Final Birthday
 天気のいい放課後。
 そうあのときのような天気。
 けど、俺の心は澄んでいた。
 今日は朝日奈さんの誕生日。そして、一緒にコンサートに行くことになっていた。
「おい!おいって」
 好雄が俺に声をかける。
「あ?ああ、好雄か」
「なんだよ、ぼーっとして」
「あ、ああ、ちょっとな」
「詩織ちゃんのこと考えていたのか?」
「いや、違うよ」
「じゃぁ、腹減ったか?焼きそばパン、食うか?」
「あほ」
「じゃぁ、生理か?」
「いっぺん死んで来い。男に生理があるか」
「ああ、そうか。じゃぁ、なんだよ?」
「であったときのこと思い出していたんだ…」
「お前?まさか……」
「ああ、そうさ…」
「俺にそのケはないぜ?あきらめてくれ」
「誰がお前に惚れるかよ」
「それもそうか」
「朝日奈さんだよ。朝日奈さん」
「ああ、そういやこんな天気のいい日の一年生のときだったよなぁ……」
 俺は始まりを思い出していた………。


 2年前の10月。
 秋本番になってきた頃。。
 俺は雲を見上げていた。
 教室から見える雲は白くてきれいだ。
 俺の心はそんな雲とは裏腹に黒くて今にも雨が降り出しそうだ。
「ふぅ…」
 とため息を一つ。
「おい」
「なんだよ?」
 横にいる好雄が俺に声かけてきた。
「なんだよ、その暗い顔は。お前、何かしでかしたな?」
「別に。詩織と何かあったわけじゃないぜ」
「そうかそうか、詩織ちゃんと喧嘩でもしたのか?」
「ぎく…」
 その言葉に俺は鋭く反応してしまった。
「図星……」
 好雄には簡単に見抜かれてしまったようだ。
「ああ、そうだよ。この間行ったデートでちょっとな…」
「そうか…。俺でよければ相談に乗るぜ?」
 ドンと胸をたたき、まかせろって顔している。
「いいよ。これは俺の問題だからさ」
「ったく、つれないやつだな。困ったときはお互い様だろ。って、お前がそういうのなら俺は深入りはしない。
それに今日は別の用事なんだよ」
「別の用事?」
「ああ、何の酔狂かしらないけど、お前と話がしたいって女の子がいてなぁ」
「はぁ?お前俺の気持ちわかってんのかよ?」
 好雄は俺が詩織の事を好きって言う事知っているのにどういうつもりだ?
 俺は好雄の事をちょっと疑った。
「そうは言っても詩織ちゃんと喧嘩したんだろ?気分転換でいいじゃないか」
「って、他の女の子とデートなんかしているところ詩織に見られたら、それこそ俺は終わりじゃないか」
「それもそうだな」
「って、あっさり言うなよ」
 好雄はぽんぽんと軽く言ってくるけど、果たしてどうしたものか……。
「とりあえず俺は話しつけたぜ。俺はそいつにお前の居場所を教えて退散するから、ここ動くなよ」
「へいへい。俺はここで真っ黒くなってますよ」
「そう落ち込むな。あの空のように澄んだ心になれるかも知れないぜ」
「はぁ?」
「ってことで、じゃな」
 それだけ言うと好雄は手を振って教室を出て行った。
 俺は放課後の教室で残っている。
 他の数人の生徒がおしゃべりをしたりいろいろしている。
 俺の憧れで幼馴染の詩織はいない。
 部活にいったんだろう。
「ふぅ……」
 とため息をつく。

 一人の女子が教室に入ってきたのがわかった。
 その女子はきょろきょろして誰かを探している様子。
 …目が合ってしまった。
 するとその彼女は俺のほうに近づいてくる。
 うっ。やばいか?
「あ、いたいた。朝日奈夕子で〜す」
「え?俺に用?」
「そうよ。君でしょ?」
「そうだけど?」
 その朝日奈と名乗る女の子は俺の名前を知っていた。
 俺が知らないのに相手が知っているのはどうしても気になる。
 特にこういう可愛い子が知っているとなると余計だ。
「なんで俺の名前を知っているの?」
「好雄君の友達でしょ?」
「ああ、好雄が言っていたのは君か」
「そうよ。ねぇねぇ、遊ぶとこいろいろ知っているんでしょ?今度どこかへ連れて行って」
「なんで俺が……」
「ねぇねぇ、いいじゃない。別に減るもんじゃないし。ねぇ、いいでしょ〜。君」
 甘ったれた声を出して俺を誘惑する。
 俺はちょっとドキッとなる。
君、顔赤いよ〜」
 こんなこと女子から言われた事ない俺はどうしていいのかわからない。
「ねぇねぇ。いいでしょ〜。君。おねがぁ〜い。どっかつれてって〜」
「……」
 他の生徒が俺のほうを見る。
「ねぇってば」
 俺は彼女のしぐさに困惑していた。
 嬉しいやら、悲しいやら。詩織の顔が浮んだりもした。
 ちょっと後ろめたいような感じになるのはなぜだろう?
「いいって言ってくれないと、大声で泣き出すわよ?」
「それだけはやめてくれ」
「じゃ、OKかな?」
「しょうがない……」
「ラッキー。約束したからね。今度ちゃんとどこかへ連れて行ってよ。それじゃね」
 そして、俺と朝日奈さんの出会いは始まった。



「ああ、そうだな。お前がわけもわからずに言ってきて、今じゃこんな状態だよ」
「お前にとって良かったんじゃないのか?」
「かもな。でも……」
「でもなんだよ?」
「詩織のことはずっと心に残りそうな気がしてな…」
 そう、朝日奈さんとはあれからいろいろ時間を一緒にできたけど詩織とは……。
 俺は今でも詩織のことを想いながらも朝日奈さんと遊んでいたりする。
「あきらめきれねってか?」
「ああ、けど、それもいい想いでさ」
「お前にとっての初恋ってやつだな」
「きれいなことさらっと言いやがって…」
「あん?変なもの食ったか??」
「なんでそうなるんだよ…。まったく」
「まぁ、いいか。しかし、お前らがこうなるとはねぇ……」
「俺も思ってもみなかったさ」
「さてと、もう時間じゃないのか?」
「え?ああ……」
 時計を見る。
「げ、やばい。ぎりぎりだよ。好雄が引き止めてくれるから」
「ほら、早くいけよ、朝日奈待ってるんだろ?」
「ああ、しかも、今日は誕生日だし」
「おお、いいねぇ。青春してるぜお前」
「お前は枯れてる……な?」
「人のことはほっとけよ。ほら、早く」
「ああ、それじゃな」
 好雄と別れ俺は教室を出た。
 今年でこのきらめき高校ともお別れ。
 朝日奈さんとも別れるようになるのはちょっと寂しい。
 けど、もし、気持ちが通じるのなら、あの伝説を……。
 など気の早いことを思う。
 けど、こうして朝日奈さんと遊んでいるとあっという間にすぎていくのだろう。
 
 
 俺は待ち合わせである校門に行った。
 
「遅いぞ。まったく」
 朝日奈さんはいつもの口調で待っていた。
 夕日が傾き朝日奈さんをてらしていた。
 けど、そんなセンチな情景は朝日奈さんに似合わないかな?
「ああ、ごめん……」
「ほら休んでいる暇はないんだから。コンサートに間に合わないよ」
 今日は朝日奈さんの行きたがっていた流行の歌手のコンサートの日。
「え、あ、ああ、待って、朝日奈さん」
「あん、もう、ほらほら、早く行くよ」
 そう駆け出す朝日奈さんを俺は呼び止める。
「ちょっと待ってって。ねぇ」
「え?なになに?まさか、ドタキャンじゃないよね?」
 そう言っていやな目つきで俺を見る。
「違うよ。ほら、今日誕生日でしょ?はい。プレゼント」
「え?まじまじ?超嬉しい。あけてもいい?」
「どうぞ」
 そういうとその箱をあける。
「あ〜。携帯テレビ電話じゃない。しかも最新型!」
「どう?」
「超ラッキー。あたし、これ欲しかったの」
 そういうとその携帯電話を宝物でもみるかのように眺めていた。
「いつも、ありがとう」
 そう朝日奈さんはちょっと顔を赤くして俺に言った。
 初めてみる朝日奈さんの顔かもしれない。
 いつもは遊んでばかりいる朝日奈さんだけど…。こんな表情は見たことなかった。
「あ、ほら、早く行かないと遅れちゃうって」
 そういうといつもの表情に戻る朝日奈さん。
「よし、行こう」
 そして俺たちはコンサートに向かった。
 最後のきらめき高校での誕生日。
 来年も2人でいられるかなと不安に感じながらも俺は朝日奈さんを見て安心していた。
END
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