街はすっかりクリスマスモード。
 まだ12月はじめだというのに商店街の木々はきらびやかな装飾に覆われ夕方にもなると
色とりどりの電気が一斉に光をともす。
 夕暮れ時のそのなんとも異様な雰囲気が孤独な背中に重く重くのしかかってくる。
一人のクリスマス
 街を見渡せばカップルが街を占領している。
 孤独にあるくその様はまさに場違いとしかいいようのない雰囲気をかもし出している。
 コートに身を包み一人歩く。ぶつかりそうになるカップルをよけてはちらりとその熱々ぶりを見ては
ため息を一つ。もう何回ため息をついたろう。商店街に来るときに覚悟はしていたが。
 それがこうも簡単にも敗れ去るとは思いもしなかった。
「しおりぃ…」
 そう愛しい人の名前を呟きまた肩を落とす。
 両手はコートの中に突っ込み背中を丸くして歩くと一層虚しい。

 こんな虚しい思いをしてまでやってきたのはいうまでもなくクリスマスプレゼント。
 が、はっきりいってプレゼントなんてどんなものを買えばいいのかさっぱりわからない。
 クリスマス商品用のものはいろいろあってもにはどれも買いがたいものだった。
「詩織にならいくらでも買えるのだけど」
 そうショウウインドーを何度もみてぶつぶつという。
 伊集院のパーティなので誰にあたるかわからない。
 運良く詩織にあたったことを願っていいものを選ぶか。
 はたまた誰かにいくかわからないから適当なものを選ぶか。
 にはどっちにすればいいのかわからなく途方にくれていた。
 好雄に相談したのだが、好雄は簡単に言ってくれた。「何悩んでいるんだよ?簡単だろ?詩織ちゃんの
ほうが大切だろ?なぁ、もう卒業なんだぜ?」と。だけど片想いで一方通行のこの恋は実るのだろうか…。

 結局今日もクリスマスプレゼントを買うことができず。
 そう、はこうして先週から悩んで商店街を徘徊するのみであったのだった。
「しおりぃ…」
 そうもう一度呟いてみる。詩織の顔が浮ぶ。いつも隣の家にいて、笑顔がまぶしくて。
 ヘアバンドをいつもしていて。にっこりと微笑む詩織の顔が浮んだ。
 小遣いがあれば悩まないですむ。詩織用と伊集院用に買える。
 だけど、にはその余分な小遣いは持ち合わせていなかった。
「今日も無理か…」
 寒空の下熱い中で一人呆けている。
「さて、帰るか…」
 一人黄昏帰り道。寒い街を一人引き返す。
 あした好雄にも何か言われるだろうけど、しょうがない。しょうがないさ。決められないんだから。
 そう一人言い訳をする。
 一方通行のこの恋は伝えることもかなわず。
 もう少しで卒業だというのに。伝説があるというのに。
「俺にはやっぱり無用の長物なのかなぁ…」
 勉強も運動も頑張ってきたけど今ひとつぱっとせず。
 クラブや文化祭で活躍してるってわけでもない。
 詩織を振り向かせるには無理なのだろうか…。
 
 がっくりと肩を落としての帰り道。

 ドン!とぶつかった。
「きゃっ」
 と小さな声がして。
「あ、ご、ごめん」
「あ…。ごめんなさい。私急いでいるから」
 とどこかで聞き覚えのある声だった。
 学校でいつもぶつかってくる変な髪の毛の女の子。
「あ」
 といっている間にその女の子はさっていってしまった。
 その瞬間彼女の顔はちょっとどことなく嬉しそうだったようなきがする。
 彼氏と一緒だったのか…。
 まぁ、そんな感じだろう。

 その場に立ち尽くした
 街の流れに取り残されたように。

「あーあ。ついてないや…」

 これでぶつかったの何回目だろうなと考える。

 思えば一年生の時からあの女の子にぶつかられている気がする。

 はじめはなんだってむかついていたけど…。

 そういえば留守電にも彼女の声で入っているよなあ…。
 
 好雄に聞いてもまったくわかんない謎の女の子なんだよなぁ…。

 そういえばあの髪の毛すごく特徴あるよな…。

 ……。なんだろ?

 ふと気がつくとぬいぐるみ専門店のまえに来ていた。
 クリスマス衣装を着飾ったぬいぐるみがたくさん飾ってある。
 その中で目つきの悪いサンタの格好をした30センチ大のコアラが一匹。
 値段も手ごろでなんか気になった。
 
 そして、はそれを何の気なし買い求めた。
 別に詩織のことを意識したわけじゃない。
 かといって他の女の子を意識したわけじゃない。
 ただこのサンタコアラとあの女の子がなんか似てたから。

 ただそれだけだった……。


 そして、クリスマスの日……。
 詩織とも何事も無く。
 伊集院のいやな嫌味な話を聞かされて。
 散々だったけど。
 またあの女の子とぶつかって。
 クリスマスプレゼントではなぜかコアラのガラス細工。

 そして帰宅して暗い部屋に入ると留守電にメッセージが入っているランプがついていた。
 
 それを聞いてみる。

「今日のクリスマスパーティで目つきの悪いサンタコアラのぬいぐるみゲットしたんだ!
こあらっきー」
 と。
 
 なんだかすごく嬉しい気分になった。
 詩織の顔は遠くにあった。
終わり
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