barcy - ishibashi  Present's

        寄り道エッセイ

大森居酒屋ストリート  第五巻
 


その13 真田幸村のいくさ幟(のぼり)
 

 大森の町が深い眠りについている頃、ひっそりと営業を続ける居酒屋は以外に多い。
 言わずと知れた大型チェーン居酒屋である。

 クタクタに疲れ果てた店長が、引きつった笑顔で客を迎え、マニュアル通りの接客をこなす。
 嬉しくも無くありがたいとも思っていないのに「喜んで!」と言わされている。
 子供達には見せたくない光景である。

 長野の真田六文銭は名前の如く策士の味わい。
 塩っぱ過ぎる浅利酒蒸しでも合わない筈のカクテキとも何故か飲めてしまう。
 山形の「くどき上手」も素敵だが、この「いくさ上手」も捨てがたし。

 真っ赤な朝日が幸村の赤装束に見えた。
 


     その14 狙いは定めて(笑) 
 

       一度訪れた居酒屋に、半年ぶりに訪れると様変わりしていた。
       以前の印象では冷凍食品を数多く扱うつまらぬ店に過ぎなかったのに、
       板前のこだわりなのか料理が一変していた。

       川海老唐揚げが美しい手長海老に、さらに新鮮な薩摩地鶏刺もメニューに加わり客を飽きさせない。
       今宵の『あさ開』はチト甘く感じるが、きびなごの塩気で丁度いい。

       「東西南北(にしこち)に 散らすべからず桜花  吉野の桜も散ればみぐるし」

       こんな文句を化粧室で見付け、妙に慎重になってしまう自分の生真面目さに驚いた。
       居酒屋とは自己発見の場でもあるのだ。
 


  その15 油断大敵あなどるなかれ!
 

  長い間探し求めていた酒にやっと出会う事ができた。
  今話題の四国の雄、悦凱陣である。
  なんとも華やかで宝塚の男役スターのような感慨である。

  それに比べ奥播磨はシティーボーイズ。
  腹巻をした売れない芸人、或いは葉巻を吸う若造の味がする。なんともアンバランスな奴だ。
  なんて偉そうに飲み続けていると事態は急変する。

  常温に近付くにつれ奥播磨は肴を引き立て、彼もまた引き立っていく。
  なんて美味い酒なんだろう‥。

  うつけと罵られてた信長に討たれた今川義元の二の舞だ。
  本質を見極める努力を常に持っていかねばいつかは殺られる‥ごめんよ奥播磨。


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