二人の想い出
 あと少しで卒業も迫った2月。
 春はまだ少し。俺、は確実に「春」そして、卒業に向けて歩んでいる。
 卒業後の進路も決まり、きらめき高校残り少ない生活を送っている……。
 今日は清川さんとデートの日。
 最後のデートという事で一緒に近くの公園に行こう、そう決めていた。
 いや、正確には清川さんがそういいだしたのだ。



「待ち合わせまであと少しあるな」
 俺は腕時計を見る。
 去年のクリスマスのとき清川さんからもらったものだ。
 いや、正確には偶然にあったものだというのが正しい。
 …偶然とは恐ろしいもので何の相談も無かったのだが伊集院のクリスマスパーティのプレゼント交換であたってしまった代物だった。
 クリスマス後、その話が出ると清川さん、すごく喜んでいたっけ。
 そして、当然というかなんというか、清川さんの腕にも同じ腕時計がされているはず。
 
「今日はいい天気だなぁ……」
 絶交のデート日和だ、など考えて空を見る。
 まだ寒いものの雲ひとつない青空が広がっている。
 
 この時間が待ち遠しかった。
 いつのまにか清川さんへの想いが募っていく。
 部活も一緒に入ってしまったし…。
 そして、気がつけばほとんど清川さんと過ごしていた時間が多くなっていくのに気がついていたのだった。

 俺はそんなことを考えながら清川さんが来るのを待っていた。
 いつものことながら早く来ている俺はいつも清川さんのことを待っていた。
 それは最後の最後もそうだった。
 そして、俺がこうして時計を見て待っていると必ず、

「ごめんなさい、。今日も待たせちゃったね……。最後の最後まで……」
 そう言ってくるのが清川さんだ。いつのまにか俺のほうが早く来るようになっていた。
「いいよ。清川さん。けど、こんな公園でよかったの?もっとほかに……」
「ここがいいの。二人のであった場所だもの」
「そうだね」
 
 出会いは今から3年前の初夏。この場所。
 詩織にいいところを見せたいと体育祭の前に朝ジョギングをしていたときだった。
 彼女はなんと50キロも毎朝走っているとのこと。
 そのとき「あっ」と思った。
 朝ジョギングするなんて俺が言ったもんだから、好雄のやつ、彼女の事を知っていて俺に言ってきた。
 「お前、清川さんか?詩織ちゃんはどうするんだ?」と嫌というほど言われた記憶がある。
 けど、そのときは清川さんのことなど知るはずも無く、誤解を解いたのだ。

 それが詩織のためにと頑張ってきたがいつのまにか清川さんになってしまった。
 俺は清川さんとこの場所へ来るのは嫌だった。
 そう、詩織の想い出もここにはあるから……。
 でも、それはいい思い出へと変化していったのだった。
「どうしたの?。考え込んじゃって」
 清川さんは不思議そうに俺の顔を覗いてきた。
「な、なんでもないよ」
「どうしたの?顔赤いよ?」
「な、なんでもない…」
 急接近した清川さんの顔のせいで赤くなっていたらしい。
 俺は話をそらす事にした。
「ここは二人の出会いの場所だもんね」
「え?何急に言い出すんだよ…。照れるなぁ」
 そういうと今度は清川さんが頬を染めた。
 可愛い。
 そう、いつもは水泳などに熱い清川さんだが、こういうところもあり、それはこの俺が知っているというとすごく嬉しかった。
「ここは静かだよね」
 と赤く頬を染めたままの清川さんがちょっと顔をそらして言った。
「そうだね。ここは昔からあるけど、そんなに騒がしいって言うところじゃないね」
「うん。こういう静かなところは……、ちょっと苦手だけど、一緒にいるとそうでもないかな」
「え?なに?清川さん」
 俺はちゃんと聞こえたはずなのに聞こえないふりして聞き返してみた。
「え?なに?」
 …今度は清川さんに同じようにされてしまった。
「子どもの時はよくここで遊んだんだよ」
「一人で?」
「いや、詩織と……」
 と言い出してはっとなった。
 ここには詩織の思い出が多すぎる。
 他の女性(ヒト)の名前を出すのはまずかった、そう思った。
「ふーん……。藤崎さんとは幼馴染だったよね?」
「うん。ごめん……」
 一応謝っておく。
「なんで謝るんだよ?何かしたのかい?」
 不思議そうに言う。
「いや、別に……」
 というと、
「ああ、いいよ」
 これが清川さんなりの気のきかせ方なのだろう。
「二人で砂場でお城を作ったり、ブランコで遊んだり…」
「楽しかった?」
 と意地悪な質問をされる。
「うん。まぁ……。いい思い出かなって」
「そう……」
 ちょっと悲しそうな顔をした清川さんがそこにいた。
「あ、ごめん……」
「ああ、いいよ。昔ののことを聞けてね」
 俺のほうが気をつかわなければいけないのに逆に気をきかせてしまったようになった。
「詩織とはずっと一緒だったけどね。いつのまにか離れていたよ。家も隣同士なんだけどね」
「……」
「お互いに意識していたのかなとは思うけど……」
「……」
 清川さんは黙ったまま。それもそうだろう。よりによって他の女性のことを話しているんだから。
 でも、清川さんは聞いていてくれた。ちょっと嬉しいよな悲しいような変な感じがした。
「そして、俺はきらめき高校に入学するんだ」
 いつのまにか俺の変な話になっていた。
「藤崎さんが……気になっていた?」
「!」
 図星だった。
 朝ジョギングするのも詩織のためだったのだ。
「顔に書いてあるよ。そうだって」
「否定はしないけど……」
「それで1年生のとき私に出会っちゃったってこと?」
「そう」
「なんか複雑…」
「俺はよかったよ。こうして清川さんといられるんだもの」
「わ、私も……」
 二人で俯く。
 なにかものすごく恥ずかしいことをさらりと言ってしまったような気がした。
 そんなことを話して時間をつぶしていた。
 いい天気で風も気持ちいい。…ちょっと寒いけど。
 公園内をぶらぶらしていた俺たちはいつのまにかブランコに乗っていた。
 子どものころは足がつくかつかないかだったのにいつのまにか余裕に、いや、足のほうが長くなっていた。
 二人でブランコに乗っている。こうしていると隣には清川さんでなく、詩織がそこにいるかのようにすら思えてきた。
 口にまたでそうだったので慌てて口をふさいだ。
「どうしたの?急に……」
「いや……」
「また昔の思い出?」
 清川さんは何でもお見通しらしい。
「ごめん」
 素直に謝っておいた。
らしいね」
 そう一言だけいうと清川さんはとっても優しい顔をして俺をみた。
 この顔に俺は弱い。いつも気丈な清川さんが見せるこの優しい顔。
 すごく好きだ。
 俺はブランコを軽くこぎだした。
 横では清川さんが座って笑っている。…子どもみたいとでもいいたそうにしている。
 頭の中では遠くで隣に詩織がいた。
 でも、それはそれ。今隣にいるのは清川さんなんだと、強く言い聞かせる。
「ねぇ、清川さん」
 といいかけたとき。
 子どもの泣き声が聞こえてくるのがわかる。
 俺は泣き声を探す。
 清川さんはその場所を特定できたようで隣にはいなかった。
 俺もそのほうへブランコをとめて向かった。
 泣き声は男の子のものだった。
 まだ小さな子どもで幼稚園生くらいだろうか……。
 回りを気にせず泣きじゃくっている。清川さんの優しさの本領発揮というところだろうか、必死でその男の子のことを
なだめようとしている。
「どうしたんだよ?何ないているんだい?」
「うわーん」
 そんな優しい清川さんの声を一向に聞かず、ただ泣くばかり。
 俺もその近くに行ってその様子を見守る。
「ほら、泣いてちゃわからないでしょ?」
「うわーーーーん」
 男の子は泣くばかり。
「ほら。男の子は泣かないんだよ。な?」
 そういうと清川さんがハンカチを差し出した。
「っく……」
 両手で涙をぬぐう。
「どうしたのかな?」
「わからないよ。聞いてみなきゃ……」
 それもそうだと納得。泣いているだけの子どもをみてどうしたのかわかったらすごい。
「どうして泣いているんだ?」
 と俺が声をかける。
「うわーーーん!!」
 …さらに泣き出してしまった。
「あーあ、もうちょっと優しくしないとだめだよ。泣き出しちゃったじゃない…」
「ご、ごめん……」
「私に謝ったってどうしたのかは聞けないわよ」
「それもそうだ……」
 俺がやってもダメそうなので清川さんの様子を見守る事にした。
「ほら。どうしたのかな?おうちがわからなくなっちゃったのかな?」
 そういうと男の子はふるふると首を横に振った。…違うらしい。
「誰かにいじめられたの?」
 今度はきょとんとしている。なんだかわからないようで、今回も違うらしい。
「じゃぁ……。ねぇ、何だと思う?」
 と目線を子どもに合わせていた清川さんが俺にふった。
 正直理由なんてわからない。
 迷子でもない、いじめられたんでもない、だとすると……。
「お母さんとはぐれたとか!!」
「あ、いい感じだね」
「お母さんと一緒だったの?」
 しゃがみこんで男の子と目線を一緒にさせる清川さんがそういうと、男の子はまたふるふると首を横にふった。
「違うらしいね」
「うーん……」
 こんな子どもで一体どうしたんだろう、それが頭の中を駆け巡るだけだった。
「ボクは、一体どうして泣いているのかな?」
 清川さんが優しく聞く。
「……お買い物……」
 とだけぽつりと声にだした。
「買い物かぁ……。道がわからないのかな……」
「でも、迷子じゃないって……」
「うーん……」
「お買い物がどうしたの?」
「なくしちゃった……」
「お買い物を無くしちゃったの?」
 そう清川さんがつなげた。
 すると、男の子はこくっとうなずきまた泣き出してしまった。
「なるほど……。んじゃ簡単だ」
「あ、何か名案でもあるのかい?
「ああ、ようするにその買い物をしてくればそれでもんだなし!!」
「あのね、、そんなことでこの男の子が泣き止むと思うの?」
 あきれた顔で言われてしまった…。
「じゃぁ、どうすれば……」
「探すしかないでしょ?」
「買い物したものを?」
「そう。ほかに何を探すって言うの?」
「……」
「さぁ、お姉ちゃん『たち』が探してあげるからもう泣かないでね」
 『たち』という事は俺も頭数に入っているらしい。
 男の子は「うん」とだけ言ってうなずいた。
「さぁ、、頑張りましょうね」
「って、あの、今日は……」
「いいじゃない、別に予定はないでしょ?」
「あるよ、清川さんとデートするって言う……」
 ……強く言ったんでちょっと恥ずかしかった。
「このあとの予定は何かあった?」
「別に……」
「ね。だったらいいじゃない。きらめき市を散策。これに決定、ね」
 そういうと清川さんは男の子の手を引いてやる気満満なオーラをだしていた。
 そして、清川さんが男の子の手を引き俺が後ろからついていくという格好になった。
 はたからみたらどう見えるんだろ。俺らは高校生なのだがなどと考えながらの探し物。
 これもデートなのだろうか…。
 清川さんは男の子と一緒に真剣にきょろきょろとしている。
 …はたから見たら誘拐犯?などと後ろからついていて俺は思った。
 …一緒に歩くのがなんか照れくさかったから少し後ろを歩いていたのだ。


 周りの目を多少気にしながら買い物をしたスーパーへと行ったが道にもスーパーにも買い物袋など落ちているはずは無かった。
 日も傾きもう俺たちの影は長くのびていた。

 往復してまたこの公園へ戻ってきた。
「見つからなかったね…」
 俺が言うと男の子はしょんぼりとしていた。
 けど泣く事は無かった。清川さんにいろいろと言われたようだ…。
 そんな清川さんを俺はすごいと思った。
 強いと思った。
 俺はただ後ろからついていくだけだった……。
「しょうがない…。もう一度……」
「これ以上は無理だと思うよ。この子が行ったところはもう全部行ったし、いろいろ探してきたから」
「そうだよね。どうしよう……」
「よし、こうなったら最後の手段だ、清川さん」
「え?また同じ物を買い物しに行くなんていうんじゃないでしょうね?」
「違うよ。もうずいぶん遅いし子のこのお母さんも心配していると思うんだ。だから、家に連れて行って事情を説明するっていう…」
「う〜ん。まぁ、しょうがないか……」
 そういうと清川さんは男の子の目線に合わせ、
「ねえせっかく探したけど見つからなくてごめんね。もうずいぶん時間が経っちゃっているし、君のお母さんも心配していると思うの」
 男の子はこくっとうなずいている。
「だから、お母さんにちゃんと説明してあげるから、帰ろう?」
 そういうとまた泣きそうになった。
「ほら、男の子でしょ?お姉ちゃんたちがいるから、ね?」
「…うん」
 そして立ち上がって、戦にでも行くかのように、
「よし、じゃぁ行くよ」
 そう気合を入れて俺に言う。
「そこまで気合を入れなくてもいいんじゃ……」
「ま、そうだね」
 そして、清川さんがまた手を引いて歩きだしたときだった。
 一人の女性、30過ぎってとこだろうか?がこちらへやってきた。
 その人を見るや否や、その男の子は清川さんの手を無理やり離してその人の方へ泣きながら駆け出していった。
「おかーさーーん」
「私たち誘拐犯か何かに間違えられないよね?
「……それは大丈夫でしょう。もしそうなったらちゃんと話せばわかってくれるよ」
 などちょっと心配して話していると、
「帰りが遅いから心配していたんです」
「すみません…」
「ごめんなさい」
 二人で謝っておく。
「話は聞きました。どうもすみません。わざわざ……。自分で買い物に行くって聞かないもので行かせたんですが……。
こんなことになるなんて。でも貴方たちが親切な方でよかったわ。買い物はそんなにたいした物は買いに行かせていないので
なくなっても大丈夫です。ありがとうございました」
 そうお母さんは深深と俺たちにお礼を言った。
「私たちの方こそ遅くまで…。はじめに家に送ってあげればよかったのですが…」
「この子も気が済んだでしょう…」
 そういうとお母さんは財布の中から1000円を取り出して、
「少ないですけど受け取ってください。何か飲み物代にでもしてください」
 そう言って俺たちに差し出した。
 俺が受け取ろうとすると、清川さんが、
「いえ、いいです。お礼を受け取るなんて…。そんなことしていませんから」
 そういうと今度は男の子にジュースを買ってくるようにと言いつた。
 俺たちが?を頭に浮かべて顔を見ていると、男の子が1本のジュースを買ってきた。
「これを……」
 どうやらどうしても受け取って欲しいらしい。
「じゃぁ、頂きます……」
 そういって一本のジュースを清川さんが受け取った。
 そして、男の子と母親は最後まで丁寧に俺たちに礼を言うとその場を去った。
「疲れたね……」
 二人になってどっと疲れが出てきた。
「けど、楽しかったよ?」
「まぁ、そうかも…。いろいろ歩いたもんね。きらめき市をこんなに歩いたのって久々かもしれない」
「なんだよ。運動不足だぞ
「もう現役は引退しているんだ……」
「私は水泳を続けていくからね」
「そうだよね。頑張ってね」
「うん。も……」
 なんか変な方向に話が向かっているな…。
「あ、ジュース…。なんで1本なの?」
「さぁ。私に聞かれてもねぇ。飲みなよ」
 そういって俺に差し出してきた。
「え?清川さんのほうがいろいろやっていたんだし、どうぞ」
「私はまだまだ平気だからから……」
「いや、こういうのはレディーファーストで清川さんから……」
変なこと考えてない?」
「き、清川さんこそ!!」
「「……」」
 お互い意識してか顔を赤くした。
「清川さん、どうぞ……」
「う、うん…」
 観念したのか清川さんがジュースを開ける。
 そして一口。それを俺にまわした。
「え…」
「はい」
 俺は赤くなってそれを受け取り一口。
 そして俺も清川さんに渡す。
「う、うん……」
 そして、清川さんも赤くなって飲む。
「ね、清川さん」
「なに?」
 ジュースをお互いに飲みながら夕日をバックに公園で語る二人。
「一番初めに出会ったときのこと憶えてる?」
 俺はあのときのことを、忘れていたときの事を思い出した。
「え?憶えているよ。私がいつもの50キロのマラソンをしているときにに出会ったんだよね」
「そうだよ。そして、もう一つ、あるんだけど」
「え。何かあったかい?」
「うん。ジュース……」
 そういうと、清川さんはちょっと考えて。
「……あ………」
 と一言。
 俺は何も言わず清川さんの顔を見た。
「うん。思い出した……」
 とさらに顔を赤らめて俯く清川さん。
 可愛い……。
「あの時と一緒…」
「でもちょっと違うよね。今はこうして二人で一緒にいる」
「うん…」

 そして、無言の時が流れる。
 最後で一番はじめての思い出が二人を包む。いや、俺だけの思いか。
 夕日に照らされた清川さんはとてもきれいだった。
「これで二回目だね」
「私ははじめて……」
 
 二人を夕日が包む。
 無言のまま二人でお互いにジュースを飲み終えると、切り出したのは清川さんだった。
「さて、今日はこれで帰ろうか?」
 と自分の時計を見てそういった。
「そうだね。もういい時間だし…」
「それじゃ明日学校でね」
「あと一週間か…」
「うん。でもまだまだ続くよ」
「え?何が?」
「それは内緒よ。じゃね、
「あれ一緒に帰らないの?」
「え、あ、ご、ごめんなさい今日は一人にさせて?」
「何か怒らすようなことした?」
「ううん。違うから…」
「うん。また明日学校で」

 夕日の中二人はその場を後にした。



 そして、一週間後。
 卒業式が終った後は伝説の樹の下へ急いでいた……。
 

  Continue to the legend...  FOREVER 
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