ジョホールのある村に暮らしていた王家の子供たちのお話です。
ラジャ、ペテリ、そしてペングルブキットという三人の兄弟は、とても仲が良く、
どこへ行くにも、なにをするにも三人一緒でした。
ある晩、ラジャは奇妙な夢をみました。村中がへびだらけになって、手のつけようが
ありません。夢の中で、二つに分かれた小川が現れました。その小川は、太陽の沈む方角に
ありました。水は清く土地は涼やかでした。ラジャはその小川に強く心を惹かれました。
次の日、ラジャはその夢の話を二番目の弟ペテリと末の弟ペングルブキットに打ち明けまし
た。ラジャは夢を見てからしきりに胸さわぎがしていたのです。
「その夢は、この村が災難に見舞われるというお告げではないでしょうか」とふたりの弟は
顔をくもらせて言いました。「何かが起きてしまってからでは遅すぎます」
三人は相談の末、先祖から受け継いだこの村を出る決心をしましたが、悲しみと不安が募
り、しばらく黙り込んでしまいました。しかしぐずぐずしてはいられません。
いつ何時村人に災難が降りかかるかもわからないからです。

村を出る決心がついたラジャは村人を呼び集めました。みんなは、何事かとざわざわ
騒いでいました。村人が揃うと、ラジャは立ち上がり、一同を見渡してから夢のお告げにつ
いて話し始めました。ラジャの話が終わると、ペテリが言いました。
「わたしも、兄や弟とともに太陽の沈む方角へ移動することに決めた。」
村人は驚き、不安におののきました。すすり泣く声があちらこちらで聞こえ、
中には大声で泣き出す人もいました。
「みんなに無理について来てくれとは言わない」とラジャが言いました。
「わたしたち兄弟は村を出ることに決めた。われわれの家族はまだ混乱しているが、
近いうちにいっしょに村を出るつもりだ。」とペテリが付け加えました。
「われわれについて来るという者は申し出てくれ。次の満月の日に移動するから」と
末弟のペングルブキットが言いました。
「満月までによく考えておいてくれ」とラジャが続けました。やがて、集まっていた村人は
うなだれて、一言も口を利かずに帰っていきました。
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