帰り道
 放課後、誰かと一緒に帰ろうかと待っている俺…。
 正直情けないものがあるかもだけど、まぁ…。性ってやつ?
 
 …。清川さん発見!
「あ、清川さん、一緒に……」
「クラブで忙しいんだ」
 ……急いでいってしまった…。


 おお、今度は朝日奈さんを発見!
「おーい、あさひなさーん!どっかよって…」
「やっばーい!」
 ……って、こっちを見なかったよ…。


 あ、美樹原さんだ。
「ねぇー、みきはらさーん!」
「んっ……」
 ……何も言わないのかい…。

 ……あー、どうしよ……。好雄は好雄で如月さんとよろしくやってるようだし。

 あ、今度は虹野さんを見つけたぞ。
「にじのさーん!いっしょ……」
 といいかけた途中で、
「クラブがあるから…」
 はぁ…。そうですか…。マネージャーさんって大変なんですね…。

 で、ちょっとうろうろする俺…。
 ……。おお、今度はきらめき高校きってのアイドル、鏡さんだ。
「おーい。かがみさーん!!」
「さぁ、帰るわよ、みんな」
「はい、鏡さん!」
 ……。無視かぁ……。大勢のファンを連れていたぞ…。

 あー。
 今日はついてない……っと、優美ちゃんだ。
「優美ちゃーん!」
「……ぶっーっだ!」
 …………。
 

 そこに紐緒さんが通りかかる。
「ああ、ねぇ、紐緒さん…」
 俺のことを下から上に見て、目線が合う。
「よかったら……」
 腕時計を見て。
「時間の無駄ね」
 ……。時間の無駄かい…。

「はぁ……」
 あ、っと古式さんだ!
「こしきさーん」
「申し訳ございません。私、少々用事があるものですから、急いでおりますので…」
「はぁ、それでは、失礼いたします…」
 ……丁寧に断られた。それに、コトバうつっちゃったよ…。


 回りを見渡して、きょろきょろして、数分だろうか?

 あ、今度は片桐さんだ。先日一緒にデートしたし、今度こそ。
「片桐さんっ!一緒にー」
「Sorry ごめんなさい。I'm buzy.忙しいの」
 はぁ…。そーですか…。

 ……なんか、知り合い、みんなに断られた気がするぞ?
 って、俺にはまだ希望はある。
 幼馴染の詩織だー!

 そう気張って詩織を待つ事に。
 なんでも、今日は生徒会だかで遅くなるとか言ってたけど……。


 ……。ぼーっと待つ俺。
 ……。待ちぼうけ。
 ……。これで詩織からも断られたらどうしよう?
 ……。いや、大丈夫、そう、大丈夫。詩織。幼馴染だし。

 とか考えていると、親友の好雄と如月さんが通りかかる。
「よう!暇人」
 声をかけてきたのは好雄が先だった。
「別に暇人じゃねぇさ」
「だったら、お前、こんなところでなにしてるんだよ?」
「なにって……」
「はっはーん……」
「なんだよ」
 好雄との会話は相変わらずだった。
 けど、如月さんは軽く会釈をしただけであさっての方向向いてるよ…。
「あとは、詩織ちゃんだけってことか?まったく、お前もなぁ……。いいかげん目を覚ませよな?」
「なにが?」
「お前が……。って、あとで電話するわ。未緒と一緒だと、ちょっとな」
 そう耳打ちした。そして、じゃぁなと、いうと、
「ごめんね如月さん、帰ろうか」
 そう言って二人は去っていった。
 好雄はこっち向いて手を振っていたけど、如月さんは目を合わせず軽く会釈だけしてさった。
 …何なんだろう?目を覚ませって?
 俺には何のことだかわからないぞ?

 あ、詩織がきた。
「詩織ー。一緒にか……」
「………」
 何も言わず立ち去った。


 …。
 終った。

 残り少ない高校生活。
 青春は終った…。
 伝説は無駄なのか………。


「やあ。一般庶民A!」
 いきなり後ろから声をかけられたので、俺はびくっ!と驚いた。
 他でもない、同じクラスの伊集院レイ。
「どうしたのかね?庶民よ。高貴な僕のような人物に声をかけられて、ありがたいとでも思ったのかね?」
 ……相変わらず嫌味だよなぁ…。
「いや、驚いただけ…」
「おお、そうか。やはり庶民に声をかけたことで驚いていたのか、すまないねぇ、僕には庶民にも
声をかけるという慈悲を持っているのだよ」
 ……。はいはい。そうですか……。
「ところで、散々だったようだねぇ」
 ……。全部見てた?
「この僕が全部君の行動は見させてもらったよ」
 ………。
「君のような男性がもてるわけあるまい?勉強はダメ、運動もダメ、目立たない」
「はっきりといいやがって!」
「まぁ、そんな君にも神の救いが有ることを忘れてはいけないぞ?」
「はぁ?」
「今日は特別にこの僕が一緒に帰ってあげようじゃないか」
「いい、遠慮しておく…」
「そう遠慮をするな。この僕と一緒に帰れるなんて、そう滅多な事はないぞ?」
 ……。
 そういうと伊集院はぽんっと俺の背中を押した。
「?」
 …。その手は背中越しだけど、なんか、すごくやわらかく、やさしくて、暖かかった。
 それでちょっと違和感を感じた。
「ほら、早くしないと置いていくぞ?」
 俺は仕方なく、嫌々ながらも伊集院と帰ることにした。
 …気のせいか?


 しばらく無言で歩く二人。
 俺は少し伊集院の後ろを歩いていた。
 普通の男子とは違う制服。
 きれいな色の長い髪の毛。
 そして、俺と同じくらいの背丈。
 伊集院財閥の一人息子。
 いつも嫌味な事を言い、バレンタインではトラック何十台ものチョコをもらう。
 ……電話でも嫌味ばかり。
 そんなことを後ろから考えながらの帰り道。
 男二人で夕日に照らされている。
 …あまりいい感じじゃないよなぁ。
 
 途中で伊集院が立ち止まった。
 川の土手。
 俺も止まる。
 夕焼けで水面がきらきらときれいに光っている。
「いつもなら外井に迎えをよこすんだが…」
 そう、リムジンでいつも登下校している。
「なんで、今日は歩きなんだ?」
「車の調子が悪いらしいのだよ。あいにく他の車は車検でねぇ」
「はぁ…」
 …いつもなら自家用ヘリとかになるはずだが…。
「あいにく自家用ヘリも使用中でねぇ…」
「運が悪いときもあるもんだな」
 水面を見てそういった。
 俯いて。
 なんか、いつもの伊集院とは違うような…?
「まぁ、君にとっては運がいいのだろうな、はっーっはっはっは」
 高笑いをしてこっちを見る。
 ……運がわるいわ、と思う俺。
 ……。なんか、伊集院嬉しそう?
「この僕と一緒に帰れるなんてそうそうないんだから」 
 ……?
 後ろ向きで話している伊集院。その表情はわからない。
 が、光る一雫が落ちるたようなきがした。
 涙?それとも水面のせい?


 伊集院はハンカチを出して顔を拭く動作をした。
 それをポケットにしまって、振り向いた。
 …やっぱり泣いてた?いや、涙を流した?


「さて、帰りましょう」
「え?」
 いつもの伊集院の声じゃないし、伊集院のあの口調じゃない。
 それに、焦ってるっぽい。
 夕日のせいかどうか知らないけど、頬が赤いぞ?
「伊集院?」
「なんだね?どうかしたか?」
 ……?いつもの伊集院だよなぁ?
「ほら、まだ先は長いぞ?さっきまでは君が僕の後ろを歩いていたから、今度は君が前を歩きたまえ!
僕より先に歩くなんてこと天皇陛下と話をするくらい貴重なことだから、経験しておいたほうがいい」
 ……。なんだよ、それは。
「はいはい、そうですか…。それじゃ、帰りますよ、伊集院」
 そう言って俺は歩き出す。
 伊集院はちょっと後ろを歩いている。

 また無言の歩行が始まった。
 仲のいい女生徒たちだったら、仲良く話しなんかして歩くんだろうけど、伊集院じゃなぁ…。
「君はどういう趣味を持っているのだね?」
 唐突に切り出す伊集院。
「これといってないけど……。スポーツやっているわけじゃないし」
「そうか。今度、伊集院家が誇るスポーツジムに特別に案内してあげようじゃないか!あそこは
すばらしいぞ。プロ野球選手やサッカー選手も利用しているというところでねぇ……」
 ……。興味ないっというのに。
「へぇ…。そうなんだ」
「あまり興味がないようだな…」
 ……そのとおり。
「それじゃぁ、伊集院家が誇る最新鋭のスタジオの話とか…」
「……」
「これも興味ないようだねぇ…」
「悪かったな」
「いや、僕のほうこそ、すまないねぇ…。庶民と高貴な僕とではギャップがはげしすぎたようで」
 ……。また、嫌味かよ。
 俺は何も言わず、先へ進む。後ろを向かないので、伊集院がどんな表情で話しているのかわからない。
 それに、別段、興味も湧かない。
 電話で散々嫌味を言われているより、数倍の嫌味を聞かされているというだけの話だ。

 また、無言の歩行が始まった。
 今度は伊集院から切り出す事はなかった。
 そして、俺からも。
 
 俺の後を伊集院が歩いている。
 …。世にも珍しい光景とでもいうのだろうか?
 確かにこんなこと今までありえなかった。

 そんなことを考えていたとき十字路に差し掛かる。
 俺はそのまままっすぐ行こうとしたとき、伊集院が俺を呼び止めた。
「おっと。君はそっちなのかい?」
「ああ、俺はこっちなんだ」
「そうか。それじゃぁ、ここでお別れだ。僕はこっちの方角なんでね」
 と、俺とは90度逆の方を指差した。
「ああ、そう」
「今日はとても楽しかったよ。庶民の大変さも少しは理解できたようだよ。はーっはっはっは」
 …はいはい。
「それじゃぁな、会いたくないけど、明日も会うだろうから、また明日な、学校でな」
 とだけ、言っておいた。
 そして、振り向き、少し歩いたところで、

「ありがとう」

 そう確かに声が聞こえた。
 その声は伊集院の声ではなく、いや、確かに伊集院なのだろうが、あの時「帰りましょう」と
いったときの感じの声だった。
 
 俺は振り向いて、伊集院がいるだろうと思うほうを向いたけど、そこには伊集院はいなかった。
 
 
 家に帰って、好雄からの電話があり、どうも、詩織を傷つけたというウワサが流れて、
みんな俺に対して怒っているらしいとの事だった。
 ……。そういや、デートだって言うのに、伊集院にいつもの癖で電話をしてちょっかい出していたんだっけ。
 ……きらめき高校の伝説なんて、俺には無関係なんだな………。
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あとがき
元ネタはGB版ですね。
伊集院と一緒に帰るというイベント。
あれですわ。

電話しまくっていて、もし、外井の迎えも途中でなかったら…。なんてなお話。

全てふられていても、電話さえしてりゃ伊集院は本来の姿で登場してくれますからね。
彼にはやっぱり、最後には神の救いってのはありました、ってことで(笑)