それでも、やっぱり。
 今日できらめき高校ともお別れか…。
 3年間長かったような、短かったような。
 卒業式も終り、後は帰るだけ。
 好雄はどうも、如月さんと帰るようだ。先日俺に、彼女が出来たってうれしそうに話してくれた。
 
 卒業式。
 俺は一番最初に好雄から聞いた伝説、というのを思い出した

『卒業式の日、庭の校庭の樹の下で女の子から告白されたカップルは永遠に幸せになれる』
 そう。
 今日だ。
 今日なんだ。

 3年間、ずっと俺は頑張ってきた。…つもりだ。
 好きな人のために。中学校から。
 詩織がこのきらめき高校を受験するというから、俺は必死になって勉強して、入学できた。
 同じクラスになって、3年間を一緒に過ごしてきた。
 詩織のために、いろいろ頑張ってきた

 今日、この日、俺には裁きが下されるんだ。

 生きるか。死ぬか。

 そう、俺は詩織のことが好きなんだから。


 んでも、どうしようか。ここにずっといるわけにも行かないしな。
 …机の中を確認してみる。
 
 …何にも入ってない。
 
 ……。
 そうか。ダメなのか…。
 ダメでも、詩織を探そう。


 俺は詩織を学校中探した。

 どこにもいなかった。
 もう、帰っちゃったのだろうか?

 終わったのか。俺の3年間は終わったのか、無駄だったのか。

 それだけが頭をよぎるようになる。

 学校中探した。
 部室、教室、屋上、体育館、保健室…。
 でも、どこにも詩織はいなかった。

「くそっ」

 3年間。
 無駄だったのか…。


 下駄箱の前まで来てしまった。
 でも、詩織には出会わない。
 もう、帰っちゃったんだ。

 絶望に打ちひしがれ、夕焼けに染められ心も落ち込む。
 
 しょうがないか…。

 幼馴染で、俺の初恋の人。
 3年間頑張ってこれたのも詩織がいたから。

 詩織と遊園地とか、公園とか、ボーリングとかいろいろ行って

 修学旅行で一緒に行動して

 同じクラブで頑張って

 一緒に帰ったり
 
 俺の3年間は何だったんだろうか…。


「帰ろうか…」

 これ以上いてもしょうがない。
 そう思って俺は自分の靴を…。
 あ、そうだ。かばんを忘れた。

 そう思って教室に戻った。
 絶望を背負って。

 もう一度、机の中を確かめてみる。

 何にも入ってない。
 もしかして、と期待を込めてかばんの中を見てみる。

 やっぱり、何も入ってなんかいない。

「詩織…」

 そう、呼んでみた。
 返す人はいない。
 夕日に染まっているだけ。

 俺がしゃべらないと静まり返った教室。
 いつもならいるはずの好雄や詩織、うざかった伊集院の姿はもういない。

 俺1人だけが教室にいる。

 3年間無駄だったんだなと思うと急に涙があふれてきた。

 誰もいない教室で、1人俺は泣いた。
 1人だと思うと余計に泣けてきた。
 なんともいえない感情で涙は止まることがなかった。
 1人で、夕日に染まる教室で泣いていた。
 1人のはずだった。

 1人だと思っていたけど、違っていた。
 いつからかわからないけど、隣に誰か座っている。
 詩織?
 いや、詩織じゃない。
 涙でぼやけてるけど、詩織じゃない。
 

 よく見ると…
 いつも廊下でぶつかってくる子だ。
 他の子とデートしているときに間違ってくる子だ。
 髪の毛に特徴のある子だ。


 顔をくしゃくしゃにした俺に、ハンカチを無言で差し出してくれた。
 俺はどうしていいのかわからず、とりあえず、それを受け取るだけ受け取った。
「ないてちゃ、私も悲しいよ」
 そう、俺に言う。
 そうだ。この子に覚えがあるぞ。いつも俺にぶつかってくる子だ。
 どうしたんだろう。
 やっぱり、こんなないてる男の姿は女の子には見せたくはない。
「私ね、好きな人がいるんだ」
 うつむいてないている俺にそう話しかける。

「ずっと自分の名前もいえなくて。あんまりお話とかもしたことなくて。でもね、私、その人のこと好きになっちゃったんだ。それでね、今日、卒業式だから、勇気を出そうって思って、彼のこと伝説の樹に呼び出そうって思ったけど、なかなか勇気が出なくてどうしようって、思っていたんだ」

「卒業式も終わっちゃって、机に手紙を入れて、彼に来てもらおうって思ったんだけど、私やっぱり勇気がなくて…。なかなかその手紙を置くことも出来なくて…。こんな時間になっちゃったんだ」

 そういって、制服のポケットから、白い封筒に入った物を俺の前に差し出した。
「受け取って…。くれるかな?」

 俺はどうしたらいいんだろう。いきなりのことでよくわからない。
「まだ、名前もいってなかったよね。私の名前は館林見晴っていいます」
 
 俺はうつむいて無言のまま聞いている。
「どうして泣いているのか私にはよくわからないけど…。でも、貴方が悲しいと私も悲しい」
 そういってうつむく館林さん。
 どうしようか…。俺に告白をしたいらしいけど。俺は詩織を…。

 初恋の詩織のことをあきらめられるのだろうか。忘れることが出来るのだろうか。

「ね。さっき、泣いている理由はわからないって言ったけど、なんとなくはわかるよ…。今日、卒業式だもんね…」
 そういって館林さんは席を立ち、庭にある伝説の樹を見るようにしていった。

 俺は彼女に、全部を話した。
 彼女にはつらいかも知れないけど、全部話した。話してしまった。
 彼女は、ありがとう、そういって微笑んで、でも、一粒の光るものを目からこぼした。
「私の気持ちは変わらないよ。多分、貴方の気持ちも変わらないと思うよ…」
 
 沈黙の時間が流れる。
 俺人生最大の選択か。

 そして俺に近づいてきて、
「受け取って…くれる…かな?」
 白い封筒を差し出す。
 彼女は俺のことを知った上でそれすらも受け入れる、ということなのか。それだけ覚悟があるということなのか。
「受け取ってくれるかな?」
 はっきりと、強く、俺の目の前に差し出した。

 少し迷った。
 それでも、俺は詩織が好きだ。
 多分忘れることは出来ないと思う。
 でも、彼女はそれを受け入れてくれる。
 
 俺は、それを手に取った。

「ありがとう。それじゃ、私先に、伝説の樹に行くね。待ってます」

 そういって、うれしそうに駆け出していった。

 それじゃ、俺も伝説の樹に行こうか。

 改めて、伝説の樹の下で彼女の告白を受けた。
 これでどうにか、3年間は無駄ではなかったのかと少し思った。

 彼女となら、ずっと幸せにいられるだろう。


 それでもやっぱり詩織はわすれられない。
 でも、彼女となら詩織のことは初恋だったと想い出に変えることが出来ると思う…。
END
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あとがき
こんなのを書いてみたかったのです。

初恋というものは忘れられないもの。
主人公にとって、詩織は初恋の人でそれはずっと忘れられないもの。
他の人に恋をしても、詩織は格別なはず。

ただ、これいまいちだよね…。

もし、そうなら、他の人が来ても主人公はふってしまう可能性が大。
リアリティを追求するなら、館林さんが来ても釣られず(ぉぃ)
ごめんなさい。
そういって、ふってしまうとおもう。

ただ、そういう主人公と、館林さんの思いをある程度重ねていくことで
って、いまいち俺の文章がダメダメだから重なってないけど…
主人公が揺れ動く。

でも、詩織に対しての初恋という気持ちはずっと持ち続けて行くだろう、と。

それを知った上での、館林さんの行動。

勇気はかなりあり、覚悟もかなり持っている。
一途な館林さん。

この役をやらせるには2人の女の子が候補に挙がってました
1人は館林さん。

もう1人は伊集院レイ。
実ははじめは伊集院だったのだけど、いまいち展開が動かず、館林さんにしたら
動いてくれたのでした。


初恋がテーマ?のつたない読み物でした

2010/5/29