雲ひとつない星空。
 窓の向こうは彼の窓。
 まだ電気がついている。
 机の上にある新しい日記帳はまだ一行も埋まっていなかった。
ときめきDIARY 〜藤崎詩織〜
 詩織はまっさらな日記帳を正面にして考え事をしていた。
 今年初めての日記。
 窓の向こうを見ると彼の窓。まだあかりはついていて、起きているようだ。
君…」
 そう呟いて。
 彼はなにをしているのかな、もう寝るのかなとかいろいろ考えていると日記も進まない。
「私は……」
 そして、日記に鉛筆を走らせる。

 高校生活最後にして残りわずかの学校生活。今年の抱負と大学入試、受験勉強などのことを記す。
 そしてまた鉛筆が止まった。

「…」
 窓の向こうを見て今日のことを思い出す。
 初詣に行った事。そしておみくじを引いて二人で大吉だったこと。
 そして、彼がものすごく喜んでいたこと。

「あのときの彼の顔、すごく驚いてそして喜んでいたわよね」
 今思い出しても詩織の方まですごく嬉しかったことを思い出す。
 
 たったそれだけだったけど、たったそれだけがものすごく嬉しくて、そしてものすごく貴重な時間だった。
「同じ大学にいけるのかなぁ…」
 いつもずっと一緒だった彼に対して詩織の少しの不安……。
 一緒に受験勉強をしているけど、彼のことが不安だった。
「大丈夫よね。彼もいつも遅くまで電気ついていることがあるし。きっと勉強してるんでしょう」
 たまに窓越しに詩織のことを呼んで勉強を聞いてくる事もあった。
 それが詩織にはちょっと嬉しかったり、途惑ったりだった。
 そして、その逆もある。大声だす事はそんなにはないけど。
「うふふっ」
 そのときの彼の顔を思い出して噴出した。
 
 日記には今日初詣に行った事を書き足した。

「今年も1年頑張らなくちゃ」
 鉛筆を置いて椅子から立ち上がる。
 そして窓を開けた。冷たい空気が部屋に入り込んで詩織を包み込む。
「寒いっ」
 空を見上げる。雲ひとつない星空。月が煌々と光っていた。

 一番気になっている向かいの窓をみつめて。
「一緒に同じ大学行こうね」
 そういうと、向かいの窓が開いて。そして、彼が手を振り、
「しおりー。一緒の大学行くぞー」
 そう大声答えた。
「うん」
 そう嬉しそうに詩織は答える。
「詩織ー。頑張るぞ」
「うん。頑張ってね」
 そう二人で言って、短い時間を過ごした。

「頑張っているのね」
「うん」
「無理して風邪とか引かないようにね」
「うん、詩織もね」
「うん。それじゃ私は寝るね」
「お休み、詩織」
「お休みなさい、君」

 手を振って窓を閉めた。
 そして向かいの窓の電気は消えた。
「お休みなさい…。一緒に頑張ろうね」
 そう呟いて開いていた日記帳に付け加えた。


 卒業式の日に勇気をください…、と。
END
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