バレンタイン前夜
 結奈は台所に入って怪しい物を作っていた。
 明日のためのものだ。

 周りの女子はきゃーきゃー騒いでいるけど、私には関係ないわ。
 そう、世界を征服するんですもの…。
 

 でも、何をしているのかしら?
 チョコレートを作っているなんて…。
 でも、これは未来の下僕に対する貢物よ…。
 …今でも下僕だったわね。

 そんなことを思い結奈は台所に向いチョコレートを溶かしている。
 ナベに入れた切り刻んだチョコレート。
 ちょっとほろ苦いビター系のチョコだ。
 
「ふふ。でも、この私がこんな事しているなんて、夢にも思っていなかったわ…」
 
 そう言って、チョコレートをかき回す。
「そろそろいい頃ね」
 
 ナベを火から下ろし、型に流し込む。
「…わたしらしからぬ面白い形のチョコね」

 型は丸いものだった。
 ハートにしたかったという願望もあったけど、結奈の中でそれは激しく野望と対立してしまいあえなくこの形になったのだった。

「これで冷やせば完成ね。この私特製のチョコ、食べてもらうわよ」
 そうして、冷蔵庫に入れようとしたときだった。
「あ、忘れていたわ。特製の秘薬を入れるの忘れていたわ…」

 そう言って、いれようと思っていた秘薬をポケットの中から取り出す。
 少し怪しく茶色の粉をそのチョコレートに振り掛けた。
「少しでも彼の役に立つといいわね。未来の支配者は、これくらいのことしないと…」
 と一人でてれている結奈がいた。

 そう、彼、チョコレートを渡す相手は未だ大学入試真っ最中だった。
 決まっていないというのだ。
 そのために彼専用に頭のよくなる薬を開発したのだ。
 といっても、記憶力が持続するだけだが…。

「さ、これで冷やせば本当に完成ね。彼がちゃんと食べてくれるのを祈るだけよ」
 そして、心を込めて冷蔵庫に入れた。
「ふふ、これでまた世界征服の野望に一歩近づいたわ!!」

 でも、言葉では強がっているが、確実に彼に心を奪われていることを知っていた。
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