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司会者:あー、あの・・・マイクOKですか・・・。え、録音なんかしていない、あ、そーですか・・・はい、じゃあ、はじめましょう、ははは。えー、今回は、宮沢賢治の『注文の多い料理店』をもじりまして(笑)、このような座談会のタイトルをつけさせていただきました。わたくし司会の熊倉次郎です。(パラパラとごくさびしい拍手があがる)。あ、ありがとうございます。さて、単刀直入に本題にはいりまして、この「問題の多い料理店」ということですが、ここにお集まりのみなさんはもうご承知のことと思われますが、これすなわち千元屋さんのことであります。(ふたたび、パラパラとさびしい拍手があがる)。あ、ありがとうございます。もう、あの、この際ですね、千元屋さんに対する不満やクレームをですね、はっきりと言わせてもらいたい、そういう声が実際かなりのところまで高まりまして、今日、このようなかたちにさせていただいたわけですね。 千元屋の主人:おいおいおい、ちょっと待て司会。なんだよ、そういう会なのか。そんな話聞いてねえぞ。 司会者:いや、あの、ですから、こういう座談会という場をこしらえて、普段は面と向かって言えないことも、この際みんなで力を合わせて言おうじゃないかと…。 千元屋の主人:なんだよ、文句があるならその場で言えばいいじゃねえか。大勢集まりやがって卑怯だぞ。 会場のご婦人:だいたいその言葉使いっておかしいんじゃないの、お客様に対して。 千元屋の主人:なんだよ、いつもこうなんだからしょうがねえだろ。うちはそんな気どった店じゃねえぞ。 会場のご婦人:気取った店じゃなくたって、あんたのところはフランス料理屋でしょ、フランス料理屋。下町の寿司屋じゃないんだからもうちょっとちゃんとして欲しいわねえ。 千元屋の主人:なんだと、フランス料理屋だからどうしたってんだ。うちは気軽に酒が飲めて、うまいめしが食える店をやってんだ。なんとかミクニとか、そういうのと勘違いしてんじゃねえのか。(立ち上がってテーブルを叩きだす)。 司会者:ご、ご主人、落ち着いて。ちょっと、テーブルが壊れちゃうでしょ、ほら、やめて。 千元屋の主人:だいたいだな、「ぶらっすりー」っていうのは「居酒屋」って意味だぞ。そんな窮屈な店のつもりでやってんじゃないっての。 会場の紳士:なんだ、そんなこと言いながら客に煙草を吸うなとか、勝手なことを言いおって。 千元屋の主人:お、なんだ、別のやつが出てきたな。煙草を吸うなっていってんじゃないよ、食事中は控えてくれっていうんだよ。ほかのお客の迷惑だし。 会場の紳士:あの晩は、わしのほかに客はひとりもおらんかった。 千元屋の主人:そ、そうかな、そうだったかな・・・ 会場の紳士:そうじゃ、だいたい煙草を吸おうが吸うまいが、わしの勝手じゃ。おい、給仕、灰皿を持ってきてくれたまえ。(と言いながら煙草とライターをとり出す)。 会場のご婦人:あら、ちょっと、やめてくださらない。あたしタバコの臭いって嫌なのよ。近くで吸われただけで、一日中、頭痛がするのよ。 会場の紳士:なにを大袈裟な。煙草くらいで頭痛になんかなるものか。 会場のご婦人:なるわよ。ちょっと、あなた、吸うなら外で吸ってよ。 会場の紳士:なんじゃ、うるさい女じゃ。わしはどこでもいつでも好きなときに煙草を吸うのが信条なんじゃ。 会場のご婦人:はあ、いまどきそんなことが通るわけないでしょ。あなた頭おかしいんじゃないの。 会場の紳士:な、なんだと。 司会者:あ、あのちょっと、そこのかた。議論がそれますのでそれくらいにしていただけますか。 千元屋の主人:おい司会、そろそろ仕込みの時間だからお開きにしてくれよ。 司会者:あ、いや、せっかくの機会ですから、もう少し・・・。 千元屋の主人:なんだよ、今日は仕入れが多くてさ、やることがたくさんあるんだよ。魚もいいのがはいったしなあ。 司会者:あ、そう、その魚に関してですね、こんなクレームがきてるんですよ。なんでもですね、お連れのかたが魚が食べられないということで、みなさんお肉のコースをご注文されたそうなんですね。そのかたのホームページにも書いてありますが、「魚一切ダメだすよ。前菜にのるアンチョビすら食えません」と予約の際にお話になったそうなんです。ところが前菜でいきなりスズキが登場してしまったと。スズキといえば、これはもう立派な魚です。魚がだめだというお客様に対していきなりスズキは、ご主人、やっぱりこれマズイんじゃないですか。 千元屋の主人:へえ、そんなことがあったかなあ・・・。 司会者:あ、しらばっくれてますね。だけどまだつづきがあるんですよ。魚をだしちゃったのも約束破りですがね、問題はむしろそのあとです。そのかたのホームページによりますとね、あー、もう面倒だからそのかたのホームページを読ませていただきますね。「とにかく二人は(魚は)食えないので その事を女給さんに伝えたところ、厨房(丸見え)から『なんだよしょーがねー野郎だなぁ』 とか声が聞こえてきました。『わしらは野郎じゃないですよ?この痴呆野郎』 とか思ってしまいました。」と。ほら、このお客さん、かなりお怒りですよ。だいたいご主人、自分で約束を忘れておいて「なんだよしょーがねー野郎だなぁ」はないでしょ。 千元屋の主人:ははは。なんだよ、そのひと、そんなことまでホームページに書いてんのかよ。まいったなあ、「しょーがねー野郎だなぁ」って、そんなのただの口癖だよ。 司会者:口癖ったって、やっぱりマズイですよ。 千元屋の主人:そうかなあ。 司会者:そうですよ。本来なら謝罪すべき場面ですよ。 千元屋の主人:謝罪ねえ、なんだか大袈裟すぎんじゃねえか。 司会者:いやいや、やはりこういうことはキッチリしてもらわなきゃ。そのかたのホームページの続きを読みますよ、いいですか。「皆はケロっとして食事を楽しんでいたようですが・・・。皆美味しい美味しいと言って食べてました。」 千元屋の主人:なんだよ、それならいいじゃねえか。 司会者:違いますよ。まだ続きがあるんです。そのかたは「その場では何も言わなかったのですが。この店の味は私には合いませんでした。先ほどの暴言の事もあり、『二度と来ねぇ』と心に決めたのでした。」ってホームページに書いてらっしゃいます。 千元屋の主人:ありゃりゃりゃ・・・。 司会者:ほら見なさい。こうしてまたひとり、お客様が去っていってしまうのです。しかもこのかた、「この店の味は私には合いませんでした。」の部分をわざわざボールド(太字)表示にしてホームページに載せてあるんですから、よほど機嫌をそこねてますね。 千元屋の主人:はははは。そりゃあ悪かったねえ。だけどさ、うちは魚介類の料理だって結構真剣にやってるわけよ。お客さんの評判だっていいんだから。 司会者:しかし約束破りは事実でしょ。とにかくですね、お店にはこのほかにも苦情やクレームがいっぱいですよ、ご主人。 千元屋の主人:・・・・・・・・・。 司会者:渋沢(神奈川県秦野市)周辺では、「ぶらっすりー千元屋」といえば、「ああ、あの『問題の多い料理店』ね」って、みんな言ってますよ。 千元屋の主人:おいおい、本当かよ。 司会者:ええ、もう、みんな言ってますよ。フランドールの藤森務君とかね。 千元屋の主人:おい、具体的な名前がでるね。 司会者:ええ、今日は忙しいとかで来ていませんけど。 千元屋の主人:やっぱり、その・・・、みんな怒っているわけか。 司会者:ええ。 千元屋の主人:なんか、最近お客の入りが悪いかなって思ってたんだよなあ。 司会者:ほらみなさい。それもこれも石田さん(注・千元屋の主人の本名)の暴言のせいですよ、暴言の。 千元屋の主人:・・・・・・・・・。 司会者:わかってるんですか。 千元屋の主人:・・・・・・・・・。 司会者:ちゃんと反省しなきゃだめですよ。 千元屋の主人:・・・・・・・・・。 司会者:いったいどういうつもりなんですか。 千元屋の主人:・・・・・・・・・。 司会者:これでいいと思っているんですか。 千元屋の主人:・・・・・・・・・。 司会者:・・・・・・・・・。 千元屋の主人:(急にテーブルを叩きはじめる)。・・・・・ええい、うるせえ! つ、つべこべ言うんじゃねえ。だ、だいたいなんでお前なんかに説教されなきゃならないんだ!(振動でコップが倒れ、水がこぼれる)。 司会者:あ、いや、ご主人、落ち着いて・・・。テーブルを叩かないで。 (このとき店のドアが開き、「いやあ、すっかり遅くなっちゃってねえ・・・」と頭を掻きながら、フランドールの藤森務氏が座談会の会場に入ってくる) 千元屋の主人:あー、むかー!(なおもテープルをバンバンと叩き続ける主人。テーブルに載っていた花瓶が床に落ち、割れる)。 藤森氏:ああ!花瓶が粉々だ! 千元屋の主人:あー、むかー! 文句があるならその場で言えーっ! 藤森氏:・・・・・・・・・? (主人、頭を激しくかきむしりながら、天井に向かい意味不明のフランス語を叫びだす。) 千元屋の主人:あー! ○×□△×○□! ○×□△×○□! 司会者:ご、ご主人、落ち着いて・・・。 (主人、厨房の戸棚からスパゲッティの束をつかみ出し、店内に撒きはじめる) 会場のご婦人:きゃあ! ちょっとあなた、やめなさいよ! 司会者:ご、ご主人! 石田さーん! 千元屋の主人:○×□△×○□! ○×□△×○□! 司会者:ああ、ついに石田さんが壊れてしまった・・・。 (場面変わって店の前。買い物帰りの親子連れが通りかかる。開けたままの店の窓から絶叫と悲鳴が聞こえてくる) 女の子:ママ、千元屋のおじちゃんがまたスパゲッティ投げてるよ。 お母さん:そうねえ、問題が多いのよねえ、この店。 「座談会
問題の多い料理店」おわり |