一方の婚約者、バワ・アンギン国のキラット姫はどうなったのでしょう。

ある晩キラット姫は手ボウキが風に吹き飛ばされて行った夢を見ました。着ていた服は引き裂かれ、

長い髪も切られてしまいました。

 目覚めると、恐ろしさに姫は目がはれるまで泣いてから、お婆さまに夢の話をしに行きました。

話を聞き終えるとお婆さまは言いました。

「私の見る所、その夢は婚約者がいたなら、婚約者は人に盗られ、夫がいたら夫が盗られるという意味だね。」

お婆さまの説明を聞くとキラット姫は怒り出しました。大臣にドリ王がどうしているか確かめさせてみると、

ドリ王はすでにビンタン姫と結婚してしまったというではありませんか。

それを知ると怒りに燃えたキラット姫は寝室に駆け込み、べッドの上に身を投げ出し泣き出し
 ました。

宮殿の侍従たちは、姫の嘆きをおろおろと遠くから見守るばかりでした。

 それから暫らくののちです。姫は7つの星をちりばめた着物を着て帽子をかぶり、刀を胸の前に挿しました。

すそを足のところでしばった光る刺繍の入ったズボンをはき、木の鎧をつけた男のようないでたちで東に向かって

歩き出しました。姫は昼も夜もどんどん歩きつづけ、丘を越え、沼地の中を通り、そして、

とうとうタロ・ウビ国に
着いたのです。

宮殿が見えるところまで来るとキラット姫は、遠くから王様が宮殿の廊下でチェスをしているのを見つけました。

チェスは王様の大好きなゲームで一度チェスをはじめると、だれにも邪魔ができないほど熱中してしまうのでした。

それを見ると、王とビンタン姫に対する怒りが、また強く込み上げてきました。

キラット姫はその場所から王様の名を大きな声で呼び、叫びました。

「卑怯もの−!男らしくないぞ−。でてこ−い。」

しかし、その叫び声は王の所には届かず、ビンタン姫に聞こえてしまったのです。

ビンタン姫は宮殿から不審に思いながら出てきました。ビンタン姫を見るとキラット姫は刀を握りました。

「私の婚約者を盗んだのはおまえだね?なぜなんだ?」

   と、キラット姫は怒った声で言いました。ビンタン姫もこれを聞くと頭に血が上り言い返しました。

「取り返せるものなら、とりかえすがいいわ。」

二人は大声で辛らつに言い合いました。ビンタン姫は宮殿に取って返し、刀を持って再び現れ、

さっと廊下から地面に飛び降りる

と、枝の張り出したココナツの木の前に立ちました。

 

つづく 

 

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