新しい季節
 朝、俺は一人会社へ向かう。
 新しい道。
 隣にはずっと詩織の家があり、そこから詩織の声が聞こえてきそうだ。
 いや、聞こえているときもあるが、俺にはもう遠い過去のこと。


 藤崎詩織。
 幼馴染で俺とは月とすっぽん。
 …所詮こんなもんだったんだろうか。

 詩織は卒業式の日、帰り際にこういった。
「あなたは就職しちゃうのよね。違う道、だね……」
 
 今まで一緒だったけど、この言葉が俺と詩織の距離を決定的にした感じがした。
 手が届きそうなのに、届かない。
 いや、もう、届かなくてはいいのだ。

 通勤の途中の道。
 俺はもう卒業しちゃったんだなとしみじみ思う。
 実感が湧かない感覚。
 卒業式には、詩織から告白されて俺は幸せになれる、2人で一緒になっている、そう思っていた。
 だが、実際は違っていた。

 一人むなしく中央公園を通る。
 4月。もう、桜は満開で新しい季節を感じさせていた。
 春。

 暖かい春の記憶がよみがえってくる。
 去年。
 春。詩織とここに来て一緒にはしゃいだ記憶。
 一緒に共にした時間と記憶。
 笑顔でいたあのときの2人。

 思い出がスライドのように歩くたびによみがえってくる感じがした。
 いい思い出として。
 
 そして、また別な記憶がよみがえる。
 2年になったとき、出会いの記憶。
 
 
 もう、遠いことなんだと思い仕事に向かう。
 3年前はもっと胸弾ませてきらめき高校に向かっていたっけ。
 詩織と一緒の高校に入学できてさらには同じクラスになって、すごくうれしかったっけな。

 昨日も2人で語っていた友人のことも思い出す。
 はじめは、すごくなれなれしいとか思っていたけど、いいやつだな、と。
 
 そして、そいつはこう言っていた。
「詩織ちゃんとは違う道だったけど、俺とおまえは道が違っても一緒だぜ」

 あいつらしい台詞だった。
 あいつはいつも自分の事は二の次で俺の事を気にしていた。
 いいやつだ。
 
 無くしたものは大きいけど、手に入れたものもまたそれ以上に大きかった。
 そして……。

 遠くからこっちに向かってくる見慣れたやつが一人。
「おーい!!」
「遅いぜ、好雄」
 息を切らして向かってきた。
「わりぃ、優美がうるさくってな」
「いい兄貴思いじゃないか、優美ちゃん」
「あ?何を勘違いしているんだか知らないけど、おまえに会うのに身だしなみきちっとしろ
とか、恥ずかしくないようにちゃんとしてよ、お兄ちゃん。だぜ?」
「それも優美ちゃんらしいな…」
 俺は苦笑した。
「それとどういうわけか、おまえによろしくだとよ」
「そりゃわかりそうなものだが」
「まったく、親友が俺の弟になるとは思っても見なかったぜ」
「そう決まったわけじゃないだろ」
「あ、おまえ、優美を泣かせたら承知しないからな、こら!」
「早くしないと遅刻しちゃうよ」
 時計を見て俺はせかせた。
「また走るのか…」
「2人とも初めてで遅刻しちゃまずいだろ」
「ああ、そうだな。優美にもまた言われちゃう」
「ほら、しっかりしてよ、兄貴」
「って、おまえが言うな」
 
 と、2人新しい季節に向かって走り出した。
 
 Spring and new love beginning.
 So My love beginning NEW LOVE, too 
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