barcy - ishibashi  Present's

        寄り道エッセイ

大森居酒屋ストリート  第拾巻



  その28 井戸端酒屋
 

  日曜日の昼下がり、私の家の軒先は居酒屋になる。

  近所のおじさん、おばさんが気兼ねなく御座に座り、勝手にサワーなりビールなりを飲んでいる。
  何故ウチに集まるようになったのか考えた事がなかったが、この風習は悪くない。

  今日はジョギングを終えたスペイン人が初参戦した。
  彼はリトバルスキー似のイケメンで日本語もペラペラ。仕事は弁護士というたいへん頭のいい高青年だ。
  泥酔したオヤジがくだらぬ質問攻めをしても笑顔を絶やさずウーロン茶を飲んでいる姿を見て、
  思わず惚れてしまった。
  宝山芋麹全量を呑みながら、大森にも良き国際化の波が押し寄せて来ている事を実感した。
 


     その29 ひとっ風呂浴びて 
 

       今年の夏は生涯を通じて一番暑い。
       クーラーは壊れてしまうし、扇風機からは熱風が吹き出る。
       唯一の逃げ場である水風呂に浸かり、今宵も居酒屋へ向かう事にした。

       ビールを飲み干した頃、夏バテ気味の私にシンプルな雑炊が出てきた。
       丸鶏を長時間煮込んだ手間のかかった白濁スープに飯が浸かっている。
       これがため息が出る程美味い。

       男はこういうワイルドで実は手間の掛かった料理に弱いんだと痛感した。
       菊姫の米焼酎が胃壁に染み渡ると、夏の病は何処かへ飛んで行ってしまった。
       帰り道で安田忠夫と遭遇した。
       シラフなら逃げるが、酔った勢いで固い握手を交わす事ができた。
 


  その30 あがってますよ。
 

  夏空から記録的な大雨が降ってきた。
  車道は雨水で川となり、傘では全く歯が立たない。

  雨宿りがてら昔通った居酒屋へ傾れ込んだ。
  お店の中央には生け簀があり、刺身の鮮度が抜群である事を主張している。
  が、いらぬ魚も泳いでいて気になってしょうがない。

  今の時期は赤烏賊が美味い。
  真っ白の身はネットリと甘く、エンペラの明太和えの食感もまたイイ。
  広島の賀茂鶴は思惑通り魚介との相性がグッドで、
  岩牡蠣や〆鯖と合わせると危険すぎる程イケてしまい、エンドレスである。

  カリカリに揚がったハゼの天麩羅を噛り、その揚げテクニックに酔い痴れた。
  とっくに雨は止んでいるのに‥。
 


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