結奈の気持
「え〜今から?」
「そうよ。何か問題でもあるのかしら?」
「好雄と……」
「何好雄君?」
「そう。遊ぶ約束が…」
「私野望とどっちが大切なの?」
「……」
「いい?これは命令よ。早く部室に来なさい。いいわね。
来なかったらあなたの命は無いわよ?」
「わかった…」


 そう電話を切ってはぁ、とため息を1つ。
 科学部の部室に一人いる紐緒結奈。
 当然学校には結奈以外の人間はいるはずも無い。
 そう。
 今日は元旦。
「何やってるのかしらね…」
 机の上には二段重ねのお重。
「私が彼のためにこんなもの作ってくるなんて…」
 そういって結奈は一人で顔を赤らめた。
 校庭を眺めている結奈には彼を待つ時間は長かった。

 校庭には当然誰もおらず、雪がタンゴを踊っていた。
「今年で卒業なのね…」
 やっとこれで私の野望が達成できるんだわという思い。
 そして、それとは対照に名残惜しい想いも。
「…」
 腕組して時計をちらりと見る。
「何やってるのかしら?」
 彼の家からならそうかからないはず。
「私の命令を聞かないはずは無いわね…」
 そういって、ふふっと不敵に笑う。
 そして、教室をうろうろと…。
 時計を見たり椅子に座って、足組みして、机を中指で叩いたり。
「長いわね…」
 結奈にはそれが何時間も経っているかのような気分だ。
 ふぅ…。とまたため息をつき、自分に落ち着きましょう、そう言い聞かせるかのように、
コーヒーを飲む。
 備え付けのコーヒーメーカー。
 窓の外を見てコーヒーを飲む。
 雪はタンゴどころではなく、かなり降ってきたようだった。
「雪が降ってくるとは誤算ね…」
 何か暖かいものをー、そう思う結奈ではあったが、ここにはコーヒー以外には暖かいもの
は見当たらなかった。
「まぁ、しょうがないわね…」
 コーヒーを飲み干し、手にもったマグカップをもてあそぶ。
 じっと見ていた、窓の外に、黒い人影を見つけた。
「やっと来たわね…」
 そう言って少し嬉しそうに微笑む。
「さぁ、早く来なさい。そして、あなたは驚く事でしょう。ふふふ…」

 しばらくして。
「紐緒さん、入るよ?」
「さぁ、どうぞ」
 そういって、彼が入ってきた。
「遅いじゃない」
「ごめん、この雪でさぁ…」
「まぁ、しょうがないわね。とりあえずコーヒーでもどう?」
 そう言って結奈は彼に差し出した。ありがとうといってそれを受け取り飲む。
 その表情は極寒の地から救われた遭難者のような感じだ。
「で、用ってなに?」
「これよ」
 そう言って目の前にあるお重を指差した。
「…何かの研究につかうの?お重だけど…」
「違うわよ。ほら、いいから明けてみなさい」
「変な煙とか出てこないだろうね…」
「安心しなさい。元旦くらい研究とは離れなさい。や、休みくらい必要でしょ…」
 結奈はそういうと俯いた。
 彼は両手でその重箱を開ける。
「うわー。どうしたのこれ?」
「おせち料理よ?」
「……変なもの入っているのかな?」
「な、何よ。何もはいっていないわ。さぁ、どうぞ」
 彼は戸惑い気味。
 ……。他の人の料理は食べられて私のは食べられないって言うのかしら?
 結奈は当然しっていた。虹野さんの弁当を食べているところを・・・。
「さぁ、毒も入っていないし、人体実験なんてこともないわ。さぁ…」
「う、うん…」

[どうかしら?」
「おいしいよ、紐緒さんがこんなに上手だったとは…」
「み、未来の部下に対するねぎらいよ…」
 そう言って結奈は赤くなった。
「おいしい」
 彼は心からそう言っている。
 結奈は感じた。いつも一緒にいる彼のことだから、そんなことはわかる。
「そう、よかったわ」
 心から、そう思った。
 そして、彼が世界征服への邪魔となりえるということも……。   
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