Sun-set Memory

 教室に数人。
 僕達は居残り勉強させられていた。
 放課後。
 居残り勉強がなかったら僕は家に帰ってゲームをしているはずだ。

 僕は漢字の練習だった。
 ほかのクラスメイトも教科書とノートを広げて鉛筆を走らせていた。

 僕は勉強はあまりすきじゃぁない。
 だから居残り勉強をさせられているんだけど。
 女子の姿もちらほら見えるけど、その中には僕の気になる子はいなかった。
 彼女は僕と違っていた。

 今ごろ彼女は部室にいるのだろう。
 演劇部の彼女。
 僕はバスケット部に一応いるけどほとんど行っていない。
 面白くないからだ。
 
 外を見ると夕焼けがとてもきれい。
 鉛筆を机においてぼーっと外を眺めている。

 校庭ではサッカー部とかがボールを蹴っているのが見える。
 運動も嫌いな僕の一番の楽しみはTVゲームだけだった。 
 嫌なことを忘れて夢中になれる唯一のものだった。

 僕は机の上の国語の教科書をぺらぺらとめくり、まだいっぱいあることを確認するとやる気がなくなってきた。
 早く帰ってゲームをしたい。

 僕は鉛筆を持って外の夕焼けを見て早く時間が過ぎないかなと思っている。
 
 3人の女子たちは居残りっていうことじゃないみたいで小声で話している。

 僕はその女子たちの声が気になった。
 肝心の漢字練習はそっちのけで他の事に夢中になっていた。
 
 どんな話をしているのだろう?
 なにをしているのかな?
 ……。
 
 外を見るふりで目は女子たちのことを見ていた。
 その女子たちは僕の視線は気がつかないように3人で仲良く話していた。

 でも僕はその3人の女子よりも演劇部の女子のほうが気になっていた。

 その子のことを考えると大好きなゲームも手がつかなくなる。
 好きな漫画も集中できなくなるくらいなんだ。


 時計を見る。
「まだ4時半か…」

 と嫌な声を小さな声で言った。
 他の数人の人が手を止めて僕のほうを見た。
 僕になんだよ?っていう目をしている。
 あと30分で終わり。

 他の居残りしていた友達は終らせるところをさっさと終らせて帰っていく人もいた。
 でも、僕は違う。
 やりたくないから時間いっぱいまで適当にやって終わりにさせるんだ。
 そのほうが面倒じゃなくていい。
 ゲームは出来ないけど…。

 夕日はとってもきれい。
 3人の女子は未だになんだか話している。
 
 とそのときだった。
 教室の後ろの扉が開いた。
 僕は誰がきたのだろうと目を向けた。

「あ…」

「何?ゆきっち。居残りなの?」
 と女子の一人が声をかけた。
 
 心臓がどきどき……。
「え。うん、忘れていたの」
 と笑う顔が可愛い。

 !? 目が合った。

 僕の心臓は止まりそうだった。
「先生の怒られちゃうよ?」
「大丈夫だよ〜。忘れていたんじゃなくて忘れ物をとりにきただけだもの」
「なんだ。ゆきっちは居残りなんてないもんね」
「うん」
 そういってゆきっちと呼ばれる女子は照れて頭をかいていた。
 夕日に照らされてとってもきれいに見えた。

 そしてその女子は僕の前の席に来て机の中を捜していた。
「ないなぁ…」
「なにを探しているの?」
「うん。ちょっと…」
「あ、ゆきっち。ダメだよ政志君のこと邪魔しちゃ」
「別に僕は…」
 他の女子に言われる。
 Tシャツにスカート。
 Tシャツの隙間から白いブラジャーが見え隠れする。

 僕は夕焼けのように顔が真っ赤になっている事だろう…。

 そうこうしているうちに5時。
 蛍の光が流れる。
 クラスの居残りしている人も変える準備をしているけど僕は前の席の子がすごく気になっていた。
「政志君、終わりじゃないの?」
 と僕に声をかけてきた。
 教科書とほとんど白いノートが目立つ。
「え、あ、う、うん……」
 けど、僕には河田さんのことが気になってその席を離れたくはなかった。
「ねえ、河田さん?一緒に手伝おうか?」
 とぎこちなく言ってみる。
「え、いいよ。大丈夫だから…」
「でも大切なものなんじゃないの?」
「たいした事じゃないよ。なければないで、また買えばいいし」
「そうなんだ…」
 僕は片づけをしている河田さんのことを見ていた。
「帰らないの?政志君」
 僕は河田さんのことを見ていて帰り支度が出来ていなかった。
「あ、うん。帰る、帰る」

 そう言って適当にランドセルにしまった。
「私たち二人になっちゃったね」
 僕はその言葉に反応した。

 どきどきどきどきどき………。
 この音が聞こえないか心配なくらいだった。
「窓ちゃんと閉まってるかそっちみてくれる」
「う、うん…」

 僕は言われるままに戸締りの確認をした。
「……大丈夫」
「じゃ、帰ろうね」

 未だに僕の心はどきどきしていた。
「うん…」
 教室を出て1階まで階段で降りる。
 その間一緒にいるけど、僕たちは無言だった。

 下駄箱をで靴を履き替える。
「ここでさようならだね」
「うん」
 僕と河田さんの家は逆の方向なんだ。
「じゃぁ、また明日。学校でね」
「うん。さようなら」

 そして河田さんは帰っていった。
 僕はやっと顔を上げて河田さんの後姿を見た。

 夕日に照らされたその姿はとてもまぶしく見えた。

[戻る]