第参八巻 

  その112 こりゃ満点!-2

 天麩羅の合間合間に食う関鯖刺、銀鱈粕漬けも堪らなく美味い。

 これでもかって位、脂の乗った両雄。
 天麩羅に主役の座を奪われまいという主張が素直に味に反映されている。
 力強い富志美、艶やかな南が名脇役を演じてる‥。

 今や希少のギンポーを若手が割いて持ってきた。
 「この大きさのは滅多に入らないんだよねー」自慢げに話す親方の口振りが素敵すぎる。
 たった3本のギンポーを丁寧に揚げ、出してくれると思ったら、
 何故か隣の客に全部食べられてしまった。甘かった‥。

 居酒屋には、通いつめる事で喰えるモノがある。
 親方は黙ってそう教えてくれたのだろう。
 


  その113 見せるんだったらサ

 微酔いのまま、創作系居酒屋に傾れ込んだ。
 全席掘り炬燵でぐるりとキッチンを取り囲み、従業員の動きが手に取るように分かる。
 早速、気になる焼酎の利き酒セットを注文した。

 芋、黒糖、麦など5種の蒸留酒が並んでいるが、コレといって美味い酒は見当たらない。
 お薦めの臓物のソース煮が案外さっぱりしてたので、地酒に飛び付く事にした。

 長野の水尾は、キチンと仕事をする真面目な公務員の味わいで、
 臓物の臭みも、ソースの酸味もキレイに拭き取ってくれた。
 調理場のまな板が少々汚くて、O型の私だが気になってムズ痒くなる。
 オープンキッチンは嫌いじゃないが、汚れていては意味がない。
 


 その114 さらば青春(淋)

 仕事が終わり、我が店の従業員の送別会をする事にした。
 思い起こせば一年程前、何も解らずずっと緊張していた無口な女の子が、今や頼れる一人前の従業員。
 生ジョッキを次々に空けながら、思い出話に花が咲いた。

 田酒をチョコチョコやり出す頃、やっと落ち着いて彼女の表情を見れる様になった。
 アレッ?こんなに綺麗な子だったっけ‥。
 涼しげな目元が、実に清潔感があり、ラグビー部のマネージャーをやってる学園のアイドルのようだ。

 今までお世話になりました‥そう言い残すと、彼女は我々の前から立ち去った。
 残った男二人は、淋しげに、机上の残飯整理をするしかなかった。
 


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barcy-ishibashi  2003