寄り道エッセイ
大森居酒屋ストリート 第弐二巻
その64 良菜賢女
居酒屋でダブルデート。
どっちのカップルが熱々なのか、どっちの彼女が出来がいいか、水面下で勝負する。
刺盛りを平らげ石狩鍋が煮えると、直ぐ様私の彼女が皆の皿に取り分け、
雑炊が炊けるとやはり彼女が動いてくれる。
出来の良い妻を持ったようで、よしよしと心で褒め称え、気分良く酒とトークに集中する。
久々に明鏡止水をスイスイ飲んでいると、板長が見知らぬ地酒を出してくれた。
兵庫の香住鶴である。
繊細な山廃、香り控えめな吟醸の二本は、
古き良きニッポンの女性の気品を感じさせ、こんなオンナになってくれと願わずにはいられない。
酒飲みはオンナには煩いのだ。
その65 オトナは黙って?
オトナの居酒屋とは‥ふと考える事がある。
静かな雰囲気を重視する店なのか、はたまた高級感があればオトナのそれなのか‥。
今宵は私の価値観においての大森一オトナの居酒屋に行った。
真澄を飲みつつお薦めメニューを覗き込むと、何とも怪しいホタテ刺が200円で売られていた。
しばし絶句し注文すると、やはり微妙な鮮度のホタテが出現した。
酒と一緒に生唾をゴクリと飲み込み、ホタテを口に運ぶ。
200円なら納得?の味がした。
二口目までいかなかったのに、翌朝やはり強烈に腹を下す事になった。
この価格なら文句は言えず、ただ黙って自分を責める。
これぞオトナの酒場のスタイルなのだ。
その66 瓢箪から伊蔵
友人の仕事を軽く紹介しただけなのに、彼から高級そうな菓子折りと、
何やらお酒らしき箱を頂戴した。
蓋を開けると、なんと幻の芋焼酎森伊蔵が姿を現わした。
苦節二年‥、毎月の電話抽選にもれ、酒屋巡りも功を奏さず、諦めかけていた伊蔵ちゃん‥。
こんなルートで入手できるとは、世の中とは全く解らぬものである。
このビッグアイテムを手にし、独立開業への志が益々高まった。
本屋に駆け込み、分厚い経営者読本を購入し、珍しく読み始めた。
これからやらねばならぬ作業が山積している事に気付くが、
この焼酎を入手できたという自信があれば、何とかなる筈だ‥。