ちょうどその時乗馬を楽しんでいたテンガ国の王、アワン・べドはこのみすぼらしい少年が森から出てくるところに 出くわしたのです。アワンはこの子が息子だとは夢にも思っていません。 「おまえはどこからきたんだね?」とアワンは聞きました。子供が答えました。 「僕は森の中からきました。」 「何をしにきたのか?」とアワンが尋ねると 「ぼくは闘鶏をしたいのです。」と男の子は答えました。意外な答えに少し驚き 「ほう、何を賭けるつもりなんだね?」とアワンが聞きました。 「僕は貧乏なので、なにも賭けるものはありません。」と少年は答えました。少年の鶏は痩せていました。 王様は子供の無謀な賭けに微笑みました。少年と闘鶏をしても勝つだろうと王は思いました。 「どうだろう。この国の半分を賭けるというのは?」 と自信たっぷりに、アワンは言いました。少年は両親を探しに町へ行きたいと思っていましたから、 この申し出を受けました。もし闘鶏に勝ったら父親に会えるだろう。でも、もし、負けたらどうしよう。 その時は死のうと少年は思いました。 「わかりました。」と少年は言いました。 闘鶏が行われることになると、たくさんの人達が闘鶏を見ようと集まってきました。 王の側の準備が出来るころ、少年も用意が整い、自分の鶏の羽をなでました。人々は興奮してはやし立てました。 ところが、アラーの神の思し召しにより王は負け、人々はしーんと静まり返ってしまいました。 みな王の顔が曇るのを悲しそうに見まもっていました。 「よし、少年よ、この国を取るがいい。」と王は言いました。すると少年は 「王様、私は王国は欲しくありません。何か食べたいだけなんです。」と言いました。王様はほっとしました。 そこで少年はデビの所に連れて来られました。デビは少年を観察しました。少年はいい顔をしているが、 着ているものは古くて粗末なものでした。話し掛けようかどうか迷いましたが、結局、話し掛けることは出来ませんでし た。たくさんおいしいものを食べさせてもらい、一そろいの服を着せてもらうと、この少年は森に帰っていきました。
−8− |