2人のスタンス

 ジューンブライド。
 よく聞く言葉だ。
 先日も俺のダチが結婚式を挙げた。
 気がつけば、もう三十路。
 親もなく、一人気楽な一人暮らし。
 

 俺は一人アパートでぼけ〜っとタバコをふかしている。
 万年床の布団。
 ゴミの山。

 タバコを吸い込み窓から見える空を眺めた。
 いい天気で雲がゆっくり流れていた。

 ろくに掃除もしない部屋。
 女でもいればもう少しはまともなんだと思う。

「結婚かぁ……」

 一人呟く。
 周りのダチからはおまえも早く結婚しろよって言われる。
 俺はその問いに決まってこう答える。
「結婚はしねぇよ」
 
 けど、その答えにダチは決まってこういうんだ。
「あいつそのうち他の誰かと結婚しちまうぞ」
 と俺に焦らす事を言う。
 けど、『あいつ』が他のやつと結婚なんてするのだろうか?
 いつもそのとき考えるけど、あいつは結婚しねぇよと思っていた。

 いつでもそばにいる『あいつ』。
 いつも一緒にいることが多いから大体考えはわかっていた。

 外を眺める。
 雲はふわふわと流れている。

 
 枕の横にある携帯からお気に入りの曲、着メロが流れた。

 着信を見ると『あいつ』からだ。

 めんどくさそうに携帯を取り電話に出た。
 それでいて、どこか期待をしていた。
「もしもし」
「今から出てこない?」
「え?なんで。俺忙しいんだよ」
「タバコを吸うのがそんなに忙しいの?」
 …俺のこと見ているのか?
「ああ、そうだ。忙しい…」
 と俺が言うと、

 ドンドンドン!!
「こら、暇なんでしょ。あたしに付き合いなよ。万年床で寝ているときのこ生えてきちゃうぞ」
 
 と携帯とドアの向こう越しに同じ声が聞こえた。
「って、おまえ来てるのか」
「もう、入っちゃうぞ。いつもあけてあるのわかってるんだから」
「へいへい。だったらどうぞ」
 というと『あいつ』は携帯を切り、
「ほら、さっさとしなさいよね。こんな可愛い美人が一緒に町へ繰り出そうって言っているんだから…」

 ショートカットの短い髪。
 目は二重でちょっと釣り目。
 白い半そでのシャツにジーンズ姿。
 そして、手にはトートバック。
 おととしだかに、誕生日とかで無理やりかわされたものだ。
 毎年誕生日とか言って俺に買わせてくる。
 俺の誕生日にもいろいろくれるのだが。

「まったく、俺の楽しみを…」
「ほら、早くズボンはいて…」
 と顔を赤らめていう。
 そう、いつもトランクスいっちょにTシャツ姿の俺。


 布団の横に無造作にほおりながっているズボンを俺に渡した。
「さ、行くよ。ほら、天気がいいんだからたまには外に出なくちゃ」
「あ、まて。おい、ああ…」

 そして、俺は手を引っ張られて外に連れ出される。

 そして、ドアに鍵を閉めて
 『あいつ』はまぶしい笑顔を作りながら俺の手を引っ張っている。
 俺はこんな生活が嫌いじゃない。


 この2人の関係。
 もし、「結婚」なんて言葉を口にしたら関係が崩れるようで怖い。

 2人で一緒に腕を組んで歩く街中。
 いろいろ考えていた。

 少し難しい顔をする。
「ん?どうかしたの?」
「いや、別に…」
「6月だなって思って…」
「もう、夏になっちゃうよ?」
「いや、その前にさ…」
「なに?」

 ゆっくり歩きながらの会話。
「6月だしね…」
「ジューンブライドね。いいよね。私も憧れるな。いつかきっと白馬の王子さまが私のことを迎えに来てくれるんだ」
 と目を輝かせていう。
「白馬の王子様じゃなくてトランクスとTシャツ一枚の王子様かもよ」
「それはそれでもいいけど…。なんかいや。ちゃんとズボンくらいはいてきてよね」
 と2人で大笑い。
 
 いつまでもこんな関係が続くと俺は確信していた。

 車が行き交う大通り。
 大型トラックが交差点を通過する。
 大きい音が2人の会話の邪魔をした。
「……、期待しているぞ」
 何か言ったようだが俺には聞き取れなかった。

「え?なんていったの?なにを期待するの?」
「何度も言わせるなよ。もう」
 
 俺の腕をぎゅーっと強く抱いてきて、2人で歩き出した。

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