優美の初詣
センパイ、初詣行きましょう」
「え…ごめん。ちょっと用事があるんだ」
「え〜、じゃあいいよ!!優美、お兄ちゃんと行くから!!」
 バタン!と優美はセンパイの家の玄関の扉を閉めた。
(ふんだ!どうせ優美は子供ですよ!知ってるんだから。
センパイが藤崎先輩の事が好きなこと)

「あ〜あ、なんで優美、もう一年早く生まれなかったのかな…」
 と独り言。今日はセンパイ卒業最後の年。優美はもう一年あるのだが
 憧れのセンパイとはもう会えないかもしれない。そう思うとがっかりしてしまう。
 まあ、お兄ちゃんの親友だからきっと会えるかな?と思うこともある。
 センパイは藤崎詩織センパイのことが好きで色々アプローチを仕掛けているらしい。
 お兄ちゃんが言っていたのだ。
「でもな。藤崎先輩が相手じゃ、優美には勝てないな…」
 藤崎詩織は容姿端麗、スポーツ万能、友達も多く人気もあると火の打ち所がまったくなかった
 それに比べて優美はまだ子供っぽく、お兄ちゃんの影響もあったせいかカワイイと言う印象
のほうが強かった。
「とはいったものの、お兄ちゃんは如月先輩と初詣に行ちゃってるもんな」
「しょうがない、優美一人で行こう」
……
・・…


ーで神社に到着。
「うわーすっっごい人…」
 周りは親子連れやカップルでいっぱいだった。
「いいな。優美もセンパイと一緒に…あれ?あれって藤崎先輩。ということはセンパイもきてるんだろうな」
 詩織の周囲を見まわす。
(あれ?センパイいない。一緒じゃないのかな?)
「どうしたんだろう?」
 と不思議に思いながら詩織の方に近づく。
(どうしたんだろうセンパイ、用があるって言てたからきっと詩織センパイと一緒だと思ったのに?)
 ときょろきょろしてみていると

「あ、優美ちゃんじゃない。初詣にきたの?」
 と詩織が優美に話し掛ける。あ〜あ、みつかちゃったと思いながら
「はい。一人なんですか?」
 とさりげなく聞いてみる。
「ううん、メグが来てるはずで、待ち合わせしてるんだけど、メグ、美樹原さんのこと見なかった?」
「いいえ、見てないです。ええと…そうじゃなくって…あのう……」
「なあに?どうしたの、優美ちゃん」
「いえ、何でもないです。そう言えば今年卒業ですよね。やっぱりするんですか?えっと……告白」
「え!どうしたのいきなり。なにかワケがありそうね」
「……」
「…なんかメグもこないしちょっとお話しようか?」
「え、はい……でもいいんですか?美樹原先輩との約束。」
「まあ、大丈夫だと思うよ。用事があるからこれないかもしれないっ言ってたから」
「そうなんですか」
「じゃあ、公園にでも行きましょうか」
 二人で近所の公園にやってきた。
 優美はのことが好きだということを詩織に全部話した。
 もしかすると藤崎先輩に怒られるかもしれない、と言うことを覚悟の上で。
 お兄ちゃんにも言っていないことを。
「そう。優美ちゃんは君のことが好きなんだ」
「詩織先輩は好きじゃないんですか?」
「え、私?私はただの幼馴染なだけよ。べつに特別な感情はもっていないから安心してね」
「え、それほんとうですか?本当に本心で言ってるんですか?優美を傷つけたくなくって言ってるんじゃなくて?」
「え、私がそんなこと言ってどうするの、優美ちゃん。
君はそう思ってるかも知れないけど、私には別に好きな人がいるから」
 優美はほっとしていた。一月の寒い風が公園を吹き抜けて行く。
 緊張していた優美にはちょうどいい風だった。そのおかげか。いつもの優美に戻っていた。
「そうなんだ、よかった〜。優美、藤崎先輩が相手じゃ、、絶対勝てないもの。」
「うふふ、まあ、そう言うことだから優美ちゃんも頑張ってね。私応援するから。」
「はい、優美がんばるね。きっとセンパイのハートに恋の矢を射止めてみせます。」
「それじゃあ、君の好きな場所を教えてあげるから一緒に行ってごらん。
優美ちゃんも楽しめるはずだから。ええと…隣の市にあるひびきのタワーって言うところで結構眺めがいいのよ。」
「へえー、そんなところがあるんだー。でも、どうしてそんな所を」
「うふふ。ひ、み、つ。」
「よし、じゃあ、早速センパイを無理やり引っ張って行くぞ!!」
「あ…あんまり無理しないようにね、優美ちゃん」
「どうもありがとうございました。優美がんばります」
「それじゃあ、頑張ってね」
「よし早速誘ってみよう」
 と、優美は絶対にセンパイに恋の矢を射止めるぞ、と心でかたく決めたのだった。


 と詩織とわかれて家に向かう途中にいきなり聴きなれた声で呼ばれる。
「あれー。おまえ、優美何やってるんだ、こんなところで。もしかして砂場あそびか?」
「ぶー。もう、お兄ちゃんったらー。優美ボンバー、食らわすぞー」
「ひえー、恐ろしや!!」
「で、どうしたの、優美ちゃん?」
 とやさしいいつもあこがれてる声が…
「あ!!センパイ。どうしたんですか?」

「どうしたもこうしたもないよ。
まったく好雄のやつが『よう。今日良いところへ連れてってやるぜ、女の子選り取り緑だぜ!』
なんて言うから行ってみたらもう、最悪。人だらけで女の子なんか見られるどころか…」
 最悪の顔。
「だからそれをゆうなって、。こっちだってあんなに室内プールに集まってくるなんて思ってもみなかったんだから」
「なーんだ、優美はてっきり藤崎先輩と初詣にでもいってるのかとおもってた」
「それもよかったけどね。好雄の甘い誘惑が…」
「あれー、おまえ詩織のこと、好きだったんじゃないのかな?」
 詩織に聞こえないように小声でいう。
「ったく。おれが好きなのは、ゆ……」
「ゆ?おまえ、まさか優美に気があるのか?まあ、違うんならおれがアタックしちゃおうかな?藤崎さんに」
「もう、おまえには如月さんがいるだろう」
「おうおう、そうだった、未緒がいたんだよ。おれには」

(よかったーセンパイが詩織先輩のことただの幼馴染だって。
優美にも、チャンスはあるよね。でもさっきの「ゆ」ってきになるな)
「そうだ、センパイ、今度の日曜日に一緒にひびきのタワーに行きましょう」
「え、いいよ。えっと今度の日曜日ね。よし一緒にいこうね優美ちゃん!!」
「やったー、センパイとデートだ」
「こら優美、まったくの迷惑もかんがえないで」
「ふんだ、優美お兄ちゃんには頼んでないもんだ」
「まあ、いいって。好雄。けっこうかわいいところがあるしな」
「おまえ、まさか本当に優美のこと……本当に……」
「センパイ、途中まで一緒に行きましょう」
「おう。行こう」
 と優美とは楽しそうに歩いて行くのだった。好雄の答えには答えず、
いや、この時点で答えていたのだろう。
「おいおい、お前がおれの弟かよ?」
「おい、好雄こないのかー」
「え、置いて行くなって」
「お前が遅いんだよ」
「しゃーないね…ま、優美とのことだしな」
「んなんか言ったか。好雄?」
「んにゃ。何にも言わん」
「そうか。ならいいや」

「でねー聴いてくださいよー。センパイ」
「え、聴いてる、聴いてる」
(あと卒業まで後すこし。三ヶ月ぐらいだけど、頑張るぞー。
絶対に優美がセンパイのハートに恋の矢を射止めるんだもん)
 と固く誓った1月1日、元旦。きっと寒い冬が終わると春が来るように、
優美にも暖かい恋の始まりを予感させる春がやってくるのだろう。
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