11月15日〜double birthday〜
 ファミレスに一人。
 彼女はある人を待っていた。
 そう、あの人を……。

「待つのは嫌とあれほど言っておいたのに…」
 紅茶はもうすっかり冷めており、雨も激しくなってきたような感じだ。
 ため息を一つ。
 通りをみても、知っている姿は無く当然あの人の姿も見てはこなかった。
「なにをしているのかしら…」
 さらに時計を見る。
 その時計も前に彼にもらったもので、お気に入りの腕時計だった。
 ファミレスの中は暖かい。
 雨が降っている外の事など忘れてしまいそうだった。
 隣の席にはカップルがいる。
 おかっぱ頭で物静かな感じ。
 隣にはその彼女より年上の男の人がいた。
 二人の目は生き生きとしており、彼女にはとても輝いており、とても幸せそうに感じた。
「私は……」
 その2人を見ると自分が少しひけて見えた。
 私ももう少し変われば彼から優しい言葉の一つでもかけてもらえるのかしら…。
 そう思うも彼女の心には絶対に出来ないという言葉が頭に浮ぶのだった。
 一人の彼女にはその隣のカップルは嫌でも目に付いてしまうし、いやでも声が聞こえてきてしまう。
「もう彼ったらなにをしているのかしら!!」
 来たらただじゃ置かないわよと心に思い冷めた紅茶を見る。
 時間だけがすぎていく。
 隣はとても暖かそうに感じた。
 彼女は隣のカップルの2人に耳が傾いた。
「千鶴さんもひどいよね…。梓がいるっていうのに……」
「そうですね。千鶴姉さん…。私の誕生日だからって思いっきり腕を振るうんだって…」
「で、梓はどうするって?」
「こうなったら初音を使って千鶴姉の思いを打ち砕いてやるんだって…」
「それはあのきのこを食べさせるってこと?」
「はい。そうだと思います…」
「それじゃ千鶴さんと変わりないような気がするなぁ…」
「私もそう思います」
「って、前に楓ちゃんも1回犠牲になった事あるよね?」
「…はい」
「あの時は参ったよ」
「私は……」
「どうしたの赤くなって…」
「だって……」
「だって?何?」
「耕一さんのいじわる…」
「あはははは……」

 2人は笑ったりとても楽しそうにしている。
 その彼女は無表情だが、嬉しそうにしているのがわかる。
 彼女は自分とは正反対なんだなと感じた。
 私にはそうは出来ないと……。
 そして、その彼は話を止めて。

「で、今日は楓ちゃんの誕生日ってことで……」
 とその男は立ちバックの中をごそごそやっている。
 その彼女は不思議な顔でその彼のことを見ている。
 そして、きれいな包装紙に包まれた四角い箱を中から取り出すと、
「はい。誕生日おめでとう。楓ちゃん。これからも一緒にいようね」
 そういって、彼が手渡した。
 するとその彼女は何も言わずこくっと顔を動かしたかどうかのリアクションをするとそれを受け取り目から微かに
涙が流れた。
 そして、涙声で
「ありがとう」
 とだけいい、その箱をまじまじと見つめていた。
 彼も座りまた話をはじめた。

 そしてはっと我に返る。
 思えば一部始終を聞いていた、いや聴いていた。
 周りのことを気にせず彼らのことを見ていた。
 そして、とても羨ましい、そう思ってしまった。
 けど、彼はいまだにこない。
 今日は私の誕生日と知っているはず。
 そのために私をここに呼び出したんじゃないの?
 なのにどうしてあなたはこないの?
 私はきらめき高校のアイドルよ?
 今日は親衛隊のみんなも置いてきて一人であなたのためにここにいるのよ?
 こんなファミレスにいるのよ?
 なのに……。
 あなたのほうから誘っておいて……。

 そう思うと悲しくなってくる。
 時計を見ると約束の時間を1時間もオーバー。
 高飛車で傲慢な彼女にはいいかげんタイムリミットだった。
「学校であったら覚えていなさい……」
 外は雨。
 彼女の心も雨。
 隣のカップルは晴天。そこだけとても暖かに彼女には感じた。

 ため息を一つ。
 窓の外を眺める。
 雨が降り続き、かさを差している人は早足であるいている。
 その中に彼はいないかと、目を追う。
 けど、知ったような人はおらず、彼女の心をさらにどしゃぶりにさせていくのだった。
 隣のカップルはというと、2人で熱愛を彼女に見せつけていた。
 楽しくおしゃべり。笑ったり、俯いたり……。
 彼女はだんだんとそんなカップルの横にいるのが嫌になってきているのがわかった。
 嫉妬、彼への怒り、不安、不振………。
 見知らぬ人への嫉妬というのもどうかと彼女自身わかっていても、重ねてしまう自分がそこにいたのだった。

 その隣のカップルは楽しくおしゃべりをしている。
「まだ雨強いよね…」
「はい…」
「それに時間まだ大丈夫かな…」
「大丈夫だと思いますけど…」
「うん。そうだね。もうちょっと雨が小降りになったら出ようか…。2人の時間を作るにはちょうどいいし」
「はい……」

 雨宿りも兼ねているようで、2人は楽しげにまだ話していた。
 彼女はあきらめたようにため息を一つ。
 そして、何十回目かわからない腕時計の確認をして、さらに何回目かわからない窓の外をみて
彼がこない事を再確認する。
 そして、彼女は立ち上がり、レジに向かった。
 店員の女性がじろじろと私を見た。
「な、何かしら?」
「あんでもないさ。一人でこんなところに女子高校生が長々といるなんてどうしたのかと思ったのさ」
「な、なによ、あなたいきなり」
「あんでもないって言ってるでしょ?隣のカップルと外が気になっていたようだけど
「何よ?あなたには関係ないでしょ」
「そうね。あたしには関係ないさ。けど、そんな物悲しいのを見てたらこっちも気になるさ」
「……」
「今度来るときは一緒に来るようにすればいいさ。そうすればそんな悲しいのを見ずにすむ」
「そ、そうね……。忠告はありがたく聞いておくわ」
「さ、早く帰って学校であって焼くなり煮るなりすきにしたらいいさ。それとも好きだからそんなこと出来ない?」
「!?」
「さっさと帰るさ……」
「か、帰るわよ……」
 その女性店員の言葉を聞いていたら素直な心があらわになる。
 一度は『憶えていなさい』とは思ったものの、正直そんなことは出来ない。そう、好きだから……。
 泣きたいくらいだった。
「今日の雨は悲しい雨だわさ……」
 そういうとその店員はぼそっと一言だけいうと、レジを打つ。
 会計を済ますとき、ちらりとまだいるカップルをみた。

 そして、振り返るとき。
「あっ」
「あ」
 声が重なる。
「ごめん。鏡さん」
「もう、遅いじゃないよ。もう帰るところよ」
「え、ごめん。いろいろと立て込んでて……」
「私、もう帰るから」
 そういうと彼女は店から出ようとした。
 その瞬間、その相手に腕をつかまれ、
「ごめん。待たせて悪かった。けど、どうしても抜けられない用事があって……」
「腕を離しなさいよ」
「嫌だ。腕を放したら鏡さんが遠くへ行っちゃう」
「何よ、今更……」
「放しなさい。どこへも行かないから…」
 自分の目から涙が出てくるのがわかった。
 その言葉に彼女はひかれた。
「せっかくの誕生日なのに、しかも俺のほうから誘ったのに、遅れちゃって本当にごめん」
 彼は腕を離すと彼女に対して深深と頭を下げた。
「まぁ、しょうがないわね……」
「あ、これ、誕生日プレゼント……」
 と彼から渡されたきれいな包装紙の小箱。
「誕生日おめでとう」
 そういわれ彼女は嬉しくなった。
「ありがとう。頂いておくわ…」
 そういい、立ち去ろうとしたとき、
「今からじゃだめ?」
「え?ダメに決まっているでしょ。私は帰るのよ」
「ねぇ、お願い。少しだけでも……」
「もう、しょうがないわね。楽しくなかったらただじゃおかないから、いいわね」
「はい、鏡さん」
 彼女にも少し笑顔がちらり。
「よかったじゃないさ。あたしのおかげね。せいぜい感謝することね」
 さっきの女性の店員さんがそう小声で言うとさっきいた席に案内してくれた。
「せいぜい楽しむがいいさ。今日は暖かいわね。暖房の温度下げようかしら?」
 そう言ってメニューを置いていった。
 隣のカップルはまだいるようで熱愛ぶりを見せつけていた。

 けど、今度は彼女たちの番…。
 彼女は暖かい紅茶を飲み、暖かい時間を2人ですごす。
 魅羅の幸せな誕生日はこれから…。



 11月15日。
 Double birthday
 Happy birthday mira & kaede.........
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