気づかぬこと
 1日の授業が終り、放課後。

 クラブに入っているわけでもないので、帰るだけだ。さぁ、帰ろう。
 でも、何か忘れているような気がする。
「お、帰らないのか?」
 と好雄に声をかけられて、「おう、帰ろうぜー」なんていったときだった。何か忘れているような、変な気分になった。
「おい、どうした?」
 廊下の途中で声をかけられ「ちょっと用事あるからー」と、引き返す、俺。

 思い出した。まぁ、好雄には隠しても何にもないから、素直に話した。相変わらず好雄は「そうか。まぁ、がんばれよ」なんて、俺に言ってくれる、いいやつだ。
 
 さて、教室に戻ってきたものの。
「うーん…」
 
 先週のことだ。−来週の月曜日、放課後教室で待っていてね−
 そういわれたのを思い出した。
 でも、誰だったろう。紐緒さんと、鏡さんじゃないのは確かだ。彼女たちなら「待っていてね」とは言わない。仮に言ったとしても「待ってなさい」どちらかというと、こう命令口調。
 詩織でもない。詩織とならすぐに思い出すし、そもそも、同じ教室なんだし、待っていてね、なんて…。

 如月さんと、美樹原さんもちょっと口調が違うよな。彼女たちなら、待っていてくださいとか言ってくるはずだし。
 はて、じゃぁ誰だったろう。古式さんでもないな。彼女なら、もっとこー、「お待ちいただいてもよろしいでしょうか」見たいな感じで、まどろっこしく感じるし。片桐さんでもないよな。彼女も、英語交じりの口調だし。

「思い出せない…」

 何人かが残っている教室で、俺は1人自分の席でつぶやく。
 
 残っているのは、清川さん、朝日奈さん、優美ちゃん、虹野さんの4人だ。
 んでも、清川さんは違うよな。清川さんも、待っていてねっていうより、待っててくれよっていう感じだし。

 そんなことを考えて、時間はすぎていく。

 あー、そういえば、少し遅くなるかも。とかも言っていたような気がする。
 ちょうど、そのとき、いつもの変な髪の毛の女の子にぶつかったときに言われて、そっちに気とられてたからな。その「誰か」に言われたのもそのときだったんだっけ。

 というと、うーん…。やっぱり思い出せないや…。
 

 このまま帰るのもまずいしな。この前みたいに変な噂とか立って大変なことになるのはゴメンだし。


 3ヶ月前くらいのことだった。
 なんでも、好雄から聞いたんだけど、紐緒さんを傷つけたという噂が流れて散々な目にあった。
 紐緒さんからは変な実験されそうになるわ、詩織は口を利いてくれないわ、優美ちゃんにまで嫌われるわ、朝日奈さんも一緒に遊んでくれなくなるわで電話するのだけで大変だったのを未だに覚えている。
 好雄曰く、自業自得だろ、とか言われたけど、俺が何をしたというのか…。
 度重なる紐緒さんからの執拗な変な実験につき合わされるのが嫌で紐緒さんのことを無視し続けていたのがいけなかったようだが。あれはさすがにカンベンしてほしいかった。
 未だに、その紐緒さんのあやしい実験にはたまに付き合わされるが。


「だれだったっけっかなぁ…」
 まぁ、遅くなるっていっていたから、朝日奈さんじゃないよな。

 …まてよ。朝日奈さん、いつも遅刻で先生に怒られてるからそれで遅くなるとか。
 いや、それはないな。
 あらかじめ先生に怒られるってわかっているくらいなら朝日奈さんなら行かないに決まってる…。


 残るは優美ちゃんか、虹野さんのどっちかってことになる。

 優美ちゃんは、昨日好雄と一緒に遊んでたから、それはないな。

 じゃぁ、虹野さん?
 消去法で行くとそういうことになる。
 虹野さんなら、クラブのマネージャーだし、遅くなるからっていうのも、納得がいく。

 というか、虹野さん、俺になんの用なんだろう。こっちから行った方が早そうだ。


 そう思い、俺は虹野さんのいるであろう、グラウンドに行くことにした。
 彼女はサッカー部のマネージャーをしている。部室にでも行けばあえるだろう。


 彼女はグラウンドでメガホンもって、声を張り上げてサッカー部の人たちを応援していた。
 
 なんか、声かけずらいけど、遠巻きに見ていたら気がついてくれたようだ。
「あ、ごめんね。私に何か用?」
「え?」
 思わず声をだす。

 どうも違ったようだった。
「あー、ごめん。忙しいようだから。お邪魔しました。これといって別に用はないから…」
 そう?って、虹野さんは怪訝そうな顔をして「それじゃぁね」って戻っていった。

 うーん…。虹野さんじゃないとすると誰だろう?
 

 どうしよう。優美ちゃんがいるバスケ部のほうにもいってみようか?いや、一度、教室に戻ろう。
 
 もしかしたら、その誰かが来て待っているかもしれない。
 もし、そうなら、待たせてしまっていることになる。
 


 教室に戻ると、俺の席に座っている人がいる。
 俺が来たことを知るや否や

「どこへいってたの?待っていてねっていったじゃないかよ!」
 そういきなり、まくし立てる。

 意外な人物だった。
「ごめん。ちょっと、急用が出来ちゃって…」
 とごまかした。
「ま、いいけど…。ごめんなさい。私も待たせちゃって」
 そうだ。なんで俺は今まですぐに思いつかなかったんだろう。

「ごめんね、ほんとうは昨日渡したかったんだけど、私水泳の大会があってね」
 そういって、彼女はかばんからきれいな包み紙にくるまれたものをだして、
「はい。1日遅れだけど、誕生日おめでとう」
 そういって俺に差し出してきた。

 そうか。昨日は俺の誕生日だったっけ。
「なんだよ、私からじゃうれしくないかい?」

「ごめん。その逆だよ。ありがとう、清川さん」
 その誕生日プレゼントを俺は受け取った。
 少し照れる。
 
 彼女も少し照れくさい感じで、その場を去ろうとしていた。
 
 そうだ。彼女だったんだ。
 

 多分、彼女はいつものように「それじゃ」って、言おうとしていたのだとおもう。それを言うのより先に
俺が言葉を発した。

「クラブのほうは終わったの?」
「うん」
「久しぶりに一緒に帰ろうか」

 少し間があって、
「う、うん。いいよ。かえりましょう」

 いつもは男っぽい言葉使いだったけど、最近ちょっと変わってきたなって、思っていたんだっけ。
 なんで俺はそれにもっと早く気がつかなかったんだろう。

 出会った頃はたまに一緒に帰ることもあったのに、最近はなかったよな。何でだろう。
 そんなことを考えながら2人で学校から帰った。
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2011/5/29

久しぶりに。

クラブがある日でも誕生日にはしっかりその日のうちにプレゼントをくれる彼女たち。
同じクラブに入っているならわかるけど、わざわざ遅くにーとかすごいです。

普通は、先に渡すか、後になるかだと思うんだよねぇ。

あー、愛があるから、遅くなってもその日に無理してでも渡そうとするのか…。


ときめも初代の主人公って、鈍感だよね。
ものすごく。

清川さんの口調にも気がつかず、館林さんのタックルにも気がつかず。

そんな鈍感さと、清川さんがときめいちゃうと、一緒に帰ってくれないので、その辺を出してみました。

うん。久しぶりだから、こんなもんで精一杯だわ…