barcy - ishibashi  Present's

        寄り道エッセイ

大森居酒屋ストリート  第拾七巻



  その49 Dreams come ??
 

  私の人生を変えた一人と言ってもいい「醸し人九平次」の社長、久野九平治氏にお会いする事ができた。
  大きな体に屈託の無い笑顔。酒質と同様に、たいへんダイナミックで魅力的な男である。

  来年にも居酒屋を出店し、いづれ招待すると真剣に誓うと、
  彼もまた真顔になって頑張れ!と力強い握手をしてくれた。
  なんて熱き醸造家なんだろう。

  何度も握手をしていると、まるで夢が現実化していく様な錯覚に陥って、
  家に帰っても興奮が覚めない。
  この勢いさえあれば直ぐに出店できるぞ!
  酒を飲み、デカい事を言う輩を馬鹿にしていたけど、今夜の私は馬鹿者に他ならない。
 


     その50 揺らいだ振りさ。
 

      傲慢調理長のいる居酒屋に寄ってみた。
      料理の事に関しては絶対的に譲らない偉そうな男だが、
      実はピュアで努力家であると容易に感じとれる。

      手取川大吟の香りを楽しんでいると、彼が私にこの店で働かないかと勧誘してきた。
      何を以て私という人材が欲しいのか知らないが、下に見られた様で妙に気分が悪い。

      羅生門はちと苦手な酒で、一口呑んで顔をしかめると、
      彼は直ぐ様サービスで雑賀原酒を出してくれた。
      気の利く男だと感心し、この店で働こうかと心が揺らぐ。
      こんな心境になるのは、手取川があまりにも繊細で、きまぐれな女性の味がしたからに違いない。
 


  その51 ちょっと重いかな
 

  地酒業界の若手のホープである久慈氏の説明を受けながら南部美人を飲むと、
  楽しく美味しく幸せ空間が広がり、快調に酒が進む。

  脂ののったインドマグロと本マグロ、バチ鮪をあれこれとツマみ、
  酒も特純、純吟、大吟と合わせてみる。
  地酒と鮪のパンチでデートといった感じか。

  シャープな味の八海山ビールをチェイサーに島根の李白へと展開した。
  李白社長を目の前に飲む酒は本醸造なのに何故か吟醸香がして不思議だ。

  力強い筆字で彼が「李白は一斗詩百編」と描いてくれた。
  数十年地酒に魂を注ぎ込んだ男の気迫の文句に、私はただ黙って考え込むしかなかった。
  凡人に李白は語れまい。
 


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