寄り道エッセイ
大森居酒屋ストリート 第拾弐巻
その34 これも愉しみ
決して清潔とは言えぬ店内で、私服で働く親父が一人バタバタとオーダーをこなす。
カウンターに大皿が並び、照りののった汁なしの煮物が注文を待っている。
これが大森一の筑前煮である。
具材は鶏と根菜で極めてオーソドックスなのに何故か奇跡的に美味く懐かしい。
たまに口に入る煮崩れた小芋が美味いこと美味いこと。
岡山の竹林は完全なる食中酒で、この煮物とも白烏賊とも絶妙に絡み合い、酒飲みを官能の世界へと誘う。
郷の誉を注文すると、勝手に冷蔵庫から出して伝票に付けてくれと言われ吹き出しそうになった。
もっきりにギリギリまで酒を注ぐのは以外にも楽しい。
その35 危機意識って必要だよね
レア物の焼酎と泡盛を看板に掲げる居酒屋がある。
大森ではここでしか飲めない、を謳い文句にしていた泡盛を、最近オープンした目の前の
大きな居酒屋が、同じものを安く提供していたと聞いて主人は動揺を隠し切れない。
会津娘は純米クラスでも十分香りが高くゴージャスな気分にさせてくれる銘酒だ。
この酒と三浦の地蛸をかじりながら、彼とこの危機ついて真剣に語り合うのも以外に楽しい?ものだ。
この狭い大森で、酒や料理のパクり合いが水面下で行なわれている。
商売とはまったく非情ではあるが、大森の居酒屋レベルが向上していくのは素晴らしい事ではないか。
その36 はァー・・・
虫歯は人間の大敵である。旨い肴、輝く地酒があっても感動は゛無゛に等しくなる。
激痛のあまり数年ぶりに治療に行くと、歯周病と多くの腐歯があると診断され驚愕した。
酒を飲み、ゴロリと布団に入る怠慢生活が大事な口内を蝕んだのだ。
今日は豪勢な松花堂を肴に思天坊を飲んだ。
しっかりとした淡麗辛口で、かなり飲みやすい新潟酒である。
しかし、飲めば飲むほど血の循りが良くなり、痛みが増し、陶酔から現実へと引き戻される。
折角の蟹甲羅揚げも台無しだ。
規則正しい生活と歯磨きは酒飲みと言えど怠ってはならない。
日本酒ではアルコール消毒などできないのだ