Tuan Duli Kecik  

 トゥアン・ドリ・クチク

                                                


 昔 トゥアン・ドリ・クチクという名の王様がおりました。

 この王様はとてもハンサムな王様で、美しいキラット・ディ・アワンというお姫様と婚約していました。

 しかし婚約していたとはいえ、二人はまだ一度も逢ったことがなかったのです。

 ドリ王は早く結婚させてくれるようにキラット姫のお父様に何度もお願いしたのですが、

 その度に断られていました。

 「娘のキラット姫はまだ若いから、結婚するのは早い。」と姫のお父様は言うのです。

 「もう何箇月か先に延ばす方がいいでしょう。」と姫のお母様も言いました。

      王様はとてもむなしくなりました。昼も夜もきらっと姫のことを思いつづけ、次第にやせていきました。

 夜になっても部屋では寝つかれなくて、大広間で寝ることにしました。

 そんなある晩のこと、王様がアラーの神に祈りを捧げてから、大広間で眠りに就くと、夢を見ました。

 夢の中で、王様のところへ白いひげの老人がやってきて、しわがれ声でアワン姫をあきらめるようにというのです。

 「ドリ王と結婚するのはパサル・パンジャン・ウビという国のビンタン・べライ姫でしょう。」

 と告げて老人は消え、ドリ王は目が覚めました。

 王はおどろき、急いで夢を打ち消すように何回か祈りましたが、それから明け方近くまでよく眠れませんでした。

 逢ったことも無いビンタン姫の面影がまぶたに浮かんでは消え、王様は姫に逢いたいという考えのとりこに

なってしまったのです。

 しかし、もし夢の事を話したらキラット姫はきっととても怒るでしょう。何年か待つ約束をしているのですから。

 そこでやむを得ずドリ王は黙ってビンタン姫を探しに行く事にしました。

 水浴びをし身を清めて身支度を整えてから米倉 に行って米を大きな器いっぱいいれ、

 台所に行って食べものをたっぷりと準備しました。

 今までドリ王がこんなにお米や食べものを持ち出したことはなかったので、侍女たちはとても驚きました。

 その時、おばあ様が偶然やってきて、孫のドリ王を見てびっくりしました。 

 

                                                                                          

-1-

  つづく