Winter Jealousy
(清川望)
 プルルル……
 プルルルルル……
「おーい優美!電話に出ろ。俺は今手が離せないんだ。」
「ぶー!もう、お兄ちゃんが出てよ。!優美だってゲームの途中なんだから」
「いいから早く出ろって!」
「ぶ〜っだ。はいはい、出ますよ〜だ」
 まったくお兄ちゃんたら。
 こういう面倒くさい用事は全部優美なんだから。
 と、絶対後で優美ボンバーを決めてやると思っていた。
「はい、早乙女です。」
「もしもし、川島ですけど。好雄…」
「あ、邦弘先輩。いま、お兄ちゃんに代わります」
と優美。
 やっぱ嫌われてるような気がする。
 俺−川島邦弘はきらめき高校の3年生。
 なんか俺が清川さんを傷つけたといううわさがながれているようなのだ。
 それで頼みの綱で、親友の早乙女好雄に電話をしたのだ。
 が、優美ちゃんにも嫌われてるとは。
「お兄ちゃん!電話。邦弘先輩から!!」
「うん!邦弘?はっは〜ん。さては…」
「もう、お兄ちゃん、はやく!優美ゲームの途中なんだから!それに、優美」
「悪ぃ、悪ぃ…」

 どたどたどどた……
「もう、早くしてよね!」
「分ったつーの。いいからあっち行け!」
「もう、いいもん、後でまた優美ボンバーお見舞いしてやる」
「あ?なんか言ったか?」
「別に!!」
 …ったく分らん。
 おっと、電話、電話。
「はい、もしもし、好雄だけど」
「おう、好雄か?」
「おっす、なんか元気ないな。ま、大体わかるけどな」
「好雄〜。俺は如何したら良いんだ?もうだめだ!!」
「バカ!!泣く奴があるか」
「う、グシュ」
「まあ、落ち着いて話してみろって」
「実は、なんか俺が清川さんを傷つけたっていう噂が流れてて、
この間までデートとかしてたのに、まったく口を利いてくれないんだ」
「ほうほう。で、心当たりは無いのか?」
「心当たりなんてないよ」
「例えば、デートにジャンク屋に連れていったとか?」
「俺はそんなところへは行かないって。紐緒さんじゃあないんだから」
「あ、そうか……じゃあ、誕生日に変なものをあげたとか?」
「誕生日にはリボンを上げた。…ちょっと買うのが恥ずかしかったけど」
「喜んでくれたのか?」
「もちろん、そりゃあもう大感激って感じだったけど…」
「ふむふむ。じゃ、違うか。というとまったく心当たり無しか……」
「だ・か・ら!こうして好雄にたのんでるんじゃあないか」
「よし。わかった。この好雄君に任せておけって!」
「おう。悪いな。いつもいつも……ところで毎回毎回、いったい誰が
こんな悪い噂を流すんだ?出来ればそっちのほうも頼む」
「おし、じゃあ、昼飯2回ぐらいで手を打とう」
「相変わらず…まあ、頼む」
「おう、それじゃあな。元気出せよ。お前らしくないぜ」
「サンキュ。じゃあな」
 ガチャ。
「ふう。まったくな……」
「これでも食らえ!優美ボンバー!!」
 ダン!
 音とともに好雄は壁に激突。
「グヘ……」
 好雄は伸びてしまった。


 電話を切った好雄に
 優美だ必殺の優美ボンバーを食らわしたのだ。
「…………」
「お兄ちゃん!もう、さっさと起きてよね。廊下のど真ん中で寝てると邪魔だよ!」
「…………」
「お兄ちゃん!どいて!」
 ゆさゆさゆさ…。伸びてしまった好雄を揺さぶる。いきなりとはいえ優美はまさか伸びるとは思わなかった。
がいつもの冗談に決まっている。
「分ってるんだから、早く起きてよ!」
「…っちい。分っていたか。って、いきなりやるな!死ぬかと思ったぞ。」
「だって、お兄ちゃんが!」


「それより優美。邦弘について何か知らないか?」
「優美は聞いただけだもん。先輩が清川さんのことを振ったって。」
「は〜?なに〜?あいつが清川さん振っただと!!いったい誰から聞いたんだ?」
「水泳部の友達から聞いただけだもん。清川先輩に愛想をつかせたとか、
他に付き合ってる人がいるとか、いろいろいわれてるんだって。清川先輩はそれで怒っちゃって、仲良かったのにもう、かんかんとか」
「そうか。それでだ。最初に言い始めた人はだれなんだ?優美」
「え〜、優美わかんない。だけどお兄ちゃんたちの同級生の人から聞いたとかいってたような…」
「そうか、優美協力しろ。その友達にきいてきてくれ。誰から聞いたか、詳しくな。」
「え〜、優美いやだよ。そんなこと」
「ええい、つべこべ言うな」
「いやだったら」
「じゃあ、いいもんね。自分で聞いてくるから。
ついでに彼氏いないかどうか聞いてこよう」
「あ〜、もう、やめてよ。お兄ちゃん。ただでさえ嫌がられ照るのに」
「じゃあ、聞いて来てくれるか。そうか。頼んだぞ」
「……」
で〜。時が過ぎて学校にて…
「ねえ、良子、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいい?」
「なに、優美。別にかまわないけど」
 良子とは優美の友達で、水泳部だ。彼女から先輩の事をきいたのだ。
「ええとね、清川先輩と邦弘先輩のことなんだけど。いったい誰から聞いたか、それと、噂の本当のところを詳しく聞きたいんだけど」
「え、清川先輩のこと?」
「うん」
「ふ〜ん。よっぽど気になるのね。あ、もしかして、優美があの邦弘先輩を狙ってるとか!」
「もう、良子ったら。そんなんじゃないもん」
 と本気で怒ったりする。
「もう、冗談だって。あははは。すぐ本気にするんだから」
「教えてくれるよね。良子」
「しょうがないか。お友達の優美ちゃんに頼まれちゃ、断れるわけ無いもんね」
「ありがとう!良子」
「で。誰から聞いたかっていうとね……」
「だから、そう落ちこむなって!この好雄様がついているんだから。
 大船に乗った気持ちでいろって」
「ああ」

 こちらは好雄と邦弘の教室。周りには昼休みで生徒たちが遊んでいる。
 邦弘と好雄は、購買部で買ったパンを食べながら真剣な表情で話していた。
「今、優美を使って噂の出どこを調査してっから、もうすぐにわかるって」
 と言い、紙パックのジュースを飲み干す。
「しっかし、良くまあこんな噂が流れたものだ。なあ?邦弘」
「まったく。おかげで清川さんは電話にも出てくれないし、
 優美ちゃんにも嫌われてるし、詩織にだって」
「あ、詩織ちゃん?おまえ、それがもしかして原因なんじゃないか?」
「え?詩織?」
「そうだよ。おまえ詩織ちゃんとも仲良くしてるところをだれかに見られたとかさ」
「だから!!詩織はただの幼馴染だっつーの!!そんな感情はまったく無いって」
「いや、しかしだな!そんなこと知らない奴がみたら
二股の悪魔の称号を与えるに違いないぞ!」
「そんなものかね…」
 邦弘は残りのパンをほうばった。
「その線は有りだな」
「ふう」
 とため息をひとつ。邦弘と藤崎詩織は幼馴染だが、そんな恋心があるわけではなかった。
 たしかに詩織は初恋の人物だが、清川さんの登場で、一気に良い想い出に変わったのだった。

 キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン…

「おっと、始業のチャイムか。そう落ちこむなって。この好雄様がついているんだから。な!」
「すまん!好雄」

「は〜い、望。元気ないみたいね?」
「なんだ。彩子か」
「Oh!なんだ、はないわよ」
「まったく彩子があんなこと言って来るから。あたし」
「Unn…、だから、私はただ見ただけっていわなかった?」
「そうなんだけど…」
「だったら、直接彼に聞いちゃえば?
藤崎さんとどこへ行ったのって」
「それができれば苦労はないって」
 放課後、望と彩子は教室で話していた。
 そこにはもう二人だけになってしまていた。
 外から夕焼けの日が差して、少しまぶしい。
 校庭では、サッカー部だろうか、練習している声が教室まできこえる。
「あたし、こんな性格だろ?だから、もう、ゆるせなくって」
「そうね。望は、はっきりしないのが一番嫌いだモンね」
「そうなんだよ。あ〜、もう!スカッとしないな」
「あ、そろそろクラブの時間だわ」
「え、もう、そんな時間か。ひと泳ぎしてきますか」
「じゃあ、私も絵を書いてきますか」
「Good luck!がんばって。望」
「彩子もね」
 ………
 それぞれ、部活に向かって行った。
「さーて、帰るか。好雄」
「って、クラブはどした?」
「べつにいいさ。もう、この時期じゃあいってもやることがないしな」
「あるだろ!」
「?」
「清川さんとの仲直り!」
「無理だって。あんなに怒っていちゃ」
 学校の帰り道、二人は一緒だった。
「まあ、優美が何か聞いてくるかもしれないから、待ってろって」
「すまんな。好雄」
「だから、どっかよっていこうぜ!な」
「いや、パス。帰ってゲームでもやってるよ」
「なんだよ、ったく連れないやつだな。ま、電話でもするから、じゃあな」
「……」
「ただいま」
「あら、お帰り」
「ああ…」
「まったく、いつも元気が無いんだから」
「母さんには関係無いって…」
 家へ帰ってくると会話だけして、2階の自分の部屋に上がってしまった。ベッドに横になり色々考えていた。
清川さんのこと、詩織のこと。………
「おい、優美聴いてきたか?」
「しょうがないけど、きいてきたよ」
「で、結果を報告してくれ」
「ええと、噂の出どこは片桐って言うお兄ちゃんと同じ学年の先輩みたい」
「ほうほう。片桐彩子か…」
「でね、片桐先輩いうには、清川先輩と邦弘先輩がデートする日に詩織先輩と一緒だったって」
「つまり・・・あいつが詩織ちゃんと一緒に居るところを見られたわけだな?」
「そう。」
「よーし。わかった!原因さえつかんでしまえばこっちのモンだぜ」
「ねえ、お兄ちゃん。いいかげん自分の事も心配すれば?」
「なにか言ったか?優美」
「別に〜」
 と、好雄は早速電話に向かった。

 プルルルルル……
 眠りから覚ましたのは、けたたましい一本の電話だった。
 邦弘は眠い目をこすり、電話に出る。


「もしもし。邦弘です」
「よう、好雄だけど」
「なんだ、俺は眠いから寝る…」
「おい!!そりゃないぜ。せっかく優美が情報を持ってきてくれたんだからな」
「は、そうだ、それで?」
「まあ、落ちつけ。耳の穴かっぽじってよ〜く聴けよ」

「優美が持ってきた情報によるとだな、
なんでも、お前と詩織ちゃんが一緒に居るところを
見られたそうだ。清川さんの友達の片桐さんに。心たりあるか?」
「そっか。そういやあ、清川さんとデートする日、デパートで詩織に会ったな」
「それだよ!原因がわかったんだから、簡単だな。
いいもん、やるから取りにこい・・・1万な!」
「は〜??くれるって言っときながら金取るのか?」
「冗談は好雄君だぜ!じゃあ、待ってるからな。
ところで何やっていたんだ?お前ら」
「え、それは…」
「お、言えないところから察するとやっぱり……」
「ちがうって、そろそろ、清川さんの誕生日だろ?だから、一人じゃあ入りにくい店だったから
詩織に来てもらってたんだ」
「まったく。お前って言う奴は」
「?」
「そうか、じゃあ、仲良くデート、っていう事じゃあないんだな?」
「もちろんだ!!」
「よし、じゃあ、清川さんにきっちりと話せ、そうすれば大丈夫だろう」
「悪いな」
「おし、その勢いで、家までこいよ。じゃあな」

 たっく相変わらず好雄は良い奴なのか悪い奴なのか……
 しょうがない、行きますかと邦弘は家を出ることにした。
 好雄の家まで自転車で何分かかることやら。暗くなって来ている道路を自転車で飛ばす。
 もう、冬なので、五時半ともなるともう、辺りは真っ暗になってしまう。自転車に乗っていると風が冷たい。


 ピンポーン
 好雄の家のインターホンを押す。
 しばらくして、好雄が
「おう、よく来たな、まあ、あがれって」
「いや、遅いからすぐ帰るよ」
「お、そうか。じゃあ、ちょっと待っててくれ」
 自分の部屋なのだろうか。2階へあがって行った。
 どたどたどた
「おう。これだよ。お前に渡したいものって」
 とどこで手に入れたか知らないが、
 今一番人気のアーティスト、宇喜多 光のコンサートチケットだった。
 しかも2枚有る。
「なかなか手にはいん無かったんだぞ、このチケット。お前にやるよ」
「え、でもいいのか?お前が行きたかったんじゃ」
「そんなこと気にするなって。困ったときはお互い様。だろ?」
「好雄!!なんていい奴なんだ!!」
 ガバッと、邦弘は感激のあまり、好雄を抱きしめた。涙いっぱいにして。
「おい、こら。俺は男に抱きつかれる趣味はない!!」
 と言われても、邦弘はいっこうに放そうとはしなかった。

「好雄、ありがとうな。これは絶対に無だにはしないからな」
「よし、それでこそ邦弘だ。頑張れ。もう、卒業まであと、3ヶ月しかないからな」
「おう、頑張るぜ」

 邦弘は歓喜の涙を流しながら、家路についた。

 次の日
 邦弘は何とか清川さんに会って話をしようとしたが、まったくダメだった。
 教室に行ったり、偶然を装い、教室から出てくるところに出くわしてみたり。
 しかし、まったく無視されてしまった。

「しょうがない、ラストチャンスはクラブでしかない」
 そう考えて、クラブの時間まで待つことにした。
 で、放課後、珍しく邦弘はクラブに出た。三年生なんだからやることはまったく無い。
 三年生でクラブに来ている人は暇人らしき人が二〜三人と、清川さん。
 と、同じく暇人の自分だけ。いや、暇じゃない、清川さんと仲直りしなければ。
 邦弘は、清川さんが一人になるところを見計らって。
「清川さん!!」
 と呼んでみた。一回目は無視。
 二回、三回…と五回くらい呼んだだろうか?
 やっと清川さんは
「もう、うるさいな、なんなんだ」
 とギロッと鋭い目を向ける。一瞬、びくっとするけど、ひるまず、
「ちょっといい?話があるんだけど」
 と切り出す。
「あたしも、聞きたいことがあるんだ。」
 と清川さん。二人はプールから上がって話をすることにした。

 清川さんが切り出した。
「あたしが聞きたいのは、デートの日。他の子と一緒だったでしょう。なにをやっていたの?」
「それなんだけど、ただ偶然に詩織と会っただけなんだ。
詩織とはただ単に幼馴染で」
「ふ〜ん…幼馴染ね。」
 と清川さんは疑いのまなざしをしている。
「だから、別に一緒に何かをしていたわけじゃあないんだ。」
「でも、彩子。あたしの友達の片桐彩子がいうには、
仲良く買い物をしていたって言うけど?」
「それは違うんだ。実は……」
「どうしたんだよ?言えないんだろ」
「実は、清川さんへの誕生日プレゼントを買っていたんだ。
ちょっと男一人じゃあ入りにくい店だったから」
「本当なの?」
「嘘は言はないよ」
「だったらなんで、同じ、デ、デートの日なんかに」
 と清川さんは顔を赤らめる。
「まさか清川さんと一緒に行くわけには行かなかったから。それに、時間がなかったんだよ。
詩織がその日じゃないと都合がつかなかったらしいから」
「ふ〜ん」
「ねえ、清川さん!」
「うん、分った。そうだよな。
邦弘が嘘をついていないって事目を見てればわかる。
もう、会ってから二年半だもんな」
「そういや、いろいろなところへ行ったね」
「覚えてるか?始めて二人が出会った場所」
「わすれるわけないよ。俺が近所の公園で走っていたら、
清川さんが来て缶ジュースくれたんだ」
「お、良く覚えてるな。あの時邦弘ったら、死にそうな顔してるんだもの」
 と、清川さんは笑っていた。いつもの笑顔だ。
「まったく」
 と、邦弘も笑う。
「そうだ、清川さん。宇喜多 光のコンサート行く?」
「え、チケットとれたの?」
「え、うんうん。あるんだよ。これが」
「うん、あたし行きたかったんだ。そのコンサート」
「ええと、日にちは……、来週の日曜日だね?」
「うん、もちろん邦弘も一緒だよね?」
「もちろん!一緒にいこう」
「うん、分った。楽しみにしてるからな」
「やった〜」
「よかった!」


「じゃあ、一緒に帰ろう」
「おう、じゃあ、早速着替えてどこか寄って帰ろうね、清川さん」
「うん。」
と、寒空の下、二人はあたたかく、帰るのだった……
END
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