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≪中央アルプス南部縦走≫

 登頂日2010.10.2〜3日 曇り A子さん、M子さん I子さん E氏 同行
越百山(2613m) 南越百山(2569m)  奥念丈岳(2303m) 袴腰岳(2239m)  浦川岳(2259m)
  安平路山(2363m) シラビソ山(2265m) 摺古木山(2169m) 
    ≪地図≫ 空木岳 安平路山 南木曽岳       ≪三角点≫ 越百山・・三等三角点  安平路山・・三等三角点  摺古木山・・一等三角点
≪1日目≫ 
伊奈川ダム奥の駐車場(9.00)−−−橋のある登山口・3合目(10.00-10.05)−−−展望台(11.50)−−−上の水場−−−越百小屋(12.30)
越百小屋から越百山を往復(所要時間  登り35分 下り20分)

≪2日目) 
越百小屋(5時05分)−−−越百山(5.45-6.30)−−−南越百山(6.50)−−−奥念丈岳(8.30-8.40)−−−袴腰山(9.45)−−−松川乗越(10.25-10.35)−−−浦川岳(11.25)−−−安平路山(12.45-12.55)−−−安平路小屋(13.20-13.25)−−−シラビソ山(13.55)−−−摺古木山(14.50-15.00)−−−摺古木自然園駐車場(16.00)====車回送====伊奈川ダム奥の駐車場(18.00)
所要時間 5時間 休憩込み 1日目 *****4時間30分 2日目 ****10時間55分  ****
   木曽山脈(中央アルプス)の山行記録はコチラにもあります
73才のロートルにはかなりハードなコースだった。

縦走スタート地点の越百山(左)と南越百山(右)
南・北・中央アルプス、八ケ岳という中部山岳地帯において、その主だった稜線上に、おおよそ7キロメートルに及んで満足な登山道のないルートがある。それが中央アルプス南部の越百山から安平路山にいたる稜線だ。
ある程度登山に熟達した者にとっては、一度は歩いてみいという憧れ、あるいは魅力に思いを馳せる希少な縦走ルートでもある。

登山ルートに“バリエーションルート”という呼び方がある。バリエーションとは変化とか多様性の意であるが、登山の場合は難しいルート、困難なルート等をバリエーションコースなどと呼んでいるようだ。

越百山〜安平路山はまさにバリエーションルート、私自身も長年にわたりチャンスがあったら歩いてみたいという思いは抱きつづけてきた。山友のAさんからの今回の誘いがチャンスだった。参加は男2名と女3名。

このルートは北から南へ向かい、途中安平路避難小屋に一泊、翌日摺古木自然園へ下山するケースが多いようだが、我々は1日で越百小屋から摺古木自然園まで踏破するプランだった。かなりの健脚向き日程である。

心配は天気、1日目はまずまずの天気、2日目は雨の確立が高いとの予報。雨中の笹藪漕ぎはやりたくないのは皆同じ。やりたくないというより、雨中の縦走は遭難につながる可能性さえ考えなくてはならない。

≪1日目≫
中央左側が安平路山(南越百山付近から)
山梨県組の3人が飯田市から県道8号で大平宿、さらに東沢林道終点の摺古木自然園駐車場に入り、下山用の車両1台を残して登山口の伊奈川ダムへ向かう。
大平宿から県道8号で256号へ下り、国道19号木曾街道を北上して大桑村から伊奈川ダムの先にある登山口へ。この回送時間は約2時間。

私は長野市からまっすぐに伊奈川ダムの先にある登山者用大駐車場で、山梨県組3人と、石川県からの1人を待つ。
全員そろったところで出発、今日は越百小屋まで標高差1200メートルほどの登りだけ、いたって気楽だ。
談笑しながら今朝沢林道を進み、福栃橋を渡ったところで登山口となる。

急登をを思わせるような勾配はなく、ごく普通の登山道だ。樹林の梢から青空がうかがえる。健脚ぞろいのメンバー、息を荒くすることもなく、のんびりと登っていく。
ときどき合目を示す表示などがあるが、字が褪色していて判読できない。
コメツガだろうか樹相が黒木林に変わってきた。雰囲気が奥秩父山中をしのばせる。

笹薮を進む
勾配が少しづつ増してくる。登山口から1時間50分ほど歩いたところで展望台の表示がある。そこだけ樹林が途切れているが特別な展望はない。

展望台からひと息登ると“上の水場”、水量は多くはないが、必要な量は時間もかからずにすぐにとれる。明日の行動中の分も含めてここで必要量を取水する。越百小屋では500ccが300円とのこと(自炊した人の話)

越百小屋は少し下って越百山とのコルに建っていた。屋根も壁も真っ赤にペイントされてちょっと異質な感は否めない。駐車場からごく普通のペースで歩いて3時間30分だった。
小屋の前からは紅葉に染まりはじめた越百山、その左手に仙涯嶺、南駒ケ岳が眺められる。

明日の天気はどうなるかわからいな。一服してから展望のきくうちにと、越百山を往復してくることにした。小屋からは標高差250メートルほど、35分の登りだった。ガスが出はじめて南アなどの遠望はない。伊那谷や南越百山などが見えるだけ、残念ではあるが、16年前、快晴の山頂で展望は十分に体験済みである。

≪2日目≫
未明、雲の隙間からお月様が見える。安平路山まではなんとか雨はこらえてほしい。
朝食はとらずに5時過ぎ小屋を出発。懐中電灯で10数分歩くと、もう足元はほの明るくなってきた。

早朝の越百山山頂は風が冷たい。くぼ地に身を隠して簡単な食事をとる。登ってくる途中、落し物に気付いたA子さんが探しに行って戻るのを待ち、いよいよバリエーションルートへの挑戦となる。越百山での朝食滞頂は45分ほどだった。

慎重に踏跡を見つけながら
小中川コースを見送り南越百山までは普通の登山道と変わらず、時間的にもわけなく到着。問題はここからである。しかしお互いに力量を知り合っている仲間たち、特にベテランI氏の存在が心強い。

南越百山から行く手を望見すると、奥念丈岳やそのはるか先にはこんもりとしたなだらかな円頂の安平路山が確認できる。いくつもの凹凸を繰り返して行かなくてはならない。
南越百山のピークから下りに入ると藪っぽくなってくる。その藪がやがて笹の藪に変わる。しばらくは道型もはっきりしているが、次第に笹の葉が踏跡をすっぽりと覆うようになる。踏跡を外さないように、細心の注意で脚を運ぶ。

2454メートルピークを越え、その先の安平路山方面の見通せるガレの縁で小休止。上空にはまだ青空が見えるが、崩れを案じて休憩タイムは極力節約、先を急ぐことにする。

二つ三つある小ピークは、いつ越えたのか認識できない。笹藪の道も怪しい部分が多くなってくる。二手に分かれて感を頼りに数メートル進むと道型が見つかって合流、そんなことも何回か繰り返しつつ前進。

奥念丈岳はまだ先と思い、小休止をして再び前進すると15分も歩かずに小さく切り開かれた奥念丈岳の山頂に到着した。
字の消えた板切れが落ちているだけ、三角点標石がなければここが山頂とは確信が持てない。越百山から丁度2時間、まずは予定どおりのペースにほっとする。記念写真を撮ったり、板切れにマジックペンで奥念丈岳2303mと書いたりしてから山頂をあとにした。

奥念丈岳山頂
緊張感の休まる間がない笹薮との格闘をつづけながら、ひたすら脚を運んでいく。ときおり目印の赤布が目に付くが、えてして肝心なところに無いことが多い。明瞭で歩き良い踏跡に出会うと実にうれしい。が、そんな状況はすぐに終わって笹薮漕ぎはまだまだ序の口。
ときに背丈を越える笹、あるいは笹のトンネルであったり、笹海の底を這っているように感じることもある。

道型が途切れて笹を強引に踏み倒し、両手で笹を束にして体を引きずり上げながらの登りもある。この全身運動による体力消耗は激しい。
ときおり樹幹に古びた板切れが見える。かつての道標の名残りだろう。そんな板切れでも大きな安心感を与えてくれる。

袴腰山を越え、笹薮はますますいやらしくなってきた。青空が見えているのが救いだ。
笹海の中には休憩できる場所もない。大きく下った笹斜面の鞍部、ここが松川乗越らしい。この鞍部で笹を尻に敷くようにして休憩、疲労感は強いが、誰も弱音は吐かない。しかし「もうこのコースは歩きたくないね」の声に本音が聞き取れる。まったく同感だ。

頭が笹の上に出ているかどうかわからないような笹海を両手を使って泳ぐようにして進んでいく。
浦川岳と思われるピークへの登りは特に厳しかった。笹の下にできた溝状の窪みを、両手で覆いかぶさる笹を押し分け、押し上げ、あるいはつかんで体重を引き上げながら登っていく。息が上がってくる。大変なアルバイトだがここまでくれば天気が崩れようがどうなろうが前進しかないのだ。

辛い浦川岳への登りが終わって一息つくと、笹原に立つ枯れ木に古びた板切れが見える。浦川岳の山頂だろう。
その先が嘘のような開けた平坦地で、忌まわしい笹薮もない。汗と体力の消耗に耐えてきた身には楽園のような感じだ。安平路山も近いはず。

浦川岳山頂
その一服感もつかの間、まだまだ我々を解放してはくれない。
樹林を乳白色のガスが流れ出した。雨を呼ぶ風を伴ったイヤな感じだ。安平路山まで行けば整備された登山道となる。何とか早くそこまで早く行き着きたい。

ほっとしたあと、再び笹の道を歩き始めてすぐ、私にちょっとしたハプニング。笹に隠れていた濡れた枯れ木に脚を滑べらせた。あわてて前に手をついたが・・・・顔面に衝撃が。笹の葉に隠れて見えなかったが、先端がささくれた枯れ木の株があった。高さは40センチほど、そのささくれたところへ、まともに顔をぶっつけてしまった。出血、どの程度のケガ?
応急用品を携帯していた仲間に手当てをしてもらい、その後も何の問題もなく行動できたのはラッキーだった。

気がつくと、これまでは見なかった青色のテープがいくつか目に付くようになった。
安平路山への最後の登り、相変わらず笹海はつづき、道型不明瞭な所もあるが、とにかく高い方を目指していけば間違いなく山頂だ。幾分右側から巻き上げるようにして高度を消化していく。
ついに待ちに待った安平路山山頂。お互いに握手を交わしあい、長く困難な道程を乗りきった喜びと健闘をたたえあった。
充実感、爽快感、安堵感、久々に味わう大きな達成感だった。

笹海の中で休憩
ここまでコースを大きく外したことは1回もなかったのは、見通しがきいたことが大きい。ガスっていたり、ましてや雨だったりしたら、これほど順調に歩くことは出来なかっただろう。

雲行きはさらに怪しくなってきた。風も雨風だ。小雨があったのか笹の葉も濡れている。しかしここまでくれば雨になろうが槍が降ろうが構わない。とにかくこれまで天気が持ちこたえてくれたことに感謝、感謝だ。

安平路山からは13年前に歩いた道、あれは摺古木自然園から安平路山往復だった。いとも簡単に往復したという記憶しかないが、当時秘峰に分類された山も、今は登山道が格段に改善され、一般のハイキングコースと何ら変わるところはない。
それにもかかわらず、安平路避難小屋、シラビソ山、摺古木山と歩く行程が、記憶よりかなり長く感じられる。足が疲れていることもあっただろう。あのときは安平路山から摺古木山までの下りが1時間20分だったのに、今回はかなり早いペースで歩いたつもりが約2時間かかっていた。

摺古木山での展望は最初から諦めていたが、一等三角点を確認してしばしの休憩。自然園への途中、冷たい沢水に喉を潤し、無事摺古木自然園に降り立ったのは、越百小屋を出てから11時間後の4時ちょうどだった。

「もうこのコースは二度と歩きたくないね」が下山時の全員が洩らした偽らざる感想、苦労の多い縦走だった。しかし充実感もまた言い表せないほど大きなものがあった。

伊奈川ダムの駐車場まで山梨県組のMさんの車に同乗させてもらい、無事この山行を終わることができた。

東沢林道
路面状況の酷さは相当なものです。
セダンで入る人もあるようですが、床高のRV車が無難です。
1994.09.03 摺古木自然園から安平路山往復はこちらへ