barcy - ishibashi  Present's

        寄り道エッセイ

大森居酒屋ストリート  第弐一巻


  その61 うれしいねエ
 

  生ビールを飲みながらメニューを睨んでいると御通しが運ばれてきた。
  薩摩芋チップに隠れていたオカラを口で溶かし、日本酒リストに目を移す。
  すると、いつもはサワーばかりを注文する彼女が、私を差し置いて熱燗を注文しびっくりした。

  誇らしげに猪口に並々と酒を注ぎ、黒豚胡椒焼きと合わせている光景は、
  長い間育ててきた娘が、晴れて成人式の舞台を迎える時の心境に思え、涙がこぼれそうだ。

  締めの鮭炒飯が実に美味しくないので、炒飯に関しては煩い私は、
  あーだこーだと能書きが止まらない。
  飛良泉の冷やを呑み、話題を変えるかに思わせ、再び炒飯談義に拍車をかけた。
 


     その62 鍋の季節だよ
 

      仕事を終え自転車を走らすと、
      あまりの疲労感と寒さで戦意を喪失し、居酒屋で鍋が食べたくなった。

      本年度初の鍋なだけに、最もスタンダードなもつ鍋に決めた。
      葱やら白菜やらがグツグツと赤味噌に汚染され、早く食べてくれと誘ってくる。
      猫舌の私は、取り皿に臓物を盛り、遠目で冷めるのをジッと待っている。
      お預けを食らった飼い犬の様で格好悪い。

      初鍋ついでに初ヒレ酒にも手を出した。
      高温の湯呑みからヒレを取出し、掻き回し、豪快に火を付けアルコールを飛ばす。
      このヒレ酒の儀式を店長から教えて貰い、得意気になっている彼が偉そうで、
      私のハートにも火がついた。     



 

その63 呑んじゃうとな〜
 

 最近の私は、ヘルシーな酒飲みとして認識されつつある。
 生野菜を必ず注文し、多量の酒を頂く時は、合間にウーロン茶をねじ込む。

 何より健康に効果的なのは、飲む前に飲む豆乳である。
 これにより胃壁がコーティングされ、完全武装の私は、翌日の仕事など頭に過らず、
 酒と肴のみに集中できる。

 今夜は川鶴オオセトから始まり、磯自慢、月の輪とがっぷり組み合った。
 安価で旨い豚耳ピリカラ和えなどたらふく飲み食いし、居酒屋を出る。
 ふと気付くと、何故か定食屋で炒飯を食べていた。

 月の輪で満腹中枢が狂い、炒飯に胃壁バリアを破壊され、
 明日の体調の事を考えつつ、憂欝な朝を迎えた。
 


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