初恋の終わり。そして…
「さて、俺は帰るぞ」
 そう言って好雄は立ち上がり教室を出ようとした。
「お、おいって、待ってくれ」

 俺はどうにもならないこの問に対して答えをださなきゃいけないのだが…。そのために
こうして好雄を助っ人に-いつもの事だが-しているのだった。その肝心の好雄に呆れられちゃ…。
 終わりだ。
 
 好雄は呼び止める俺に、顔だけこっちを向けて、
「だからなぁ、お前のことだろ?これ以上俺はアドバイスできねぇぜ?
お前もいいかげん考えろ。詩織ちゃんのこと、好きなんだろ?」
「うん」
「なら簡単じゃねぇか、あと少しの時間を全て勉強に費やすしかねぇだろ?」
「……」
「違うか?」
 高校卒業間近にして大学受験という壁が立ちはだかる。俺はそれを乗り越えられそうにないでいるの
だった。詩織と一緒の大学へ行くにはどうしても一流大学へ入学できる学力が必要だ。
 ……だけど俺にはそんな学力はない。詩織の想う気持は強いのだけど。
「だけど、今からじゃ…」
「お前なぁ…。無理と思ったら無理だぞ?人間やる気になれば何でもできる!お前は
この壁を乗り越えなくちゃいけないんだよ。あと少しなんだろ?」
「え?」
「だから詩織ちゃんが行く大学に必要な偏差値だよ」
「少しといっても…」
「あー。もう……」
 そう好雄が言いかけたときだった。教室に入ってきた白衣の。
 …………。
 悪魔。
「ここかしら?この天才科学者紐緒結奈に用があるというのは?」
「そうそう。ここですよ、紐緒さん、まっていました」
 好雄がそういうってことは、呼んでいたってこと?
「へぇ…。あなたね?私に頭の良くなる薬を作れという猿は…」
「っと。あとは紐緒さんに話しな、ちゃんと話はついているから」
「え?」
「じゃぁなー」
 ……そそくさと撤退していったけど…。大丈夫?
「あのう…。紐緒さん?」
 俺と紐緒さんだけが残る。
 俺たちは別に知らないもの同士じゃないし…。
「あなただったわけ?」
「はぁ?」
「好雄君、先日私のところに乗り込んで来たのよ」
「乗り込んできたぁ?」
「そう、大切な友達が大変なんだ。一流大学へいけないと死んでしまう。
俺もそんなの嫌だから紐緒様のお力で彼をどうにか救ってほしいと…」
「はぁ…?」
「事情を説明しろといったんだけどね。それだけは聞かないで、と。本人から直接聞いて欲しいと
言う事だったのよ」
「はぁ…」
 紐緒さんの話が続く。
「それで相手の名前はときいても好雄君答えないじゃない?」
「なるほど…」
「で、今日、この時間にここへ来るようにって強引だったわ。まったく、この私を呼び出すなんて
一億光年早いんだから」

 …だからそれ光の単位です。紐緒さん。
「で、あなたが一流大学に入らないと死んでしまうという可愛そうな人なのね?」
 ……。気まずい。俺と紐緒さんの中、好雄は知らなかったのか?
「どうもそうらしいけど…?」
「で、その理由は何?私のために大学へ行って研究するから、いけないと死ぬという事かしら?」
「そ、それは……」
「違うのね?とりあえずわけを話してくれないとこっちも協力しようが無いわ」
 俺と紐緒さん。
 高校一年のときから結構一緒にいた。いろいろ行ったりもした。…デートって言うのかなぁ?
 紐緒さんはそんな感じじゃなかったけど。同じクラブじゃなかったけど、何だかんだいって
詩織と一緒にいたよりも、もしかしたら紐緒さんと一緒にいたほうが多かったんじゃないだろうか?
「えっと……」
「どうしたの?私にいえない理由?」
「えっと…」
「ほら、はっきりしなさいよ。私がそういうの嫌いだっていうの知ってるでしょ?」
「……」
「それとも、私と世界征服を争うって言うのかしら?邪魔者は今ここでつぶすわよ?」

 俺はしょうがないから全てを話した。
 一流大学へ行く理由。そして詩織の事も……。



「そう。わかったわ」
 と紐緒さんは一言。

 俺たち二人しかいない教室で、机を挟んで向き合う二人。
「残念だけど、あなたには協力できないわね」
「え?」
「だから、協力できないっていってるでしょ?」
「……」
「当然じゃない?なんで私があなたと藤崎さんの仲を取り持つためにしなきゃいけないの?」
「……」
「くだらないわね…。私は帰るわ」
「あ、紐緒さん…」
「何?」
 鋭い視線が俺を凍らせる。
 何もいえない、何も出来ないでいる俺をよそに紐緒さんは帰っていった。


 …一人残された俺は虚しく帰宅した…。
 帰宅して自分の部屋でぼーっとする。
 机に座って窓の外を見る。
 詩織の部屋が見える。
 
 ……電話のベルが俺を襲った。
「はい、もしもし」
『おう、俺だー。好雄様だ。どうだ?この俺様の完璧な計画は?』
「何が完璧だよ…」
『あん?失敗…か?』
「ああ、失敗だよ。紐緒さん協力できないって」
『マジかよ…。お前何紐緒さんを怒らせるようなことしたんだ?』
「別にそんなことしてないさ。わけを言えって言うからおれは全てを話しただけだ」
『で?』
「で?じゃない。それだけだよ」
『それだけか……。しょうがない、男だったらきっぱりあきらめろ』
「え?お、おい…。好雄……」
『じゃぁな…』
 ……切られてしまった。
 好雄からも見捨てられ、俺は終ったかな?
 さて、さっさと寝よう……。
 そして学校。
 つまらない授業が始まって、そして終る。
 好雄とか、詩織とかとは話したくないな…。
 そして、放課後。
 俺はそそくさと帰り支度。

 詩織は帰り支度しているし、好雄は……。あれ?もう帰ったのかな?まぁいいや、帰ろう…。
 
 廊下へでて紐緒さんの教室へ差し掛かったとき、ちょうど紐緒さんが出てきて
「あら?帰るのかしら?ひまならちょっと寄ってかない?」
 そう声をかけられたので、俺はただうなずいた。

 そしてついたのが紐緒さんのいる科学部の部室。
 三年生だし、別にクラブに出る必要はないんだけど。
「さて、まぁ、あなたは別に部員じゃないんだからゆっくりしてなさい。他の部員なんていないけどね」
 そう言って困った顔をする。何でも紐緒さんが振り回して他の部員を辞めさせてしまったようだという
ウワサは本当だったようだ。
「はぁ…。どうも…」
 そう言って紐緒さんの近くのイスに座る。
 紐緒さんはPCを立ち上げて何やらやっている。
 俺はそんなのわからないからただ黙ってみているだけだった。

 しばらくして紐緒さんは口を開いた。
「もう少しよ。もう少ししたら世界制服の野望がかなうのよ…。そうしたら、
大学なんて無意味なものなくしてあげるわね」
「そ、そう…」
「もう少しよ。私が世界征服したらあなたにも少し分けてあげるわ」
 ……。マジですか?
「そ、そう…」
「どこがいいか今から考えておきなさいね?」
「は、はぁ…」
「まぁ、実感湧かないでしょうけど、いい?卒業までには野望を成し遂げるわ」
「そ、そうですか…」
「ま、いいわ。あなたのポジションはすでに決まっているから」
「は、はぁ……」
「さて、チェックOKね。これが完成すればほぼシミュレーションも完成するわ。
ありとあらゆる私が野望を達成させようとするためにおきる障害のシミュレーション。
ふふ……。それを全て取り除けば私は、私の野望が!!ああ、燃えてきたわ!」
 ……完全に逝っちゃってますが…?
 そんな圧巻の紐緒さんに俺は何一つ話せないでいる。

 ……PCのモニタはわけのわからない言葉がスクロールしていく。
 全部アルファベットだから俺にはわからない。
 いわゆるPC言語だろう。
 ゲームとかはするけど、そういうのはわからない。
 PC持ってないし。……。
 ……れ?
 ………一瞬漢字で俺の名前があったようだけど?
 気のせい?
 
「終ったわね。じゅんび完了よ。楽しみにしてなさい…」
 ……。
「さて、お待たせ。帰りましょうか?」
「う、うん…」
 ……俺を何のためにここへ連れてきたんだろう?
 俺は画面の中に俺の名前があった事を気にしていた。
 もしや、それを気がつかせるため?
 ……そういや俺にも分けてくれる〜なんていっていたからそれで名前が入っているのかな?
「ねぇ、紐緒さん?」
「何かしら?」
 PCをさっさと終了させて戸締り確認をしている彼女を呼び止めた。
「さっきの中に俺の名前があったと思うんだけど、気のせいかな?」
「……見たのね?」
 …やっぱり気のせいじゃなかった?
「まずかった?」
 しばらく考えて。
「まぁ、いずれわかるからいいでしょう。確かにあなたの名前があったわ」
「そ、そう…」
 俺はそれ以上突っ込む事が出来なかった。
「戸締りもしたし、さぁ、帰りましょう」
「うん」

 そして、俺たちは帰宅する事に。
 帰り際、紐緒さんはこんなことを俺に言った。
「そのうちわかるわよ」
 ………。
 その後俺は猛勉強したのはいいけど結局一流大学には受からず。
 紐緒さんとはその後数回外で会ったりした。

 詩織とは……。
 何も無く。
 卒業の数日前、「いい幼馴染でいようね」ってどん底に落とされて。
 
 詩織への恋は終った。
 初恋…。

 俺の初恋はここで終ったのだった。
 きっと俺は新たな恋をしてもこの恋は忘れることは出来ないだろう…。
 そして俺は恋をする事はないだろう……。
 

 そう思っていたのだが、新たな恋はすぐ近くにあったりしたのだった。

 なんだか知らないけど紐緒さんが俺に決闘を挑んでくるし。
 どうにか勝つことが出来たけど、いいのかなぁ?こんなので?
 最後に紐緒さん、「進むべき道が決まった」とか言ってたけど。
 何だろ?


 そして、卒業式。
 俺は差出人のない手紙を受け取ることになる。

 『伝説の木の下で待ってます』

 
 そして。

 そこに待ち受けていたのは詩織よりもっと身近にいた紐緒さんだった……。
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あとがき

なんか勝手にキャラが動いてくれました…。
ところでこれ何が書きたかったんでしょうなぁ…?
はじめは詩織がメインなはずだったんですが、
なんだか知らんけど紐緒さんが勝手にあれよあれよと動いてしまいました。

さて、なぜ紐緒さんが協力しなかったのか?
もうおわかりですね。