寄り道エッセイ
大森居酒屋ストリート 第拾一巻
その31 見事なり。
珍しい地酒を手に入れると行きつけの居酒屋へ持っていく。
すると珍しい酒をサービスで飲ませてくれる。
こうした地酒の生態系が確立している店は他では殆ど見かけない。
上喜元と東力士のPV版を持っていくと、今夜は川鶴大吟醸が出てきた。
好適米オオセトで醸した純米もたいへん評判がいいが、まさか大吟を口にできるなんて‥
久しぶりの川鶴に心踊らせた。
この酒自体男の強さを感じさせるが、大吟はさらに誇りと潔さと願いが上乗せされていて美しすぎる。
歴史上最も美麗と言われる那須与一の放った一矢そのものの味わいだ。
舌上で歴史絵巻が広がっていった。
その32 少年老い易く…
口コミで知る居酒屋にダメ店舗なし‥
こんな言葉を信じ、期待を膨らませる酒呑みは年を取っても少年である。
今夜は超Aクラスの居酒屋に侵入することができた。
管理の良い地酒&焼酎と各地の郷土料理を揃え、どれもこれも旨そうで生唾モンだ。
噂の琉球スギの刺身は見た目は勘八を思わせるが、脂が少なく繊維質でカンパより美味。
烏賊ポッポ焼きは肝をたっぷり使った豪快な丸焼きで肴の王様と言えよう。
安くで量もあり、味にも抜かりがない‥。
これで儲けがあるのか?と余計な心配をしながら焼酎朝日とをヤる。
チェイサーに麦酒を飲む姿に、もう少年の面影は無い。
その33 どうとでも料理してくれィ!
焼酎をよく知り、焼酎をこよなく愛する若い店長がいる居酒屋へ向かった。
一杯目の麦酒以外は殆ど彼にお任せしてしまう程、私は彼を信頼している。
まず出てきた凪海は麦なのに強烈なパンチのある焼酎で、
存在感のある酒を愛する私に完璧にハマッた酒である。
チーズたっぷりのシーザーサラダやピザにも、訳の解らぬ鶏のソースカツとも
絶妙に噛み合うのが恐ろしい。
次は芋焼酎純黒、さらに金の露。忙しい中、常に笑顔で、常に攻撃的に勧める焼酎は、
やはり同じ酒でも他店とは違う味わいがするものだ。
帰り際、彼と初めて名刺交換をすると、妙にドキドキしてしまう私がいた。