本がつなぐ二人の想い
「よし、それじゃ帰ろうぜ〜」
 と勢いよく声をかけてきたのはほかでもない、好雄だ。
「いや、すまん、俺寄るとこあるから」
「あん?ナンパが成功して誰かいい人でも見つかったのか?」
「…お前といっしょにするなよ」
「あ、そうか?わりぃなぁ、って、おい!」
 相変わらず好雄の一人突っ込み。
「ってことだから。んじゃ」
「お前なぁ、最近つれないぞ?詩織ちゃんとどうなってるんだよ」
「え?詩織?詩織は進んでもいないし、後退もしていないぞ」
「まずいんじゃないのか?来年だぞ。卒業するんだぞ?」
「ああ、そうだなぁ…」
 俺の心にはすでに詩織はいい幼馴染でしかなかった。
 詩織もそうだろう…。
「まったく、お前も最近は冷めてるというか、なんていうか……。入学した当時は
もっと熱いものを持っていたぞ?『しおりぃ〜』って」
 俺の声色を真似てそういう好雄はすごく気持ち悪かった……。
「って、俺、そんなに気持ち悪かったか?」
「は?今ごろお前何言っちゃってるの?そりゃすご〜く気持ち悪かったぞ?」
「…」
「でも、今のお前はその気持ち悪さから開放されているって言うか、すがすがしいというか……」
「そうか?」
「ああ。やっぱ、お前恋しているな?」
 図星。
「しかも、詩織ちゃん以外にだ!」
 大当たりだった。
「…」
 声にならない。
「図星だな。お前なぁ…。人のことだから突っ込みはしないけど、詩織ちゃんとのこときちっとしないと
あとで後悔するぜ?」
「大丈夫だ」
 と今は言える。そう……。
「そうかい?お前がそうならいいんだけどな。俺はお前の事応援しているぞ」
「自分のことはどうなんだよ…。優美ちゃんに心配されているんだろ?」
「さらりとお前痛いとこつくなぁ……。まぁ、こっちも順調だし、お前は自分のことだけ心配してりゃいいんだよ」
「おお、そうなのか」
「ああ。今日もこれから遊ぶ約束してるんだけどな」
「そうなのか。んじゃ、優美ちゃんの心配事も減るね」
「……お前優美の味方だったのか?」
「そういうわけじゃないけどさ、っと、もうこんな時間だ。早く行かないと」
「え?ああ、どこか行くんだったな」
「図書館さ」
「…熱でもあるのか?」
「お前じゃないさ」
「そっか。んじゃなー。俺も朝日奈さん誘って帰ろうっと」
 ……朝日奈さんか。いつかだったか古式さんも一緒に4人で遊んですごくうるさかったのを覚えているなぁ…。
 さて、俺も早く図書館へ行こう。



 図書館は相変わらず静かな空間だった。
 この静かな空間が俺にはちょうどいい。本も読めるし、時には昼寝も心地いい。
 …いびきがすごいから寝られないけど。如月さんとであったのもこの図書館だった。
 俺が休みのまえの日好雄と優美ちゃんとで徹夜でゲームして散々遊んだ挙句眠くてここで気持ちよくて
寝ちゃっていたところを如月さんに起されたのだった。そのあと思いっきり怒られて本をおしつけられて
読んだのがきっかけだった。
 図書館のカウンターには見慣れた人の姿があった。俺が手を軽く上げると彼女は微笑んで
手を振り返してくれた。…回りを少し気にして。
「やぁ、如月さん」
「こんにちは。最近毎日いらしてますね」
 そう、ここ半年くらい頑張ってほぼ毎日きていたりする。本を借りては読んで、読んでは借りて。
 如月さんも本を読むスピードは信じられないくらいだけど、俺もそれに負けないくらいになっていたりするのは
ちょっと自慢だったりする。
「はい、借りていた本」
 王道の恋愛小説。ちょっと借りるのは抵抗あったけど如月さんの勧めもあって、借りて読んでみた。
「どうでしたか?」
「いいねぇ。感動したよ。特にクライマックスがいいね。ヒロインとドロだらけになった主人公が感動の再開」
「ええ。すばらしいですね。私も感動しました。ああいうドラマチックな恋愛もいいですね」
 ……ちょっと胸が痛い。
「……そうだね。でも、あんな波乱万丈じゃ疲れるよ…」
「そうですか?」
「うん。なんか読んでいてどきどきだし……。あんなでかい障害だと、俺だとちょっと自信ないかな」
「そうですか。でも、あなたならできると思いますよ?休みの日には多いときでは4冊も本を借りていって、
休み明けには全部返すあなたなら」
「そう?」
「はい」
 ……如月さんの顔はすごく嬉しそう。
「それで、今日も何か借りていくんですか?」
「そのつもりだけど?」
「この本借りていったのはおとといですよね?一体どうやったらこの本を2日で読めるんですか?」
 ……如月さんが俺に聞いてくるってことは如月さんのスピードを上回ったのかな?
「寝る暇も惜しみ、勉強する暇も惜しみ、授業する暇も惜しみさえすればこのくらいの本なら2日もあれば余裕だよ」
「授業はまじめに受けましょうね」
 …怒られてしまった。
「さて、今日はなにを借りていこうかなぁ……」
「今ではあの当時とは比べ物になりませんね」
「え?」
「ここで私と出会ったときです」
「そ、そう?」
 背中に冷たいものが……。
「くすっ。あのときのあなたは信じられませんでしたけど、今のあなたもすごいですね」
「ほめられているのか、けなされているのかなぁ……」
「誉めているんです。ものすごいスピードで読んでいくんですもの……」
 はじめはなんだ、この女!本の1冊や2冊すぐ読めるぞ、とかムキになっていたけど、本なんて
ほとんど読まない俺にはその1冊、2冊が苦で、相当かかっていた。
 けど、本を読むうち活字にもなれ段々本の虜になってしまったのだ。
 そのうち如月さんを意識するようになって、同じ物を持ちたいような気分になり、本を読みまくっているだけだったりする。
 ……。
「如月さん」
 そんなことを考えると如月さんへの思いが強くなってきて、ついその名前を呼んでしまった。
「はい?なんでしょう」
 勢い欲こんな近くで呼んでしまったから如月さんはビックリしている。
 少し間が開いて。
「どうかしました?」
「ご、ごめん…」
 別になんでもなかった。ただ、その名前を呼びたかった。
「大きな声で私のことを呼ぶので少しビックリしてしまいました」
「本当、ごめんね」
「いえ、別に大丈夫ですけど、本を読んでいる方もいらっしゃるので……」
 と図書館の奥を覗くと数人がこっちを向いていた。
「ああ、本当だ。まずいなぁ……」
「気をつけてくださいね」
「はい」
 …この「はい」というのが実に照れくさかったりする。
「さて、それじゃぁ、今日はなにを借りていこうかなぁ……」
「たまには頭を休めるためにこんな本はどうですか?」
 と如月さんが持ってきたのは片付ける前の本だった。
「たまにはこういう本も面白いですよ」
「どれどれ……」
 如月さんには珍しく恋愛物ではなかった。
「へぇ、如月さんはこういう本も読むんだ」
「ええ。たまに読みますよ?でも、恋愛もののほうが圧倒的に数は多いんですけどね」
「俺もそうだね。如月さんに影響されているから」
「そういえばそうですね。私の勧めるものばかり読んでいるような気がします。たまにはご自分で選んで
みてはどうでしょう?」
「う〜ん……。そうはいってもねぇ…。なんていってもこのきらめき高校で本のことを聞くのは如月さん
が一番だし。本を読んでいる冊数でいったら絶対かなわないし…」
「そうでもないようですよ?私のほかにもう一人ものすごい人がいらっしゃいます」
「そうなんだ。知らなかったよ…。如月さんよりすごい人がこのきらめき高校にいるとは」
 くすっと笑って、
「読んだ数では私のほうが読んでいると思いますけど…。スピードがすごいんです」
「へぇ…。俺も頑張らないとな」
 …別に競争しているわけじゃないけど、そいつが無性に腹が立ってきた。
「それじゃ、そのお勧めの本と、まえから気になっていた歴史小説を借りていくよ」
「はい、わかりました」
 そう言って、俺はその本を持ってきて如月さんに手渡した。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
「本を読むのもいいですけど、たまには頭を休ませるのも必要ですよ?」
「まぁ、そういう点では好雄とたまに遊び倒すからなぁ…」
「そのあと、ここで寝るのはやめてくださいね」
 …まずいな。
「もうしないよ。他の人の迷惑になるし」
「そうですね。ここは静かな場所ですからあなたのようないびきだと……」
「それに如月さんにそういう姿は見せたくないし」
「……」
「如月さん?」
 怒られるのが続くのかと思ったけど。
「私は………」
 なんか顔が赤くなっちゃった。
「大丈夫?」
「は、はい。大丈夫です」
「そう、ならいいけど」
「ええ。大丈夫ですから」
「それじゃ帰るね」
 そういって、振り返って、図書室から出た、ところで。
「あ、あの……」
 如月さんが図書室から出てきた。
「何?どうしたの?」
「もうすぐ終わりなんで、一緒に……」
「ああ、いいよ。一緒に帰ろう?」
「はい。それではちょっとまっていてください」
 そういうと引き返していった。

 しばらくして鞄を持って如月さんが出てきた。
「それじゃ一緒に帰ろう?」
「はい」

 俺たちは本と恋愛の話に花を咲かせて帰宅した。
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