Tokimeki Dairy 〜館林見晴〜
「う〜ん……」
 コアラの飾りのついたシャーペンをカチャカチャと動かす一人の少女。
 机の前に陣取って考え込んでいる。
 
 そして彼女が机の前に考えているのはいうまでもなく日記つけ。

 今日のことを書くのだが、なかなか上手く書けないでいた。
「う〜ん……。コアラまいった……」

 シャーペンを置き、腕を組んで机に伏せる。
 いつもは彼のことを見ているだけでいいのに、そろそろそれも限界でいた。
「う〜ん……」
 そう一人でいいながら、今日の学校でのことを思い出す。
お昼休みのことだった。
 見晴が廊下に出たとき彼とその友達が2人で話していたのだ。
 なんでも、彼の悪いうわさが出ていて、みんなに嫌われているというらしいことだった。
 見晴はそんな2人の事を聞いてしまったのだった。
「なんでだよ……。いつ俺が詩織の事を…」
 あ、彼の声。詩織って同じクラスの藤崎さん?
 どうしたのかな。なんか落ち込んでいる。
「だから、俺が調べてるっていうの…。もうちょっと待ってくれよ。肝心の優美にまで嫌われやがって…」
「そうだよ、なんで優美ちゃんにまで嫌われるんだよ…」
 あの声はいつも一緒にいる好雄君。
「まぁ、そのうわさのでどこは優美じゃないっていうのは確かだ…。これだけはいえる」
「そりゃそうさ。優美ちゃんに変なことしてないもん」
「あ!!お前優美に変なことしたら俺が絶対許さないからな、お前とは絶交だからなっ!!」
「ああ、わかったっての…。なぁ、それよりも、なんとかしてくれよ、好雄…。このままじゃ詩織と……」
 !!
「そういや、お前変な影を見るって言ってなかったか?」
 わ、私のこと…。
「ああ、なんか、こう後をつけられているって言うかデートのときによくぶつかるというか…」
「そいつじゃないのか?お前の事をこっそりと後をつけて…」
「俺そんなやつ知らないし、覚えもない!!俺がなにしたって言うんだよ」
「お前の事だ、変な気起こしてあんなことやこんなことやそんなことやああいうことまで…」
「ば、ばかっ、好雄じゃないんだからそんなことするかよ」
「あ、そうか…。って、俺もそんなことしないぜ。冗談は好雄君だぜ」
「それはこっちの台詞」
 そんな会話を見晴は影からこっそりと聞いていたのだった。
 見晴はフクザツな心境だった。 
 心臓はどきどきして。
 姿を覚えてくれていたのは嬉しいけど、ストーカー呼ばわりされていると思うと胸が張り裂けそうだった。
 そして、チャイムが鳴りお昼休みは終わり、見晴は2人が去っていったのを確認してから自分の教室に戻っていった。 
「コアラまいった……」
「けど、今日は絶対チャンスだったよね…。けど、私はそんなこと出来ない…」
 そして、またシャーペンを持ってカチャカチャと芯をだしたり引っ込めたりしていた。
「え〜い。悩んでいてもしょうがない。書かないと…」

 ノートに向い、今日の出来事をあるがまま書いた。
 そう、悩む事はないはず…。
 そして。

 『今日はせっかくのチャンスがありながらも私は何も出来ずに影で彼の言葉を聞いていた。
 それしかできなかった。もうちょっと私に勇気があれば。そうしたら彼と一緒にこういうときでもお話できるのに
 みんなから嫌われたって私は彼のこと大好きだから……』
 と付け加えた。
「これでよし。私もがんばるぞー」
 背伸びを一つ。そして、ベッドに入り込み、
「おやすみなさい。明日は彼に会えるかな…」
 と電気を消して夢の中へ。
「あ、そうそう、一応フォローしておくかな」
 と電気をつけて手に取るは電話機。
 彼のところに電話をしてみる。

 ぷるるるる〜
 そして、数回後留守電に切り替わり、
「コアラのリボンの女の子です。今日学校で変なこと聞いちゃったんだ。けど、私はそうじゃないから。じゃぁね」

 見晴のできる精一杯の勇気。これだけでも心臓がどきどきしていた。
「さてと、明日も彼に会えるかな…。おやすみなさい……」
 明日の希望を夢見て……。
END
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