔵は 置賜地方に集中している(あとで知ったことだが、今年の幹事蔵が 樽平だとのことで、そのせいもあるのだろう)。 試飲ということを考えると、希望としては「出羽桜」に行ってみた いところだが、まずは置賜地区からということで「米鶴」「樽平」 という大きめのところを狙ってみた。個人的には「樽平」の樽臭さ は好きではないのだが、呑みに行く訳でもないので問題無いだろう。 見学の前日になって、ずっと昔に書店で見かけて購入した「やまが たの酒蔵」という本があることを突然思い出した。今までお蔵入り していたが、ようやく日の目をみるわけだ。今あらためて読み返し てみると、なかなか面白いじゃないか。なんだ、もっと早く読んで いればよかった。 基本的に、山形の全蔵元がA5サイズで(写真入り)紹介されてい る。本としてはA4サイズなので、1ページに2軒紹介されている わけだ。パラパラと見ていくと、「羽陽弁天」という酒の蔵元が良 い雰囲気を醸し出している。行ってみたい衝動にかられる。しかし、 すでに電話で予約してあるので、明日の予定を変えることはできな い。 当日、2月6日(日曜日)くもり。雪にならなくて良かった。しか し、かなり冷え込んでいる。この日は午前の部(10:00〜11:30)に 「米鶴」、午後の部(13:00〜14:30)に「樽平」の予定。芳賀さん と私のほか、菊地君も参加。08:00に仙台南IC.付近で待ち合わせる。 聞けば、芳賀さんは昨日早速蔵をまわってきたそうだ。なんとその うちのひとつが「羽陽弁天」。うっ、くやしい。昨日は、芳賀さん を入れて2人しかおらず、麹室で麹まで触らせてくれたそうだ。そ のうえ蔵元さんとコタツでいろいろ話を聞いたという。やはり行く なら小さい蔵にしておくべきだったか... それはそうと、菊地君がなかなか来ない。高畠まで 10:00に行くと 考えると、あまり余裕は無い。08:15まで待って来ないときには先に 行こう、と思った矢先に菊地君到着。みんなで芳賀さんの車に乗換 えて出発。国道 113号を通って行こうと考えているんで、白石まで の高速がポイント。とばすとばす。 08:30すぎには白石市内を走っ ていた。 113号線に入るとあまりスピードは出せない。こういう急いでいると きに限って前に遅い軽自動車などが走っているものだ。見通しの良 いところで追い抜く。途中、七ヶ宿ダム脇の道の駅でトイレ休憩。 ここまでかなり良いペースで走ってきたので、どうやら時間通り到 着できそう。 県境が近づくにつれ道端の雪が多くなっていく。雪の量がピークに 達した頃、県境のトンネルに入った。この二井宿峠、以前は山形県 側に入った途端に狭い「くねくね道」になって大変だったのだが、 現在は長大トンネルの連続で快適に下っていく。 下りきったところが二井宿の町。そこからまた少し走ると左手の田 んぼの中に高い煙突が見えてきた。これが「米鶴」の工場だった。 今まで何度も走っているはずなのに、まったく気にしていなかった。 ちょっと早めに着いてしまったみたい。 構内に入ると、係の人が出てくる。倉庫2階の会議室(?)のよう なところに通されて、封筒に入った資料を渡される。机の上に用意 されている封筒の数を見ると、本日は15人くらいかな。壁には酒 造りに使う道具類各種や、いろいろな酒米(稲穂のまま)が展示し てある。「亀の尾」の実物は初めて見たが、確かに背が高くて倒伏 しやすそうではある。 そのうち、人が集まってきた。60過ぎくらいのオバちゃん4人組 や50代くらいの夫婦もの、しまいには4歳くらいの女の子を連れ た老夫婦まで現れた。うーむ、子供を連れてくるとはちょっと私に は想像できない。第一、見学の間、静かにしてくれるものだろうか? ある程度集まったところで、早速見学。今年は雪が少ない。いつも ならもう何回も倉庫の屋根の雪降ろしをしている頃。地面が見えて いるなんて本当に珍しい、とのこと。蔵の入り口に、トロッコのレ ールが見えている。昔はこれを使ったのだろう。鉄道好きとしては とても気になる。一応写真で押さえておく。 中に入ると甑があって、米が蒸し上がって少しずつ放冷機に送って いるところだった。みんなに少しずつ食べさせてくれる。初めて食 べたが、炊くのではなく蒸しているので、仏さんにあげて少し経っ たような感じの、パサパサポロポロという米である。お世辞にもう まいとは思えない。これがあの酒になるかと思うと不思議。 麹室は、やはり杉の板が貼ってあるきれいな部屋だった。ガラス戸 越しに中を見せてもらう。入り口のそばの机に「もやし」(種麹)が 置いてある。吟醸に使う「もやし」は、さすがに桐の箱に入ってい る。たぶん値段もそれなりにするのだろう。 ここで、各発酵段階のモロミを飲ませてもらう。順に飲んでみると 甘酒のような状態から徐々にアルコールっぽくなってきて面白い。 なんか、みんな飲んだ利き猪口を順番を気にせずばらばらに置いて いるように見える。いいのかなぁ。ふと見ると、あの子供に飲ませ ているぞ、おーい大丈夫かぁ? 次の建物に入ると、仕込みのタンクが並んでいた。最初に説明があ ったのだが、米鶴ではかなり早い時期から女性が蔵に入っていたよ うだ。ここに限らず、山形の酒蔵では杜氏を使わず地元の人間だけ で蔵人を構成している例が多い。まさに"地酒"と言えるかもしれな い。そのせいか、女性も区別無く蔵に入っているようだ。 各段階のタンクが並んでおり、タンクの上に上らせてもらう。ピチ ピチと小さい音をたてながら泡がはじけている。においを嗅ぐとき には、手であおぐようにして嗅ぐように注意がある。炭酸ガスが発 生しており、気を失ってタンクに転落ということもあるようだ。 あとは貯蔵用のタンクを見て、見学は一通り終了。吟醸などは、別 なほうの建物で作っているようだ。今回はそちらの見学は無し。元 いた場所に戻ると、即売所が開いている。一通り飲ませてもらう。 以前、利き酒に「盗み吟醸」を持っていったことを思い出す。 それにしてもオバちゃんたちの購買意欲は凄まじい。ダンボールに 入れて大量に買いこんでいる。別にそれほど安いわけじゃなし。そ れもこのオバちゃんたちは自家用車ではなくタクシーで来たのに、 よくこれだけ買うものだ。 米鶴では毎年蔵を公開する日があるそうで、毎年2000人くらい集ま るらしい。今年はちょっと遅れそうだと言っていた。車で行くと飲 めないが、皆自転車などで来るそうだ。(本当は自転車でもダメな んだろうけど) 少し寒くなってきたので、トイレに行く。いきなり外の吹きっさら しのようなトイレである。お土産に、ワンカップのような米鶴をも らう。せめて、純米とか吟醸だったらうれしかったのに。まぁ、タ ダだから仕方がないか。 さて、あとは樽平だが、午後まで時間があるので、昼飯をどこかで 食べないといけない。芳賀さんが蕎麦を食べたいというので、蕎麦 屋を探す。米鶴の人に聞くと、高畠の町の中に酒屋があってそこで 蕎麦を食わせるという。行くだけ行ってみる。 米鶴を出て、細い道を高畠の商店街に向かって進む。商店街の入り 口にその店「ワインと地酒 昭和六号館 そば処 ふるかわ」はあっ た。なぜか、壁に映画の看板がかかっている。店の主人が映画好き なのであろう。 なんでも、この高畠の商店街は「昭和ミニ資料館」というのをやっ ている。これは、各々の店が持つ古きよき時代の品々を、それぞれ の店で展示しているというもの。一六号館まであるようだ。 店内に入ると、ごく普通の田舎の酒屋という佇まいで、雑貨やお菓 子なども売っている。その店の一角が区切られていて、ガラス張り のそば打ち場のようになっている。そばは昼時のみの提供で、他の 時間帯は酒屋のみ営業。 店の中は、映画のパンフレット、雑誌などでいっぱいだ。そういえ ば、店の外壁に書かれていたのも映画館にあるようなでっかい看板 だった。店の主人は、よほどの映画好きに違いない。 聞けば、この店の親父さんがそば好きで、昨年から店に出すように なったという。少し不安を感じるが、まぁ良いだろう。店の中で待 たせてもらう。どうせならストーブのそばに座らせてもらえばよか ったが、奥の倉庫からの通路のそばに案内される。ここがまた寒い! すっかり体が冷え切った頃に冷たく冷やされたざるそばが運ばれて きた。思わずトイレをお借りする。そばのほうは、まぁ可もなく不 可もなし、というところだろうか。この感じではそれほど客が入る とも思えず、作り置きはできないだろうから、こうやって客が来た ら打ち始めることになるのだろう。むむむ。 さて、まだ少し時間があるので高畠の街をうろついてみる。色褪せ たような箱のプラモデルが積まれている模型屋に、芳賀さんが思わ ず目を奪われている。「旧高畠駅」という看板があったので、つい フラフラと向かってしまった。 この旧高畠駅というのは、山形交通の高畠線にあった駅である。高 畠線はJR奥羽本線の糠ノ目駅(現在の高畠駅)から二井宿の町ま での10.5kmを結んでいた路線であり、昭和49年に廃止されている。 現在の高畠駅は山形新幹線開業の頃に改称されたもので、それまで は「糠ノ目」駅(無人駅)であった。従って、本家の高畠駅はこち らである。 地図を見ると昔の軌道敷跡が想像できる。高畠駅から北東方向に斜 めに伸びている道路がそれである。現在、浜田広介記念館が建つあ たりを通り、少し北側を回って旧高畠駅へ。あとはニ井宿の町まで ほぼ国道113号に沿っていたらしい。 立派な駅舎には地元で採れた高畠石がふんだんに使われており、賑 やかだった頃の様子が目に浮かぶ。駅舎内には当時の運賃表がその まま掛けられている。それにしても、もうちょっとこの高畠線やこ の駅についての説明が欲しいところである。構内には凸型電機や電 車などが保存されている。 旧高畠駅を出て、今度は現在の高畠駅に行ってみる。昔の糠ノ目駅 からは想像がつかないくらい立派になったこの高畠駅は、温泉「太 陽館」を併設していることで有名である。残念ながら今回は入浴で きなかったが次回はぜひ入ってみたい。 まだ時間があるということで、すぐ近くにある高畠ワイナリーに行 ってみる。そばには山形新幹線と米沢南陽道路が走る。ここは無料 であるから、受付で一言ことわるだけ。しかし、休日は瓶詰め等の 作業は行われていないので、あまり見るものは無い。いろいろ試飲 するが、どれも甘いものが多いようだ。 さて、いよいよ樽平に向かう。地図を見ながら川西町をめざして西 へと向かう。それほど時間もかからずに樽平に到着、向かいの敷地 内に車を停める。この敷地にあるのが、陶磁器で有名な掬粋巧芸館 であろうか。残念ながら冬季は休館である。 事務所に入ると、白衣を着た人達が何人かいる。何者かと思ったら 芳賀さんの知り合いらしい。芳賀さんが挨拶をしている。これらの 方々はかなり気合を入れてまわっているそうだ。おまけに、米鶴で 見たさっきの子供連れまでいるではないか! 白衣を借りて中へ 主任という人が案内してくれる かなり古めかしい造りの建物 明日の作業に備えて準備中 白熱灯の照明が、タイムスリップしたような感覚を呼ぶ 坂口謹一郎の「日本の酒」の挿入写真のようだ 消毒等に欠かせない熱湯が、埋め込まれた釜の中でグラグラと 麹室を外から見せてもらう 屋根裏にはものすごい数の麹蓋が ここで社長が登場 蔵の良さを力説 搾りは、通常のヤブタ式の連続モノではなく古めかしい 搾りたてを飲ませてもらう。うまい。 樽に入れなきゃおいしいのに 社長の持論では、「酒は樽で寝かさなきゃダメ」 樽がずらっと並んでいる 洗浄されたタンクはピカピカ タンクの上に登る 泡ありの酵母も泡無しの酵母も両方使っているらしい 泡があふれないように縁にプラスチックでかさ上げしてある タンクの上では泡取りのモーターがくるくると回る 各醗酵段階のお酒を見せたり飲ませてくれる タンクによって酵母が違うから、柄杓をあちこち入れないで、と言われる でも社長は自分であちこち入れている(笑) 芳賀さんの知り合いグループが細かく聞く 社長ものってきて、話が止まらない 上に登っていない人は退屈してきた お土産に住吉のワンカップ(本醸造)をもらう 今回の幹事会社だったので、なかなか丁寧で親切 帰路につく