barcy - ishibashi  Present's

        寄り道エッセイ

大森居酒屋ストリート  第九巻


  その25 なんてこったい!
 

  大森の夏は暑い。
  何もしなくてもジワリと汗が滴り、徐々にスタミナを奪い去る。
  連日の如く麦酒で全身を潤さなければ、酒飲みは生きてはいけまい。

  大森で生まれたスーパードライは業界を席巻し、遂にナンバーワンのシェアを獲得した。
  大森っ子である私はそれを誇りに思いつつ、今夜も居酒屋で発泡酒を注文していた。

  キムチ炒飯を食べながら、お酒へと展開しようと思っていたのに
  「UGS」なるネーミングのドリンクに引かれ注文してしまった。
  ウルトラ元気君サワーの訳らしく、栄養ドリンクの焼酎割りと聞いて仰天した。

  世の中には常識ってモノが存在するが、この廃れた居酒屋には全く通用しない。
 


     その26 サドンデス 
 

       飲み放題。
       二時間でどれだけ元を取れるか、居酒屋とのデスマッチ(真剣勝負)である。
       巷じゃ、飲み放題メニューに名もなきヘボ酒を提供してくる認識不足の店が多い中、
       真澄純米を出してくれるのはありがたいの一言だ。

       コースのメインは刺身の盛合せである。
       なかなか新鮮な魚介を使っているのに、盛付けがあまりにも貧相でがっかりした。

       和泉元弥はイケメンだが、舞台では華やかな衣裳で魅せるから客はお金を払うってもんだ。
       節子ママ云々もそうだが、主人公が引き立つ演出はどの業界にも必要なのだ。
       肴が無ければ酒も進まぬ。
       奮戦したが元は取れぬ‥今宵は負けを認めた。
 


  その27 ほどほどですか。
 

  居酒屋は不変ではない。どんな時代にも柔軟に適合する所に魅力があるのだ。

  最近流行のハニートーストがあり肴として注文した。
  分厚い食パンが焼いてあり、シロップとバニラアイスが乗って出てきた。
  甘くてサクサクしていてなかなか美味しいが、明らかにツマミには不適格である。

  日本酒にも黒ビールにも合わない。が、モスコミュールには何故か合うのに驚かされた。

  しかし今夜の大山は辛い辛い。
  甘目の肉味噌の掛かった丸茄子もポン酢でいただく鮪の湯葉包みも歯が立たない。
  私のトークは辛口だが、酒はソフトな旨口がいい。
  何でも程よく‥がいいのだ。
  翌朝、夏空にハニートーストが浮かんでいた。
 


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