幸せな時間
 毎日、毎日暑い日が続く。
 今日も天気予報では猛暑日と言っていた。
 クーラーのきいた図書室だが、温度設定が低めということもあり、
俺に。少し汗ばんでいる。ハンカチは必須だった。
 それに引き換え…。如月さんは…。涼しい顔をして仕事をこなしている。
 図書委員の俺と如月さんとで図書室の当番に当たっているのだった。
「如月さん暑くないのー?」
 暑い!といわんばかりに聞く。
「はい。私には少し涼しいくらいです」
「そ、そうなんだ…。俺は少し暑いかなぁーなんて思ったりして…」
「温度設定が28度ですから、男の人ですとちょっと暑いかもですね」
「そうか…。結構高めだったんだ…」
「はい。カーテンもしてありますし、少しは違うと思いますけど」
「そうだねぇー」

 ここ、きらめき高校の図書室にはちゃんとクーラーというものがあるのだった。
さすがは私立高校かな? しかし、節約ということもあり、温度設定は低めにーとか書いてある。
 だらけている俺を見て、くすって笑って。
「少し休んではどうですか?こっちの方もひと段落しますしー」
「いや、大丈夫だよ。如月さん一人ばかりにさせておけないから」
 そういって俺は如月さんの手伝いをする。
 返却された本の整理。
 いろいろな本が混ざっている。数字で分類できる仕組みはやはりどこの図書室とかでも同じなのだろうかと少し疑問に思った。

 文学書、歴史書、スポーツ関連…、などなど。約20冊はあろうかという本の分別をしていくのだが…。
 いつも利用している如月さんはさすがといったところか、どこに何があるのか大体把握しているようで
その数字だけでてきぱきとおいていった。
 それに引き換え、俺は…。
 図書委員とはいっても、ほとんど利用しない俺はどこに何があるのかさっぱり…。
 
 …少し恥ずかしいなぁ…。

 手間取っている俺を見て、
「同じジャンルの本をまとめると早いですよ」
 そうか…。俺は今までばらばらに一冊ずつ持っていっていた。
 如月さんはというと、まとめてちゃっちゃと運んでいるのだ。
「ありがとう」
 そうアドバイスを受けて、俺も真似する。
「あなたが持っているのは歴史関連とスポーツ関連が多いですから、まずそれで分けてみてはどうでしょう?」

 そうか。
 そういわれて、俺は分けていった。
 …野球の本、サッカーの本。これは有名な?上達シリーズだ。なんでも、下手な?人はこれで相当上達するらしいのだ。うちのサッカー部の人や野球部の人もこれを見て補欠からレギュラーを勝ち取った、なんて話もあるくらいだ。
 …運動音痴の俺も読めば詩織も少しは振り向くかな?なんてことを考えてしまった。


 …こっちは歴史書かぁ。
 信長の野望の野望。…何という本だろう? 本能寺の真実。…結局誰が犯人なんだか。新撰組。ドラマで有名になったな…。
 戦争と平和。漠然としているなぁ…。平和の光。…どこかの宗教ですか?
 
 そうやって分けていく中、俺は一冊の本に心を奪われていた。
 なんだろ、この本…。

 薄くて、ぼろっちくて、表紙が小学生が描いたのか?と思ってしまうような絵でいて、それでいてどことなく安らぐような、心温まるような表紙。
 俺は片付けそっちのけでその本を開いた。
 …絵本だ。絵柄はその小学生っぽい絵。
 戦争中の女の子と猫の話。
 猫はどこにでもいそうな三毛猫かな?
 耳と尻尾が黒い三毛猫。
 女の子はお下げでなーんとなく如月さんに似ているような…?
「へぇ」
 声を出してしまった…。それに気がついた如月さんは、
「どうかしかしましたか?」
「あ、いや、この絵本…」
 と片手に本をとりもう片手で指差した。
「その絵本ですね。『みぃとミィ』っていう少し有名な絵本ですね」
「へぇ。そうだったんだ」
「女の子のみぃちゃんと、子猫のミィのお話ですね」
「…紛らわしいな」
 また、くすって笑う。その笑顔がかわいいっておもった。
 そして、如月さんは話してくれた。



  私の名前はみぃ。一人ぼっち。
  親戚のおぢさんおばさんのおうちで暮らしているの。

  あるとき子猫に出会ったの。
  みぃみぃなくからミィってつけたんだ。

  私とおんなじ名前だね。
  私とミィはすぐにお友達になって一緒に遊んだの。

  でも、おぢさんたちはミィを捨ててこいって怒るの。
  だから、私はミィと二人で暮らそうって、おうちを出たの。


  はっぱとか畑のおいもとか盗んで食べたんだ。
  おなかいっぱいにはならなかったけど、私とミィは楽しかったんだ。

  いろいろ遊んだんだ。
 
  でも、そんな楽しいときは長く続かなかったんだ。

  グォングォンと、飛行機がいっぱい飛んできて、二人のおうちを焼いていってしまったの。

  私とミィは逃げたんだ。
  ほかの人たちも逃げていたんだ。
  私とミィは、その途中で、はぐれちゃったんだ…。



  私はミィ、ミィって、探したけど…。
  
  

  みぃちゃんはどこにもいなかったんだ。
  みぃちゃんどこへ行っちゃったのかな。
  
 
  私の名前はミィ。
  大好きなみぃちゃんがつけてくれた名前。
  みぃちゃんはどこかな。
  私はずっと探しているんだ。
  でも、みぃちゃんはいないんだ。
  あれ?私がみぃちゃん?
  …じゃぁ?ミィはどこ?
  …私はミィ?
  みぃちゃんは?
  
  どのくらい探したかな。
  
  人間たちはラジオとかいう箱の前で座っているよ?
  泣いているんだ。
  
  私も泣いているんだ。
  みぃちゃんどこかなぁ。
  みぃちゃんも泣いているのかな。
  ミィも悲しいよ。
  
  やっぱり、私は猫のミィ。大好きなみぃちゃんがつけてくれた名前。
  ずっとみぃちゃんのこと探すのかな。
  …でも、私がみぃのような気がする。
  ミィちゃんはどこだろう?

  …やっぱり、私はみぃ?
  ミィはどこかなぁ。
 
  どっちでもいいかな。
  ずっと考えてて疲れちゃったんだ。

  ミィ、みぃ、ミィ、みぃ…
  ミィ…。

  楽しかった時間を返して…。


「というお話です」
「…」
「どうでしたか?」
「どうでしたかもなにも…。死んじゃったんだ…」
「そうですね…」
「最後はどうなったんだろう?死んじゃったのは女の子の方なのかな、子猫のほうなのかな」
「どっちでしょうね」
「どっちなんだろう…。どっちとも取れるような…」
「そうですね」
「なんだよ、この作者…。結局何が言いたいんだろうかよくわかんないよ」
「それが話題になった理由ですね」
「へぇ…。そうなんだ。俺はどっちでもいいかなぁ…」
「もうひとつ、3個目の解釈もあるんですよ?」
「へぇ〜。どんなの?」
「それは、子猫のミィも、女の子のみぃちゃんも両方とも死んだっていうことです」
「…」

 最後のページは真っ白になっているんだ。
 途中まで、焼夷弾だか何かで焼かれて逃げているとこまでは特徴的な絵が描いてあるのだが…。

「如月さんはどれだと思う?」
「そうですね…。私はみぃちゃんも、子猫のミィも死んだとおもいます」
「そうか…」

「戦争ねぇ…」
 そう一言だけ言って、俺は大きくため息をついた。
 
 俺には想像もつかない。
 写真とかでは見られるけど、実際にはどういうものなのか…。

 ただ、人殺しだっていうことはわかる。
 憎しみあい、人を殺す。
 罪のない人を殺す…。

「私たちには、想像つきませんね」
 そう如月さんは悲しそうに言ってうつむく。
「そうだね…」


きーんこーんかーんこーん

 チャイムだー。
「さて、今日も一日終わりだー。戸締りして帰ろうか」
「って、まだ片すの終わってないや…」
「おいておけば大丈夫でしょう…」
「ごめん」
「大丈夫ですよ」


 図書室にほかに誰もいないことを確認して、戸締りをして二人あとにした。
 さすが温度が低いとはいえ、クーラーのきいていた図書室は涼しかったのだろう。
 外に出るとどっと汗が吹き出てくる。
「暑いなぁ…」
「そうですね」
 さすがの如月さんも暑いのだろう。
 
 二人で帰ろうってなって、校門を出たときだった。

 みぃー 
 
 と鳴き声が。
 如月さんも聞こえたらしく
「あっ!」
 と同時に声を出していた。

 耳と尻尾が黒い猫。

 その猫はこっちを見て、もう一度、みぃーって鳴いた。

「まさか、ないですよね?」
「偶然じゃないかな?」

 それでも猫はみぃってないて、近づいてくる。

「戦争50年以上もたっているのに、そんなことはないよね」
「ない、はずですね…」

 その猫はみぃみぃと、如月さんの方へよってきて。
 如月さんが座るとまるでなついているかのように近くまで来て。
 みぃ、みぃって、鳴いている。
「そういや、あの絵の女の子如月さんに似ていたように思えるよ?」
「もう、やめてください」
「そういや、如月さんの下の名前って…」
「未緒ですけど」
「片方だけ取ってみぃとか、ないよね…」
「…」
「野良猫かな…」
「首輪してませんね」
 猫はみぃみぃと鳴いている。
 如月さんにすりすりとして気持ちよさそうに…。


 二人の気持ちは一緒だった。
「お前、もしかしてみぃっていうのか?」
 みぃー
「戦争はずっと昔にもう終わったんだぞ…」
 みぃ?
「もう、みぃちゃんはいないんですよ」
 みぃー
「みぃちゃんは天国で幸せに暮らしていると思います」
 みぃ…
「楽しい時間は帰してあげられないけど…」
 みぃ…
「これから楽しい時間を作ることはできるんですよ」
 みぃー
「戦争はもうないんですから」
 みぃ。

 俺と如月さんの話を理解するかのようにその猫はみぃみぃと相槌を打っていた。
「理解してるんかな、この猫…」
「どうでしょうか?」
「わかんねぇなぁ、俺も猫じゃねぇし…」
 みぃー
 
 そう猫は鳴くと、如月さんから離れて去っていった。
 一度こっちを振り向いて。何かいいたそうに。
 
 ちょっと変な体験をした俺たちは変な気分だった。

「帰ろう」
「そうですね」
「雲行きが怪しくなってきたし、夕立でも来そうだよ」
 
 そういってるそばから、ぽつぽつと、雨が…。
「あら…」
「遅かったみたいですね」
「俺傘なんか持ってきてないよ。早く、急ごう」
 と、手をとって走ろうとしたとき、
「手、手、離してください」
 そうあわてていって。
 少し顔を赤くして。
 あっちゃー、嫌われてるんか?とか思ったら。
「傘持ってますから…」
 そういって、そっと二人で相合傘。
 少し恥ずかしい…。照れくさい。

「戦争していたらこんなことできないんでしょうね…」
「だろうね…」

 心からそう思った。
 
 きらめき高校、3年の夏。
 あと半年の学園生活もあと少し。

 憧れの詩織は振り向いてくれるんだろうか…。
 そのことが少し心配だが、それもだんだん薄れて行きそうな予感。

 こうして如月さんと楽しい時間を作れたら…。
 うつむいて少しほほを染めてる如月さんが横にいる。
「どうかしました?」
「い、いや、どうもしないよ」
 二人ともぎこちない会話。
 
 でも、幸せな楽しい時間…。
 こんな時間がずっと続けばと、そう思った日。
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あとがき
  
 というか、言い訳?

 はい。
 久々のー。
 ときめもSS。
 さらに毎年恒例の戦争もの…。終わってる。
 毎年一度の更新で、さらには戦争関連のしか書かんのか、俺は…。
 終わってる…。
 しかもいまいちよーわからん仕上がりなのはいつものことだし。
 RO三昧でSS書いてねぇから腕鈍ってるというか上達してないというか、やおいのままというか。
 ほんとにしょーもないものをつくってもごみにしかならんっていう…。


 はぁ。

 まぁ…、ド素人だし、こんなもんでしょ。
 
 さて、今回も毎年恒例の(もういい)戦争もの。
 如月さんで書いてみました。
 絵本の内容だけど、これは俺が勝手に作ったもの。
 
 世には出回ってないと思います。

 出ていたら大変だ…。

 

 俺の幸せな時間。
 ROやってうまい酒飲んで寝て飯食ってROやって仕事やってっていう、
平凡な生活が回ってることかな。

 これが長く続くようにと…。

 やっぱり、戦争に思う、'08/8/7
 夜勤明けで暑くて眠れない日に…。

 寝なきゃやべぇよ(泣)