寄り道エッセイ
大森居酒屋ストリート 第弐四巻
その70 竹葉の友-4
快く酔えた居酒屋では、必ずご飯ものまで手を出し、物語を完結させるものである。
過ぎ去りし晩秋を惜しむかの様な栗ごはんで、今宵は幕を閉じたい‥
そんな計算をしていたが、既に完売であると告げられた。残念無念。
仕方なくおにぎりを注文すると、ふっくらと握られた飯に、極上のお吸物が付いてきた。
酒飲みは何より汁物に弱い。
特に魚系旨味スープにめっぽう弱く、岡山の酒一筋を放っておき、ひたすら汁一筋である。
御通しから始まった一連の酒絵巻が頭を過り、今宵も旨かったと店主に感謝した。
帰りぎわミカンを頂戴し、この店の家族の一員になった気分だ。
その71 ごちそうサマ-1
友人が結婚し、晴れて大森に新居を構えた。
そんな幸せな二人に鍋でもやろうと誘われて、独り者の私は戸惑いながら新居へと向かった。
くまプーに囲まれたラブリー空間は、私には眩しすぎ、若干浮き足立ったものの、
スーパードライで我を取り戻した。
奥に進むと、新郎さんの出生地である青森県六ヶ所村の地酒「六趣」と、
熱々の寄せ鍋が用意されていた。
名前の響きも美しいが、飲み口も綺麗で飲み飽きない酒で、軽く一本空けてしまった。
柔らかく煮えた白菜や魚介は、プロの料理には程遠いものの、凄まじく美味く感じる。
お二人の愛のスパイスが効いているからであろう。
その72 ごちそうサマ-2
熱々の二人が作ってくれた熱々鍋に猫舌鼓を打ちつつ、六趣を空けてしまった私に、
新婚旅行のお土産を恵んでくれた。情熱の豪州ロゼワインである。
純白のウエディングドレスを着ていた花嫁さんが、思い出の旅行で、
ほのかに赤く染まって帰って来ました‥なんて報告の意味があるのであろうか。
金粉が浮くロゼで乾杯し、結婚式のビデオを観る事にした。
普段では見られぬお二人の緊張した表情は、実に新鮮で、
゛梅の宿しぼりたて生゛といった感じで初々しい。
私も早く結婚して、彼らを自宅に招き、
鍋と金粉入りの大吟醸でも振る舞いたいなぁ‥と、真剣に構想を練ってみた。