寄り道エッセイ
大森居酒屋ストリート 第拾八巻
その52 転職した友の店へ-1
友人から久しぶりに手紙が来ていた。
本業の築地の仲買人を辞め、居酒屋の店長になったとの仰天告白が記されていて、
私は腰を抜かし、すぐ様伺う事にした。
顔に似合わぬ洒落た雰囲気の店内で、縦横無尽に動き回っている彼の姿を確認すると
私も心が弾んでくる。
宮崎地鶏ときびなご料理が充実している情熱系焼酎居酒屋で、
店内は元気な掛け声が響き渡り、活気に充ちている。
この国は本当に不景気なのだろうか‥と疑ってしまう程、生き生きとしていて気持ちがいい。
これぞ居酒屋の原点なり。今宵はこの店で馬鹿になろう、と潔く腹を決めさせてくれた。
その53 転職した友の店へ-2
日向夏サワーで高ぶる気持ちを抑えていると、お薦めのきびなご刺が運ばれてきた。
丁寧に手開きされた身から、ピカピカと新鮮光線が放たれ、眩しくて直視できない。
鰹の効いた土佐醤油にサッと通し口に放り込むと、
コリコリと身が反発してきて、めちゃくちゃ美味い。
小生意気な雑魚達にまず一本取られた。
宮崎地鶏の叩きは、炭火で香ばしく皮目が焼かれ、まるで筋肉質の美女を喰っている様で、
罪悪感に苛まれる。
薩摩茶屋で懸命に証拠隠滅を計り、なんとか罪から逃れた。
芋焼酎ときびなご、日向鶏の三角関係は、
酒飲みを官能のどん底まで突き落とすミステリーサークルである。
その54 転職した友の店へ-3
焼酎屋であっても日本酒が欲しくなるのは、東日本の侍にとって当然の成り行きである。
あまりにも角煮が美味く、手間のかかった逸品なだけに、最高の酒と合わせたくなるのだ。
メニューにゃ無いがダメモトで注文すると、滋賀の浪の音と三重の妙の華が現れた。
ありがたい‥。
酒飲みのわがままにサラリと答えてくれる事に感動を覚え、涙を堪えながらゴクリと呑み込んだ。
これが旨口系の絶品酒で、角煮に乗っかった味噌と合うこと合うこと。
柔らかな豚と優しい日本酒のハーモニーで私は角煮と同様にとろけそうになった。
もうどうにでもしてくれ‥そんな気持ちにすらなった。