初夢
「詩織……」
君…」

 詩織が。
 詩織が。
  
 高鳴る鼓動。
 どきどき…。

「ねぇ?どうしたの?君?」
 詩織はそう言って後ろを向いてしまった。
 し、しおり……。
 俺は別にどうもしないさ。
 それより、なぁ、こっちを向いてくれよ、詩織。
 なぁ……。ああ、詩織が遠ざかってゆく…。
「ねぇ、まってよ、詩織!」
 走っても走っても追いつかずにいる俺。
 詩織は走っているわけじゃなく、距離もそんなにないと思うんだけど。

「おーい、詩織ー」
 俺は大きな声で呼ぶ。
 だけど詩織はこっちを向かず、どんどん距離が離れていく。
 何回も何回もその名前を呼んだ。

 そして何回目だろうか…。
「おーい、詩織って。そっちへ行っちゃダメだ!おい、詩織!」
 …何がダメなんだ?
 とにかく俺は詩織を呼びつづけた。
 その甲斐あってか、詩織は俺のほうを向いてくれた。
「し、詩織……」
 そういうと、詩織はニ、三歩で俺の前まできた。
 …?何で?
 俺は一生懸命走っても追いつけなかったのに……。
 息を切らしている俺の前に来て、詩織は
「ふふふ……」
 そう笑った。
 その微笑みは恐ろしく。
 そして、とても神秘的な微笑みだった。
「し、しおり?」
 怖くなっておののく。
君」

 その声にどきっとする。
 俺は逃げ出そうとして振り向き、猛ダッシュ。
 ……。するけど、詩織がすぐ前に!
「!!」
 何でだ?
 何で詩織は……。
 俺はまた振り向いて猛ダッシュ。
「!また……」
 そういうと詩織は俺の腕をつかむ。
「…っ!」
 こんなに詩織って力あったのか?
 普通の女の子じゃこんな力でないぞ?
 清川さんならいざ知らず…。
 それか、紐緒さんに人体改造されたのか?
「ふふふ…」
「し、お、り」
 ごくりとつばを飲む。
 詩織は俺の腕を強くつかんで放してくれない。
君」
 俺の名前を呼ぶだけだ…。
「た、助けてくれー」
 俺はありったけの声で助けを求めた。
 すると急に腕の痛みが消えた。
「?!」
君?大丈夫」
 そこにはやさしい詩織が立っていた。
 ……?
「詩織?」
「うん。大丈夫?私はここよ?」
「あ、詩織……」
「大丈夫?君」
 いつもの詩織だった。
 俺は素直にうなずいた。
 そして、詩織が何か言おうと口を開きかけたとき・・・・・・。
 まぶしい光が俺を襲った。
「うわ。詩織ー」
 ……。



 ……目を開ける。
 …俺の部屋だ。
 頭がクエスチョンマークでいっぱいになった。
 夢?
 ……?
 窓を開けてみる。

 元旦の朝。
 一年の始まり。
 …ということはアレが初夢?
 ……。
 窓の向こうには憧れの詩織の部屋の窓。

 俺はその窓に向かって叫んでみた。
「詩織ー」
 あくかなぁ…。
 ……あ、気がついたかな?」
「明けましておめでとう、君」
「今年もよろしくー」
「こちらこそよろしくね。残り少ない学校生活、頑張りましょうね」
「うん。詩織と一緒なら、何だって頑張れるさ!」
「もう、君ったら」
 っそう言って俯く。
「俺は頑張って、詩織と同じ大学いくぞー!」
 そう叫んだ。詩織に、そして自分に言い聞かせるように。
「頑張ってねー。応援してるわよ」
「ありがとうー」
「それじゃ……またあとでね」
「うん。あとで」

 そう言って窓を閉めた。
 またあとで。そう初詣に行く約束を前々からしていたのだった。
 
 初詣の時に夢の話をすると、どうも、詩織も同じような夢を見ていたらしい。
 こんなことってあるんだなぁと二人で笑った。
 
 でも、少し違うところがあって、詩織はその後も見ていたようだった。
 詩織の言った事が気になって聞いてみたが、詩織は何も答えてくれなかった。
 …何か変なことでも言ったのだろうか?
 でも、詩織は
「私は、いつでもあなたのそばにいるからね…。君」
 そう言ってくれた。


 一体なんだったんだろう?あの変な夢は。
 まぁ、詩織がそう言ってくれたんだから、まぁ、いいかなぁ?

 ……。にしても気になる。
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