寄り道エッセイ
大森居酒屋ストリート 第拾五巻
その43 秋への道連れ
いつの頃だったろうか、晩夏を告げる頃、秋刀魚を刺身で食べられる様になったのは‥。
いまや定番となった秋刀魚刺をツマミながら、流通の進歩に感謝し、
現代人でよかったと由利正宗に語りかける。
脂ののった魚にはキリリと辛口の地酒を合わせたい。
奥播磨、さらに麓井へと魚一匹に地酒の豪華リレーで対抗する。
まったく贅沢な秋刀魚だよ‥こんなに地酒を道連れにするなんて。
町では夏の最後のお祭りが盛大に開かれていた。
子供達に混じって真剣に「きりぬき」で遊び、鰻釣りに歓声を上げた。
名残惜しいけど、もう秋はそこまでやって来ている。そう、地酒の秋だ。
その44 縁結び。
地鶏キムチをアテに丹沢山を大事に飲んでいると、
酒の好きそうな無精髭の調理長がカウンターから飛び出してきた。
お薦めの酒を聞いて出てきたのが「醸し人九平次」。
私と愛する彼女を結びつけてくれた思い出の日本酒である。
久しぶりに最高の大吟に出会ったと自信満々に思い入れを語ってくれると、
何故か自分が醸したお酒のように嬉くてしょうがない。
そんな酒談義をしているうちに彼と仲良しになり、友と呼べる様になる。
酒縁って本当に素晴らしいなぁ。
今夜は一杯のつもりだったのに4杯5杯と‥
また彼女に怒鳴られそうだが、九平次のせいにすれば怒れまい。
その45 多様性があればこそ
酒蔵で働く友に再会した。
少しやつれた表情で、ガラにもなく上司に気を使っている。
何となく彼の背中から蔵人?の匂いを感じ取り、仕事にやっと慣れてきたんだなぁと安心した。
福井の越の磯地ビールはたいへんクセがあり、シロートが飲んでも理解できぬ代物だ。
大手の安くて飲みやすいビールを、何の疑問も主張もなく体内に注ぎ込む消費者たち。
私もその一人なのだが、酒に強烈な個性が無きゃ味覚の空間も狭まり、
飲食がつまらなくなるってもんだ。
仕事が終わり、大森一゛生゛の安い焼肉屋でスーパードライをがぶ飲みしながら、
地ビール業界にエールを送りつつ、反省をしてみた。