第参三巻 

  その97 逆鱗おやじ 

 地酒の扱いには特に煩い親父がいる居酒屋に入った。

 まずは十四代の燗から始まり、翠露天青九平次と展開していく。
 驚くことに亀泉のモロミまで飲ませてくれて、
 シュワリとフレッシュな味わいのおかげで、3才は若返った気分になった。

 テーブルの上に沢山の利き猪口が並んでいるので、
 友人がモッキリ受けの木の桝に酒を移したら、奥から親父が飛んできた。

 桝に移したら木の香りが付くからダメだ!

 親父の逆鱗に触れ、盛り上がってたテーブル席が一瞬で静寂に包まれた。
 ごめんよ、親父さん‥。
 追加注文をしてた大きな薩摩揚げが彼の拳骨に見え、しばし誰も食べようとはしなかった。
 


  その98 背筋が…。

 行き慣れぬ゛高級゛串焼き屋を訪れた。
 女将の落ち着いた笑顔にホッとしつつ、琴の音色に耳を傾けると、やはりソワソワしてしまうものだ。

 麦酒で肩の力がスッと抜けた頃、粒の大きな砂肝が出てきた。
 砂肝が唇に触れた瞬間に、上質の天然塩の甘味を感じ、
 そこらの串焼き屋とは格段の違いがある事を認識した。
 歯応えのあるハツは実にジューシーで、文句なく東京一の称号を差し上げたい。

 一度やってみたかった久保田の紅寿、碧寿の呑比べをして幸せを噛み締めていると、
 メインの鶏あわびがやって来た。
 肉質は蚫そのものだが、鶏冠であると聞かされ、衝撃と共に鳥肌が立ってきた。
 


 その99 今日の〆は!

 70種もの地酒を試飲し、記憶も飛び、クタクタな筈なのに、懲りずに居酒屋へ向かう事にした。
 獺祭のぬる燗の絶妙な温度に衝撃を覚え、この店にカリスマ燗師がいる事が容易に解った。
 冷やで注文した喜平治は、菜の花の苦みにそっくりで、
 かつて何処かのお年寄りに教わった文句を思い出した。

 冬の間じっとしていた体には毒素が蓄まるので、春野菜の苦みで解毒するんだよ‥。
 すっかり体調が良くなったところで、日曜限定のカレーライスを注文した。

 麦御飯の上に半熟オムレツ、そこに無菌豚のルゥがかかっていて、全身から涎が出てくる程旨そうだ。
 酒後のカレーもオツなもんだなぁ。
 


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barcy-ishibashi  2003