『新・ふるさとの神々』(上)加筆
第6章 動物の神

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▼06-11「牛神」

【本文】
 そもそも角がある力の強い牛は、東洋の国々でも聖なる動物であ
りました。中国では、神への祈りをより強くしようとそういう牛を
神に供えました。牛は神がかった動物だったのです。日本でも農耕
に欠かせない牛の無病息災を祈願して、牛神をまつりました。

 これは西日本各地に多く、大阪府の和泉地方では地区単位でま
つる神。それぞれに塚や祠があって、特定の日には牛にごちそう
を食べさせたり、塚や祠にお参りに連れて行きます。また決まっ
たお寺に参拝に行くという。

 子ども組が行う所もあり、牛の形を泥でつくり、黒い石で目を、
キュウリで角を、ビワの葉っぱで耳をつくり、最後にススキを使
ってシッポにします。そして、みんなでワイワイ食事をするとい
う。

 岡山県では地区でまつっている荒神さまを牛神と考えていて、
牛を買ったり、また牛の子が生まれたりすると参拝します。牛の
石仏にもいろいろなものがあります。馬頭観音の一種に、頭の上
に牛の首をつけたものもあります。

 また、うずくまった牛の背中に大日如来が乗った石仏もありま
す。これを「牛乗り大日」と呼んでいます。私の故郷の千葉県北
部ではよく見かける石像です。大分県の国東半島一帯にも、牛乗
り大日の石像があります。「金剛界大日如来」が牛に乗っている姿
でこれも牛を大切にし、その長生きを祈るための像だそうです。

 その中に、大威徳明王(だいいとくみょうおう)の石像もありま
す。大威徳明王は、普通、憤怒相の六面六臂(ぴ)六足像で、「水
牛」に乗っています。やはり牛です。

 牛の神はこの明王や牛乗り大日のほかにも、北海道や熊本には、
「牛馬世觀音」や「牛馬觀音」と刻んだ文字だけの塔もみられます。
死んだ牛の霊を慰める供養塔もあります。「牛塚」とか「牛供養」、
「牛霊塔」と刻まれ、山形市内や福島県いわき市に多い。

 また、天神さまと親しまれている天満宮は、牛を神使としていま
す。この神社はご存知、菅原道真をまつり、学問の神として信仰す
るものが多い。このような神社には、撫牛(なでうし)の石像があ
ります。この牛を撫でると願いごとがかなうという。これは菅原道
真が牛に乗ったという伝説に基づくものだということです。

▼【参考】
・『動物信仰事典』芦田正次郎著(北辰堂)1999年(平成11)
・『日本石仏事典』庚申懇話会(雄山閣)1979年(昭和54)
・『民間信仰辞典』桜井徳太郎編(東京堂出版)1984年(昭和59)

 

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【とよだ 時】 山の漫画文著作
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ゆ-もぁ-と制作処【時ノ坊】
山のはがき画の会

 

 

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