雨
雨。
雨が降っている。
今日は雨が降る、なんて天気予報で言ってないから私は傘は持ってこなかった。
この高校にはあまっている傘は戻せば誰でも使える忘れ物傘なんていうものがある。それを使えば、傘のない私でもぬれずに帰ることが出来る。
コアラッキー。傘残ってる。
そう思って、傘に手を伸ばす。
と、その瞬間誰かの手に触れた。
「きゃっ」
そう思って、その人を見ると…
うわ、どうしよう。『彼』だ。
大きくて、暖かくて。そしてやさしい手。
私の手に重なった。
私の心臓はドキドキが大きくなる。
「ご、ごめんなさい。わざとじゃないんです!」
どうしよう…。怒られるかな…。
「ああ、俺のほうこそごめん」
ラッキーなんだかアンラッキーなんだかわかんないよう。
あせる私。
「あ、いつも廊下でぶつかってくるよね」
うわー。どうしよう…。あれはね…。
「ご、ごめんなさい。私いつもあわててて…」
こんなことしかいえない私はもう…。
「君も傘忘れて同じこと考えてたのかぁ」
「は、はい…」
ううー、早く立ち去りたい。でも、傘がないと風邪引いちゃうかも…。
「あ、あの、私、…。ごめんなさい!!」
それだけ私はいって何もかも忘れてそのまま傘を持たずに走り去ろうとした。
「あ、傘使わないのー?風邪引いちゃうよー」
そういって彼が私を呼び止める。
どうしよう…。
この場から早く立ち去りたいのに…。
そう困っていると、彼がやってきて。
はい、って傘を私に渡してくれた。
私は、もう、何もいえなくて。
でも、ありがとうってだけ、精一杯伝えた。
そして、私はまた少し彼の手のぬくもりを感じた後傘を受け取り、逃げるように走った。
彼の手のぬくもりが少し残っている。
思い出すだけで胸が痛くなりそう。
いつもは私が不意を付いているけど、今日は逆に不意をつかれた。
まさか、あそこに『彼』がいたなんて。
でも、彼とお話できたよ。
ちゃんといつか一緒におしゃべりできたらいいな…。
でも、まだ今の私には無理そう。
家について、彼に留守電入れよう。
『今日はごめんなさい。そしてありがとう』って。
そんなことを考えて帰宅した、雨の日。
END
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