barcy - ishibashi  Present's

        寄り道エッセイ

大森居酒屋ストリート  第七巻


その19 草の根ってヤツでしょうか。
 

 韓国の友を持て成す。今夜は北海道系居酒屋へ足を踏み入れた。

 北朝鮮との内紛、さらにトルコ戦での敗北等々‥悲しみに塗れた彼だが、ビールを飲んだら上機嫌。
 実は何も気にしてないらしい。
 チャンチャン焼きや八角の味噌焼きが現れると、当然私はポン酒モードだ。

 十四代は異国の左党に一度は飲ませたい酒である。
 一口二口含むと不思議そうに「日本酒じゃないみたい!!」と目を丸くしている。
 sakeは美味しいものなんだと力説するのも妙に愉快だ。

 2件目のカラオケでも秋田の両関と演歌で日韓の親睦を深めた。
 外交には美味いお酒と『コブシ』が必要なのである。
 


     その20 そこに…いる男 
 

       極限まで度数の上がったリキュール達が目の前に立ちはだかっている。
       バーとは一流の酒飲みへの挑戦状だ。潰すか潰されるか‥。

       ふと、冒険家植村直巳が甦った。
       ウオッカベースの限りなく強いヤツ、とオーダーした。

       バーテンダーにお任せドリンクを注文するのは初夜を迎えた新婦の心境に若干似ている。
       今夜はあなたにお任せするわ‥ってなもんだ。
       しかし腰抜けバーテンダーは私にあまりにも甘ったるく、度数の低いカクテルを差し出した。
       折角の初夜気分が台無しである。

       どうせ潰れるならマッキンリーのような荘厳で美しく険しい酒で潰れたい。
       アラスカで見たあの頂は今も忘れられないのだ。
 


  その21 めぐる想い
 

  男は夢を語る動物である。酒を食らい大口を叩く輩は数知れない。

  数ヵ月前に知り合った親友が遂に酒蔵で働くという夢を叶えた。
  もう29にもなる男が一から酒造修業をする。なんて無謀でなんて美しい話だろう。

  今宵は秋田の天の戸を囲んで最後の酒宴とあいなった。
  酒蔵ではおよそ十年間は下働きをして、その後少しづつ自分の酒を造らせて貰える。
  ずーっと先の話なのに、遠足の前の日の様なウキウキ感が湧き出てくる。

  ローストビーフを肴に十年後の自分についてふと考えてみた。
  美しい妻と可愛い子供達、そして大きな冷蔵庫。
  私もまた夢を語る動物である。
 


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