追想の山々1077  up-date 2001.07.15

《中央アルプス》
摺古木山(2169m)安平路山(2363m) 登頂日1994.09.03 曇り 妻同行
東京自宅(3.00)===大平宿===摺古木自然園(7.10)−−−摺古木山(8.05)−−−シラビソ山(8.45)−−−安平路小屋(9.05)−−−安平路山(9.35-45)−−−安平路小屋(10.05)−−−シラビソ山(10.30)−−−摺古木山(11.05)−−−摺古木山自然園(12.05)
所要時間 5時間 1日目 ***** 2日目 **** 3日目 ****
   木曽山脈(中央アルプス)の山行記録はコチラにもあります
   中ア南部、汚れなき秘峰を行く=(57歳)
安平路避難小屋、背後の安平路山は雲の中

故郷の山として身近にありながら、その名前さえ知らなかった安平路山。それが山登りをはじめるようになってから、ようやく気になる山としていつも頭の片隅に住みつくようになった。それは日本300名山であり信州百名山でもあった。

信州百名山の完登が終盤に近づいたのを機に、暑さの残る9月上旬、登頂を果たすことになった。
夜明け前に東京を発って中央高速道をひた走る。天気予報に反して雨がしとしと降りつづく。伊那谷へ入ると雨脚はさらに強まってきた。飯田ICから大平宿へと向かう。かつては宿場として栄えた大平集落だが、その役目を終って、20余年前集団移転によって無人となってしまった。
自動車は大平宿から東沢林道へ入り、深い渓谷を遡って登山ロヘ向かった。
2〜3日前の豪雨によって、砂地の林道は路盤が流されて見るも無残に荒れていた。慎重に自動車を進めて行く。落石が道路を遮っている。右は千尋の渓谷、車幅ぎりぎりに辛うじて通過した。  
林道終点には摺古木山自然園休憩舎があって、数台の駐車スペースもある。ここが摺古木山、安平路山への登山口である。  

天気がよければ摺古木山あたりまで一緒に登る予定だった妻を残して、一人安平路山を目指した。  
幸いにも雨は止んだ。上空もいくらか明るくなって来たような気がする。  
道は最初から笹かぶりだった。雨衣の上下を着て出発したが、たちまち笹露が染みて中まで濡れてきた。急登はしばらくで、すぐに平坦なトラバースとなり沢の水場をいくつか通過する。自然園経由と直登コースとの分岐になる。自然園コース1.9キロ、直登コース0.9キロ。 距離の短い直登コースで摺古木山を目指した。
傾斜が急になった道を登り終ると、ベンチのある展望地に出た。振り返ると、恵那山や大川入山が墨絵のように浮かんでいた。南アルプ スの群青色の高峰群も望見される。  

笹かぶりの箇所もあったが、摺古木山までは登山道の整備もされて歩きやすく、1時間ほどで一等三角点摺古木山山頂へ達することができた。雲が多く、期待した大展望は得られなかったが、御嶽山や越百山あたりが雲の上に頂を見せていた。  

摺古木山から先、コースは未整備で、踏跡を拾って安平路山を目指す。  
急な下りを潅木につかまりながら下ると、そこから先は深い笹の道となる。笹の下には確かな踏み跡があるものの、上から見ても道型が見えない。ただ一面の笹原にしか見えない。手で分けたり、足探りでルート を確かめながらの歩行である。よくよく眺めると、かすかに曲折する筋が見える場合があり、その下にルートがある。
大きな起伏はないが、コースは小さな上下を何回も繰り返す。笹丈は腰であったり、背丈いっぱいだったりする。ルートを外さないように慎重な行動にこころがける。

しらびそ山手前あたりが笹が一番深く、 ルートも曲折しているので、しっかり確認して歩く必要がある。シラビソ林に入って笹が薄くなり、登山道がはっきりして来てほっとするとシラビソ山だった。シラビソの幹に古びた山名プレートがあった。

しらびそ山の黒木樹林を出ると、再び濃い笹を泳ぐようにして前進して行く。雲が多くなって淡い遠望もまったく消えてしまった。  
樹林が切れて目の下に安平路避難小屋が見えて来た。笹原の広々 とした鞍部に建つ小屋は、ログハウス風の洒落た造りで、山の一夜を過ごすのに魅力一杯の感じがする。中をのぞいたが勿論だれもいない。
小屋の先が安平路山とのコルで、そのすぐ下に水場がある。安平路山へはここから最後の登りとなる。シラビソ林の急登は結構きついが、笹の茂みもなく、ルートもはっき りしていて安心して歩ける。  
標高差200メートルの急登をワンピッチで登りきると、傾斜が緩んで笹の道に変わる。獣道のような踏み跡が錯綜しているが、適当に高い方をめざして行くと、樹林に囲まれた安平路山山頂へ到着した。
安平路山は原生林の大きな円頂だった。三角点の周りがわずか1坪ばかり刈り払われているだけ。樹木の幹に登山者のつけたプレートが安平路山であることを示している。日本三百名山の一峰にしてはまことに地味な頂であった。
オコジョが現れ、後足で立ち上がって白い前掛けのような腹を向けて、じっと私を見つめていたが、ちょっと身動きしたら薮の中へ姿を消してしまった。
原生林に囲まれて展望もなく、まさに寂峰と呼ぶにふさわしい山頂だった。北の奥念丈岳方面への踏み跡が細々と伸びていた。その道をいつの日か歩きたい。そんな思いを残して下山の途についた。  

下山では笹の道でルートを失わないよう一層の注意が必要だった。摺古木山からの下りで、注意を怠ったためルートを誤ってしまった。下ったり登ったりしているうちに、どうしたのだろうか、また摺古木山へ戻ってしまった。我ながらこれには驚くと同時に焦ってしまった。三つ又になっているところで、右へ下って行かなければならないのに、左へ進んでしまったのだった。この左は摺古木山への登り短絡ルートだった。

途中まで登ってきていた妻と会い、登山口へ一緒に下った。  
これが日本300名山の230座目だった。  
安平路山もこのまま笹の刈り払いをせずに放置すると、あと数年も経ずして、一般登山者の近づけない笹薮の山に変わってしまうかもしれない。
2010.10.02 越百山・奥念丈岳・安平路山・摺古木山縦走はこちらへ