barcy - ishibashi  Present's

        寄り道エッセイ

大森居酒屋ストリート  第弐拾巻


  その58 オンステージ
 

  友人に誘われ、スナック系居酒屋を訪れた。
  マンションの一室にあり、一見さんお断わり。不気味な看板はあるものの、
  客を迎え入れようとするムードなどさらさら無いようだ。

  恐る恐るブザーを鳴らすと、中から小綺麗な女性と友人が現れホッとした。
  私が参上するって事で用意された酒が稲花純米。
  千葉の地酒は若干イメージが悪いが、ソフトな呑み口で実に美味しい。

  贅沢な丹波の黒豆をツマみながら、人のカラオケを聞いている。
  すると何だか無償に血が騒いできて、いつの間にステージで山本譲二を熱唱していた。
  伊勢海老の味噌汁が出てきて今夜は看板。いつの間に店から追い出されていた。
 


     その59 別世界
 

      伊豆大島の友がホームパーティに招待してくれた。
      電車と船を乗り継ぎ3時間。以外に近いtokyoのパラダイスである。

      豪邸での豪勢なイタリアンに度肝を抜いたが、
      私の土産の東一、九平次の美味しさで逆仰天をさせようと企てる。
      ホタテ香草焼、鮭のテリーヌ、ローストビーフと金持ちにしかできぬコース料理を肴に、
      九平次を合わせてみる。
      すると皆が溜め息と共に歓声を挙げた。

      なんて美味しいお酒なんでしょう‥!

      さっきまで見えていた美しい富士が闇に消え、下田の町灯りと満天の星空が大島を彩る。
      舌中で純米吟醸を踊らせると、ここは天国なんじゃないかと目を瞑り、一瞬眠ってしまった。
 


  その60 こんなモンですけど
 

 居酒屋の定番メニューである大根サラダ
 大根をスライスしただけで工夫も手間もかからない。なのに大森で絶大な人気を誇る。

 こんなもんにお金を払ってまで食べたくないのだが、連れの大根への執着心に負け注文してしまった。
 器からはみ出そうな程高く盛り付けられた真っ白な千切り大根。
 安い食材がさらに安っぽく見えて仕方がない。小馬鹿にしながら口に運ぶと、

 ん?‥美味い!

 梅風味のドレッシングにマヨネーズが絡まり、シャキッシャキッと音がする。
 頑固な大根の悲鳴が居酒屋中に響き渡った。
 一仕事を終え天狗舞を飲み干すと、歯茎に程よい疲労感を覚え、爽快な気分になった。
 


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