親友からのプレゼント
「なんだって言うんだよ!」
 突如清川さんは大きな声を出した。
 俺は目が点になる。
 クラブ中の出来事。彼女の発言にびくっとする。
 その声は室内プールの端にいた俺にも声が聞こえるほどだ。

 夕日も傾きかけた午後。
 クラブの最中。
 冬の日没は早いもので、クラブ活動は日が暮れてからも続く…。
 清川さんと一緒だとちょっと嬉しいんだけど。

 出会いのきっかけは早朝ランニング。……。まもなくもないかな?あれは…。6月だから、早いもので
もう半年か…。半年。早いものだ。そのときに彼女からジュースをもらって……。その…。まぁ、なんだ…。
 間接キスっていうやつをしたというか、出来たというか…。それがあまりにも突然で。
 そのことがずっと忘れられずに…。
 多分、清川さんは、そんな「間接キッス」なんかは気にしていないのだろうし。
 なんせ初めて出会ったときだったから、どぎまぎというか…。もう、すごく嬉しいというか。
 ただただ、舞い上がっていたのだった。


 俺は急いでー泳いだほうが速いから泳ぐのだがー清川さんの方へ向かった。
 
「だから、なんだって?彩子?」
「No! Become quiet!落ち着いてよ、望。いい、だから、無理なのよ?」
「今更無理って事ないだろ?」
 そう言って彩子、清川さんの親友である片桐さんのことを鋭い目で睨みつける。
「Ann.もう、だから謝ってるじゃない。急用が出来ちゃったんだって…。望には悪いけど…」
「なんだよ!彩子。絶対約束だって、言っただろ?何を今更急に言って来るんだよ?
あれだけ彩子はあたしに念を押したよな!」
 さらに清川さんの押しが強くなる。こんな清川さん見たの初めてだ。
 横にいる俺は入る隙間もない。
「だから、この埋め合わせは必ずするから…。ね?I'm really sorry. ごめんなさい、望」
「これ、どっちから誘ったと思っているんだよ!」
 そういい放つ。
 どうも、清川さんの言葉を聞く限りでは片桐さんの方から何かに誘ったらしい…。
「……。だ、か、ら。確かに誘ったのは私の方よ?but、でも、急にいけなくなっちゃったの」
「なんだよ?あたしは彩子から誘われて、すごく楽しみにしていたんだぞ?それなのに、彩子、お前なぁ……」
 と、今にも武力行使しそうな勢いだったから、俺は清川さんを止めようと後ろから押さえようとした。

 …けど、ここは室内プール。
 俺は海パン一丁。
 んでもって、清川さんは当然水着姿。
 片桐さんは制服。
 ……。この状態で俺が清川さんを後ろからはがいじめなんかしようものなら……。
 
「ね、清川さん」
 俺は強く清川さんを呼びかけた。
 鋭い清川さんの視線が俺を貫く…。体が凍てつく。
 その視線は「なんだよ!あたしたちの間にはいってくるな」といわんばかりの視線だった。
 こぶしは握られ、今にも殴りかかりそう。
 だけど、俺は、
「清川さんって」
 そう、もう一度呼ぶ。
 そして、俺のほうを見ると、「ふぅ」とため息をついて、
「あたし、泳いでくる」
 そう言って、プールに飛び込んだ。
 水しぶきがきらきらと光る。


「Thank you ありがとう。助かったわ」
 そう切り出したのは片桐さん。
 清川さんというハンターからようやく逃れられたという感じかな?
「ところで、どうしたの?」
 理由がわからないのでとりあえず聞くことにした。
「ああ…。そうねぇ…」
 そう渋りながら片桐さんはそのわけを話してくれた。
 清川さんはずっと泳ぎつづけている。
 話を聞きながら、清川さんの泳ぎをちらちらと見る。
 クロール。
 いつも力強く。
 そして鋭く。
 力を水に叩きつけるかのように。

「これは私から誘ったものだけど…。なかなか言い出せなくて、でも、言わないとまずいでしょ?」
「そうだね…。でも、何でその理由を清川さんに言わないの?俺にはいえるのに…」
「それは、この話したら望も心配するでしょ?」
「それはまぁ、親友なら心配するの当然でしょう?俺だって、心配するし…」
「そこが問題なのよ…」
「はぁ……」
 困った顔で俯く片桐さんと俺。
 沈黙の時間。
 清川さんはなおも泳いでいる。今度はバタフライだ。
 その華麗な泳ぎは見ているほうも心を奪われるかのようだった。
「望、すごくやさしいから…」
 そう言って、また俯く。
 俺もそうだなぁとしみじみと思う。
 花壇に花植えたりとても女の子らしいとこを持ち合わせている。
 すごくやさしい女の子なんだ。
「だったら俺から言っておこうか?」
「え?」
 余計なこと言っちゃったかな?しまったと思ってもしょうがない。
「いいわよ…」
「でも、このままじゃすれ違ったままじゃないの?」
「そうなのよ…」
 そういうと、片桐さんはチケットを差し出した。
「はい。これがそうよ。もう片方は望が持っているはずだから。破いてなければ…」
 弱弱しく俺にそういう。
「これを?」
「あなた、変わりに行ってあげてよ?ね?」
「俺でいいのかなぁ…」
「Don't worry.心配しないで。あなたなら大丈夫なはずよ?」
 そう言って俺に差し出す。
 …どういうことだろう?
「私は、これで帰るわ?望の事、よろしくね? You are ..........」
「え?」
「See you」
 ……俺の英語能力じゃ聞き取れない完璧で早口な英語だけを残して彼女は去った
 あなたは、つまりは俺だわな。俺はなんなんだろう?
 ……。清川さんが上がってきた。
 
 俺のほうに近寄ってくる。
 一体何メーター泳いだのだろう?
「お疲れさま」
 そうひとこえかけた。
「すっきりしたよ…」
「そう…。で、あのさぁ、片桐さんなんだけど…」
「もういいよ、彩子のことなんか」
 そうきっぱりと言い放つ。
「とりあえず、わけを…」
「だからいいって。お前も…」
「待った。これ…」
 とりあえず俺は受け取ったチケットを清川さんに見せた。
「なんだよ?なんでこれをもっているの?」
 驚いた表情。
「片桐さんから今さっき受け取ったんだけど…」
「え?ほんとう?」
 すっとんきょうな声を上げる。
「ウソいってどうするの?」
「そうだよな…」
「だから、いけないわけを聞いたよ。なんでも、片桐さんの家で飼っているペットが、その日手術だかで、家族も留守になるから、片桐さんがなんか、ついてなきゃいけないらしくて……。んで、それを清川さんに言うと心配するから、だから言えなかったと……」
「はぁ?」
 清川さんは声を上げる
「はぁ?」
 俺も声を上げた。
「彩子にやられたな!」
 ……?……いつもの清川さんに戻ったぞ?
「何?」
「彩子の家、ペットなんて飼ってないって」
「はぁ?」
 ……?頭の中はクエスチョンだらけだった。
「もう、彩子のやつ!」
 そういって怒ったり、笑ったり、顔を赤く染めたりした。
「どういうこと?」
 まるっきりわからない。
「だから、これは彩子の仕組んだワナだよ」
「はぁ?」
「まったくもう…。彩子のやつ!」
「あの…。清川さん」
「彩子に感謝だな…」
「?」
「とりあえず、12月3日。忘れるなよ?あ、あたしも、楽しみにしているんだから……」
「?」
「まだわかんないかなぁ…?だから、多分彩子ははじめからあたしと行く気なんかなかったんだって」
「はぁ?」
「もう、鈍いなぁ…。大体、12月の遊園地っていったら、クリスマスイベントとかあるだろ?
彩子の仕組んだワナで、その……。あ、あたしの……。その日にあなたと一緒に、二人で、
で、で、…デートさせようと…」
 声が上ずっている…。
「はぁ!」
「ま、そういうことだと思うよ?」
 ………?。
「いい?まず、彩子の家にはペットなんか飼っていない、いい?」
「うん」
「で、そのチケットは先にあたしがもらっているの」
「うん」
「そして、あなたが、そのチケットを彩子から受け取った」
「うん」
「これだけ揃ったんだから、間違いないよ」
 ……。
「そういうことか…」
 やっと飲み込めた。
「そういうこと。危うくあたしは、親友のことを殴るところだった…」
 そう胸をなでおろして、俺にありがとうとそういった。
 ちょっと照れくさい。
 んでも、なんで、片桐さんがそんなワナ仕組むんだろ?
 12月3日だな。忘れないようにしなくちゃ。
 ……。……。たしか、その日って……。
「あー!」
 大声を上げた。
「ど、どうしたんだい?大声なんか、出しちゃって?」
「だって、その日って、清川さんの誕生日」
 照れくさそうに、「そうだよ」って言って、俯いた。

そして、「だから彩子が仕組んだワナなんだよ」と小さな声で言った。
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