誕生日
  〜鏡魅羅編〜

 時計の音が部屋に響き渡る。
 ここにいるのは自分ひとり。
 ずっと彼のことを一人待っている。
 仕事で送れちゃっているのね…。
 魅羅は、そんなことを考えていた。
 早いときは早いけど、仕事が入って、抜け出せないのだろうか?
 まじめな彼のことだから、この日を忘れるわけはないし、仕事も抜け出せないでいるのだろう。

 きっと仕事よ。
 魅羅はそう固く自分に言い聞かせていた。

 そうでもしないと、自分がひどく嫌だったから。
 時計はすでに9時を過ぎていた。
「遅いな…」
 弟たちにはもっと早く帰ると言ったのに、帰れそうにない。
 帰ることは出来なかったのだ。
 弟たちには帰りが遅いかも、とは告げていた。
 もう、当時のように子どもでもないし、その意味がなんとなくはわかると魅羅はわかっていた。
 

 彼からの言葉。
 それが魅羅の脳裏に焼きついている
『多分早く帰れると思うよ。仕事暇だしさ。もし遅くなっても帰るところは一つしかないから、絶対いてよ』
 そう言ったのだ。
 魅羅も早く帰ってくると思った。
 けど、帰ってこない。 
 せっかく作った料理もすっかり冷めてしまっているようだ。
 電話してみようか?
 いや、それはやめよう、彼を信じて…。

 そして、不安が募っていくが、彼はまだこない。
 時計の音が響き渡っている。
 TVの音もむなしく響いている。
 そろそろ帰らないとまずいかしら?
 彼も心配だが弟たちも心配になってくる。
 平日。15日。その日は魅羅の誕生日。そして、なぜか偶然にも彼とであった日でもあった。
 
 そして、不安が募り時間が遅く流れていたとき、魅羅の携帯がなった。
 着信の名前は彼を表示していた。
 そして、それを確認するとすぐに出た。
「もしもし、遅いじゃない!」
 いきなり昔の自分に戻っていた自分がそこにいた。
「ゴメン、魅羅。いま帰るから…」
「もう、ずっと待っていたのよ!私を待たせるなんて…」
「昔の魅羅だね。そんな魅羅も好きだよ」
「な、何言い出すのよ。さ、まっているんだから、早く帰ってきなさい。いいわね」
「はい、鏡さん」
 ちょっとてれたように昔風にやり取りする二人。
 彼はどんな風に思っているだろうか?
 あんまり好きじゃない昔の自分…。
 でも、これがなんとなく久しぶりで、ものすごく懐かしかった。
「それじゃ、まっているから…」
「うん。ゴメン」
 そう言って電話は切れた。
 そして、 こんな風になれるのも、今では彼の前だけだと魅羅は感じていた。

 そんな昔こと―きらめき高校時代―のときを思い出して、一人懐かしく思っていた。
 出会ったときのこと、そして、高校時代、彼と過ごした時間。
 文化祭、体育祭、そして、伊集院家のクリスマスパーティー。
 そして、卒業式。
 忘れもしない伝説の樹の下での告白。
 大切な想い出……。


 そんなことを想いだしていると、時間がたつのも早かった。

 そして……、彼が帰宅した。
「ゴメン。本当にゴメン」
「いいのよ。料理を温めなおすから」
「ありがとう」
 そして、二人だけの誕生日パーティーが始まった。
 二人の時は、まだ始まったばかり……。
                         〜Forever with you〜

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