「きれいだね…」
「うん。これで最後かと思うと……」
 俺と片桐さんは夕日を眺めていた。
「最後だなんて…」
「YES!これで最後なんだから〜高校生活で、最後なんだよ〜」
最後の夕焼け
 隣には片桐さん。
 二人は校舎の屋上で沈み行く真っ赤に燃えた太陽を見ていた。
 その太陽は赤く情熱に燃えていた。
 …俺の心みたいに。
「what?どうしたの?真剣な顔しちゃって?」
「いや、片桐さんとこの夕日見るのが最後だと思うとね」
 そう、今日で最後なんだ…。
「Don't mind!!気にしないの。私は帰ってくるから」
 なんでも、留学するようだ。
 俺は片桐さんのことが好き。言えないでいるけど、でも、大好き。
「また見られるよ。この夕日。一緒にね」
「うん…」
 そんな俺の心を知ってか知らずか、嬉しい言葉を言ってくれる。でも、俺はそんな言葉を信じちゃいない。
「今日、行くんでしょ?」
「YES 残念だけど、そうなるわね……」
 …今まで俺の時間は何だったんだ!!
 これまで彼女に出会ってきた2年半は!!
 俺は悔しく泣きそうだった。夕日がにじんで見える。
「明日か…。卒業式だよね」
「そうよ。卒業式には出られないけど、ちゃんと卒業書はもらえるようだから大丈夫ね」
 …俺は大丈夫じゃないんだけど…。
 片桐さんは知ってるのかな?
 いっそのこと聞いてみようか?
「私ね。すごく後悔するかもしれない…。明日卒業式の日に出られないこと」
「え?それは…」
 知ってるのかな?
「うん。高校最後だもの。みんなとも最後だもの。一緒にいたいよね。卒業式……」
 ……
「そうだね」
 俺はこんな返事しかできなかった。
「明日か…。すぐだよね」
 といって俺のことを見つめる。
 …片桐さんの顔がすぐ目の前にいる。
 手を伸ばせば自分の物になりそうな予感がした。

 夕日は無常にも傾いてゆく。

「すごく寂しいけど…」
「ねえ、片桐さん!!」
 俺は片桐さんの言葉をさえぎり言おうとした。
「どうしたの?そんなに大きな声だして?」
 髪の毛をなびかせ振り向く。そのとき一つの雫が落ちたのを俺は見逃さなかった。
「片桐さん。俺。俺さ…」
「NO!!言わないで!!別れがつらくなるから」
「でも、ここで言わないと…」
「Me too 私も一緒。すごくつらいの」
「…」
「だから、これで終わりにしましょ?」
 嫌だ!!俺は好きなんだ。離れたくない。
「きっと帰ってくるからね……」


 そういうと俺の呼び止めるのも振り切って去って行った。 
 一人その場に残された俺は傾き半分以上顔を隠した夕日を眺め泣いていた。
 一人で……。
 そして、泣きながら帰り、うちに帰ってから片桐さんの家に何回電話をしても出る様子はなかった…。



 そして…
 卒業式の日。
 くだらない卒業式が終りいよいよ本当の最後になった。
「なあ、好雄。俺はなんだったんだ……」
 むなしく好雄に問う。
「そうがっかりするなよ……」
 好雄もむなしそうだ。お互い伝説は無意味ということになった。
「帰ってくるっていったんだろ?」
「ああ、でも、意味ないよな…。今日じゃないと……」
「そうだな……」
 野郎二人ですごくむなしかった。
 玄関先で二人むなしく語っていた。
「こうしていてもしょうがない!!ナンパしに行こうぜ!!な!」
「いいよ。遠慮しておく」
「何だよ。つれないやつだな。せっかく彼女がいないんだ!!これは特権だぞ!」
「そんな特権いらね―よ」
「おい。なに怒ってるんだよ?な、一緒にかわいい彼女誘おうぜ?」
「いいって。おまえ一人でいけよ。そんな気分じゃない…」
「…ったく。しょうがない。後悔するなよ。俺がかわいい彼女見つけても、『好雄!!俺にも見つけてくれ!!』
って言っても、知らないからな」
「…言わないから。さっさといけよ」
「じゃあ、行くぞ」
「ああ。またな」
 そしてうるさい好雄は去っていった。
 …好雄とは同じ大学だし、嫌でも会える。
 
 ……
「やっと一人になったよ」
 俺は大きくため息をついた。
 校庭のはずれにある一本の古木。
 伝説の樹……。
「やっぱ。ダメなんだろうなぁ…」
 遠くからそれを見た。
 それは大きく緑の葉っぱが見守るように茂っていた。
「関係ないんだな…」
 俺はその樹を見つめて
「片桐さん」
 今ここにいて欲しい人の名前を呼んでみた。
「YES!!」
 …俺は聞きなれた声がしたのを聞いた。
「片桐さん!!」
「YES!!ここよ」
 目をきょろきょろさせ、声の発生位置を探す。
「こっちよ」
 そう言って手を振る片桐さんの姿があった。
「片桐さん!!!」
 俺は大喜びで片桐さんのところに駆けて行った。
「どうしたの?もう、飛び立ったんじゃ…」
「そうなるはずだったんだけど…。手違いで一週間後だったみたいなの」
 少し申し訳なさそうにうつむく。
「え?」
「だから、まだこっちにいられるのよ。それで来たの。
さすがに卒業式には出にくかったから出なかったけど…」
「でも、どうしてここに?」
「それはね…」 
「それは?」
「それは…。あれよ」
 そう言って指を伸ばして何かを指しているようだ。
 俺はその方向に目をやると、そこにあるのは伝説の樹。
「樹?」
「YES!伝説の樹!!」
 それって…
「誰かに、こ、告白……」
 そうか。するんだ。俺は確信した。

「Let’s go!!さ、早く行きましょ」

 そう言って俺の手を引っ張って伝説の樹の下についた。
 木漏れ日の中二人、樹に見守られて……。
END
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